はにゃっ
人間、案外自分の口癖に気づかないものである。
そして、案外他人の口癖は移るものである。
というのも、本日武士に「飯炊いといてー」と声をかけた時のこと。
「はにゃっ!」
なんとも、可愛い元気な返事が飛んできたのだ。
……。
……嘘だろ? 成人男性の返事じゃなくね?
「ぬ、どうした、大家殿」
や、別に……。いや、多分聞き間違いか私の耳が疲れてんだと思う。
まあいいや。武士、ご飯炊いといてくれ。
「はにゃっ!」
やっぱ聞き間違いじゃねぇわ、何その返事!?
どこの萌えキャラ!? 何の影響!? 筋骨隆々の武士が「はにゃ」言うな!
「ぬ? 某そのようなことを言っておったのか?」
言ってた言ってた! なんなら今度録画撮っとくからな! 己の痴態に恐れ慄け!!
「ぬううう! し、しかし、普段からはにゃはにゃ言うておるのは大家殿の方ではないか!」
は!? え!? は!?
……え!?
私が!?
「うむ」
マジすか!?
「心当たりは無いのか?」
……いや、実は無いことは無いんだよ。確かに、「はにゃ」と言った時に妙に口に馴染むなーとは思ってたんだ。
……違う、違うんだって。そんな目をするな。
私普段から武士の返事が移って、「うむ」とか「ふむ」とか言うじゃん。んでさ、「うむうむ」言うにはちょっと堅苦しいかなって思う時があって、そういう時「うんにゃー」とか返すじゃん。
「うむ」
うんにゃー、うにゃー、ふにゃー、はにゃー。
「……」
はにゃっ。
「……」
……。
「……」
直そうな。社会でうっかりまろび出る前に。
「はにゃっ」
うるせぇ。




