お月見
さっむぁ!!!!
朝。布団からちょろっと足を出すなり、即引っ込めてしまった。寒い。寒すぎる。
何なの? 気温差スプラッシュマウンテンなの? 加減というものを知らないの?
まあ毎年のことであるが。
「おお、大家殿。お目覚めか」
で、今日も今日とて武士がいた。たくましい上裸を晒し、もっすもっすとパンを頬張っている。
寒くねぇのかな。あー、鍛錬帰りっすか。立派なことだね。とにかくおはよーさん。
「今日はお月見であるぞ! 見ろ、あの澄み渡った空を! 今宵は良い月が見られそうだ!」
ふーん……。
「なんだその鼻から魂が抜けたような声は」
私朝からテンション高ぇ人苦手なんだよね。
「知らぬ」
行ってきまーす。
そして帰ってきた。
「おかえりでござる」
ところで、最近わかったことがあるんだけどね。
武士、何かごまかしたい時は何故か「ござる」って言い出すんだよ。
マジで理由はわかんないんだけど。
オーケー、何したわけ?
「……」
武士の背中で、ガサッとエコバッグが音を立てる。軽い攻防の末、何とか奴の隙をついてエコバッグをひったくることに成功した。
すぐさまひっくり返すと、中から出てきたのは……。
「……月見団子でござる」
まんまるい、お団子であった。
「……実は某、江戸におった頃にも、月を見ながらこうして団子を食べたものだった」
……。
「見ろ、大家殿。月だ。江戸から遠く離れた場所に来たというのに、あれだけは江戸で見たものと全く変わらぬ」
あ、まだエコバッグに何かある。
「不思議だ。きっと某が爺になって儚くなる日が来たとしても、月だけはやはり変わらずそこにあるのだろう」
これ月見まんじゅうか。あ、うさぎまんじゅうまで買ってやがる。
そんでこっちはお月見ゼリー。お月見クッキー。お月見どら焼き。
「ここは江戸とは大違いだ。なのに、月の美しさも花の香も全く変わることはない。某が知るものと同じだ」
そんでお前、月見バーガーまで買ったのか。
「不思議よのぅ……」
ねぇいくら使ったの?
ねぇ食べ切れるの?
ねぇ全体的に賞味期限今日なんだけど。
ねぇ。
「そして月見酒」
うるせぇわ。
御相伴させていただきます。




