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武士がいる  作者: 長埜 恵
2.武士がいる
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親知らずその後

 親知らずを抜いて、大体一週間ぐらいが経った。


 武士は進んで家事や料理レトルト(弁当調達)をしてくれている。そして一年の付き合いともなれば、なんとなく私の身振り手振りで何を言いたいか察してくれるものだ。


「大家殿、肉は食べられそうか?」


 ……。


「なるほど、肉団子なら比較的食えそうとな」


 ……。


「うむ、では今晩はそのような弁当を買ってこよう」


 頷き、武士はアパートを出て行く。そんな彼の背中を見ながら、私は胸にこみ上げるある思いを感じていた。


 実は、もうあんま歯ァ痛くねぇんだよな……。


 多分、あの美女先生はとんでもない名医だったのだろう。治り方がおかしい。早過ぎる。

 いや、勿論まだ違和感はあるんだ。でも全然働けるし、喋れる。

 しかし、武士が甲斐甲斐しく動いてくれるのが楽過ぎて、つい言えなかったのだ。


 何もせずに飯が出てくるって最高だな?


「肉団子弁当であるぞー!」


 あざーっす!!!!


 のーんびり肉団子を食べながら、どう伝えたものかと考える。なんせ完全にタイミングを逃しているのだ。下手したらちょっと怒られる可能性だってある。

 ……どうすっかな。武士が風呂から出てきたタイミングで、両手広げてポーズ決めて「治りましたー!」ってやるか。

 「は?」って感じだな。さっきまで無言貫いてたのに、いきなりそれかよって。治り方がジェットコースターだもん?

 んー……。

 ……武士に祈祷してもらって、それに合わせて治ったふりをするか?

 いや、これもイマイチだ。これでうっかり奴を調子に乗らせようもんなら、次回同じようなことが起こった時にもまず間違いなく踊り狂われてしまう。何の悪気も無い、ただただ鬱陶しいだけの善意の舞を。

 ……。

 なんか、面倒くさくなってきたな。


 おーい、武士ー。


「んんん!? 大家殿! 口がきけるようになったのか!」


 おーう、お陰様でね。もう大丈夫だよ。色々あんがと。


「しかし、それにしては治り方が少々急ではないか? さっきまでゆっくり肉団子を食んでおったのに……」


 あー、それがね。

 ……。

 なんか肉団子食ってたら、治ったんだよ。


「まことか!!!???」


 まことまこと。


「なんと……肉団子にかような効能があるとは! まさか富山の秘薬が!?」


 それは流石に練り込まれてないと思うけど……。


「某も食べる!」


 お前元気いっぱいじゃん。腹減ってるだけだろ。


 こうして、無事に私の親知らず事件は終わったのである。

 武士はこの一週間で、美味しい弁当屋さんをたくさん見つけたらしい。

 一方私は安静にしていたらちょっと太ったので、夕方にランニングをしています。涼しくなってきたから運動しやすいですね。

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