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武士がいる  作者: 長埜 恵
2.武士がいる
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 一瞬の衝撃。

 それからだんだんと頬が痛んできた。


 私は呆然として床に尻餅をつき、先ほどひっぱたかれた頬を押さえていた。


 目の前には、仁王立ちの武士。

 彼は真っ直ぐに私を見据えて、一言こう言った。


「……いや、蚊がな」


 ふざけんなよお前!


「秋口の蚊は厄介だぞ、大家殿! 噛まれれば大いに腫れ上がるからな!」


 それは分かるけどね!

 あれほんとなんでなんだろな。


 いや違ぇよ。今はビンタしたことに対しての話だ。謝れ武士。



 追及すると、ヤツはしれっと答えた。


「某は大家殿の頬を守ったに過ぎん。謝る必要は無い」


 おうおう、私がいないとチロルチョコすら食べられない口で何をほざくか。



 いよいよ摑みかかろうとしたその時、武士の側頭部に蚊が止まっているのを見つけた。


 考えるより先に、思わずビンタ。


 いきなり張り倒された武士は、目を白黒させ床に転がった。


「何をするか大家殿! やられたらやり返すのでは、永遠に戦は終わらんのだぞ!」


 武士が言うとなんだか説得力があるが、こっちだって蚊がとまっていたのである。謝る必要は無い。


「ぐぬぬ」


 ぐぬぬ言うな。


「……して、肝心の蚊は捕らえたのか?」


 武士の疑問に、私は自分の右手を確認する。

 しかし、残念ながらその手は綺麗なままだった。


「大家殿ー!」


 うるせぇ! 賃貸物件で叫ぶな!



 その後二十分に渡り奮闘した結果、無事蚊はお縄となった(私の功績である)。

 どさくさに紛れて互いにしばき倒していたので、翌日の私の顔を見た後輩から「彼女と修羅場でもしました?」と聞かれた話は、墓場まで持っていく次第である。

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― 新着の感想 ―
[一言] どんだけ叩きあったんだよ
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