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武士がいる  作者: 長埜 恵
2.武士がいる
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甥っ子の話プラスワン

 そういえば書き損ねていたんですが、先日甥っ子を預かってた時に例の警官殿に会ったんですよ。武士の筋トレ仲間の。以前武士に職質してきたあの人。

 うちの部屋も狭いですからね、育ち盛り暴れ盛りの三歳児をとどめておけるはずもなく。甥っ子と武士と私の三人で近くの公園に散歩に行く道中、巡回中のお巡りさんにばったり出くわしました。


「どちらの子で?」


 開口一番がこれだったので、この人も相当天然なのかもしれない。


「大家殿の姉上のお子である! どうだ警官殿、見目麗しかろう!」

「ああ、大家さんお姉さんの。利発そうな子ですね」

「そうだろう、そうだろう! ほれチビ殿、ご挨拶をするのだ!」

「おはよー!」

「おはようございます」


 元気一杯の三歳児の挨拶に、少々強面の警官殿の顔が緩む。甥っ子は、興味津々といった様子でじーっと警官殿を見上げていた。


「おまわりさん?」

「はい、おまわりさんです」

「ぱとかーは?」

「え?」

「ぱとかー!」

「ぬ、確かに警官殿はぱとかぁに乗るものだからな。どうだ警官殿、この子にぱとかぁを見せてやってくれぬか」


 目をキラキラとさせて、二人は警官殿に詰め寄る。

 ……そういや、家を出るまで『はたらくくるま』の絵本を読んでたもんな。警察官といえばパトカー。今の二人の中ではそんな方程式ができあがっているらしい。

 しかし対する警官殿は、困った顔をしていた。


「すいません、今自分は自転車でパトロールしていまして。パトカーには乗っていないんです」

「ぱとかー、ないの?」

「はい」

「……ばきゅーんは?」

「ばきゅーん? ……あ、銃ですかね。すいません、それも見せられなくて」

「……じゃあ、どろぼーは?」

「泥棒かぁ……泥棒も見せられないかな……捕まえても……」


 それを聞き、少しずつ元気を無くしていく三歳児(と何故か武士)である。慌てた警官殿は、親切にもあれこれポケットを探ってくれ始めた。


「あ、なら、これはどうですかね?」


 そう言って、彼はとある物を差し出した。


「これならちょっと触っていいですよ」

「なに?」

「手錠です」


 なんでだよ。


「ぬ、某これは知っておるぞ! 悪しき物を捕らえるものであろう!」

「ええ、そうです」

「本物を見たのは初めてだ! 良かったな、チビ殿!」

「うん? うんー!」


 おチビはよくわかっていないようだったが、明らかにテンションを上げた武士にこれは良い物だと察したらしい。ニコニコとして武士と手錠を触っていた。

 それを見て、警官殿もホッとしたようである。甥っ子の頭を撫でながら、彼は言った。


「喜んでくれて良かった。でも、君はこれを使われない大人になってくださいね」


 それは、私もそうであってくれと願うばかりである。

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