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武士がいる  作者: 長埜 恵
2.武士がいる
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制約

「大家殿は、某が住むにあたりセイヤクを設けないのだな」


 ある日、味噌汁を飲みながら武士はそう言った。……セイヤク? 誓約? 製薬?

 あ、制約か。

 何の話?


「いや何、某は時々思うのだ。もし大家殿ではなく、他の者の家に降り立っていたならどうなっていただろうと」


 ふんふん。


「すぐに追い出されてたやもしれん。よしんば置いてもらえても、働くなり、家事なりを要求されていただろう。いや、某もそれに文句があるわけではないのだ。ただ、『住まわせてやっているのだからアレをしろ、コレをするな』と常々言われていたら、きっと窮屈だったろうと思うてな」


 ……。


「しかし、大家殿は何故かそれをしなかった。それどころか何も言わずに寝食の場所を与えてくれ、某が毎日ブラブラするのを許してくれた」


 ……別にただブラブラしてるわけじゃないだろ。

 買い物とか行ってくれんじゃん。洗濯物もしてくれんじゃん。掃除もお前、ドラッグストアで激落ちくんシリーズ買ってきてニッコニコやってくれてんじゃん。

 ご飯も炊いてくれるし、皿洗いもしてくれるし。

 ピザのチラシとか取っておいて、私が体力的にきつい時はドヤ顔で出してくるし。

 そのまんまでいいよ。変に気にしなくても、お前は十分役に立ってる。


「……」


 何。


「そういう言葉がスラスラと出てくる大家殿は、実に稀有な者であると思うのだ」


 いや、だってお前戸籍無いから働けねぇし……。

 よしんば働けても、怪我したら保険証とか無いから大変だし……。

 かといって現代日本で生まれてるわけじゃないから、戸籍作れるか疑問だし……。つーか作ってる間に江戸帰りしそうだし……。


「それでも、金など稼ごうと思えばいくらでも方法があるではないか。ぼてふりとか、ゆーちゅーばーとか」


 んでも、あんまり稼がれると今度は税金的な面で問題が出てくるんだよな。あと働くなら届け出もいるし。そうなるとやっぱ私が大変になってくる。


「……そう、なのか?」


 うん。


「……ぬぬう、日本という国は過ごしにくくなったなぁ……」


 江戸時代と比べて人が増えたからね。

 やっぱ増えれば増えるほど問題が起きやすいし、それに伴って約束事も作られるもんだ。


「それもそうか」


 うん。


「……ところで、何の話だっけか」


 今日から居候である我が身を慮り、毎回ご飯のおかわり三杯はする所を二杯までに収めるって話だよ。


「ぬ、ならば一杯一杯天井に米粒が届くほど盛らねばならぬな」


 お前私が制約設けた所で絶対たくましく生きてくだろ。制約の穴を突こうとするな。

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― 新着の感想 ―
[一言] 確かに、武士がここまで楽しくやれるのはその家だけだろうなぁ。他の家だとどうなってたかは気になるところではある。
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