霜柱
早朝。武士は朝の鍛錬から帰ってくるなり、嬉々として私に報告した。
「霜柱をやっつけてきた!!」
霜柱ってやっつけるもんだったっけか。
「どいつもこいつも実にザクザクでな! 実に楽しきひとときであったぞ!」
あー、踏み踏みしてきたのね。楽しかったならよかった。
「大家殿も来るがいい!」
えー、やめてやめてやめてよ。私まだ着替えてもねぇのに。
「上に羽織れば良かろう!」
バカ、こんなボロジャージで外出たら一瞬で凍りつくわ。
「それはそれで見たい」
わあ子供特有の悪意のない残酷な好奇心。
というわけで、私と武士は朝の散歩に出ていた。
吐く息は白く、鼻の頭はほんのりと赤い。冷たい空気の中を、私たちは上着のポケットに手を突っ込んで肩をすくめて歩いていた。
足の先が痛い。こうも寒いと、靴底を通してアスファルトの冷たさがしみてくるようだ。
「お、見ろ大家殿。スズメも膨らんでおる」
見ると、数羽のスズメが身を寄せ合って電線にとまっていた。
「某も膨らめば、あの中に混ぜてもらえるだろうか」
混ぜてもらえる条件そこじゃねぇ気がするな。
それからしばらく歩いて、私たちは小さな空き地へとたどり着いた。
「うむ、よかった。まだ残っておる」
ぐるりと空き地を見回して、武士がうんうんと頷いている。が、すぐにこちらを振り返った。
「行くぞ大家殿!」
おうよ!
そして、二人で霜柱の残る空き地へと踏み出した。凍って柱状になった地面を、どんどん靴で踏み荒らしていく。
風情も何もあったものではないが、足の裏のザクザクとした感覚が何とも言えず楽しい。どんどん踏む。
あーーーーストレス解消!!!!
「現代社会の闇が晴らされる所を見た」
最後の武士の一言だけは、余計だった。




