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武士がいる  作者: 長埜 恵
2.武士がいる
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公園にあるふわふわ

 ちょっと仕事の手が空いたので、有給を取ってみた。

 で、電車を乗り継いで武士とちょっと大きな公園に来たのである。


「暑いぞ!!」


 うん、暑いね。アホみたいに暑い。

 麦わら帽子に穴を開けてそこからちょんまげを出した武士が、ぶうぶうと文句を垂れる。その意見には全く同感だが、今回こうなったきっかけは武士にあるんだから黙っていただきたい。


 公園にある、真っ白なぽよぽよで遊んでみたい――。


 公園に備えつけられたトランポリンで遊びたいという、武士の願い。調べたら、正式名称はふわふわドームというらしい。けれど普段は子供達が遊んでいるので、武士は見るたび涙を呑んで遊びたいのを堪えていたそうだ。

 そこで、私が提案したのである。

 ここ最近の猛暑は、子供にとっても危険な暑さだ。だから、今のタイミングで行けば無人のトランポリンで遊べるんじゃないかと……。


 かくして私の読みは的中した。ふわふわドームのある大きな公園には、人っ子一人見当たらなかったのである。


 だが、子供にとって危険な暑さは私たちにとっても危険なものであるわけで。


「焦げつきそうである」


 本当にな。


 まあ、せっかく独り占めできるんだ。とりあえず遊んでおいで。


「うおおおおおおお!!」


 行ったー!

 いい大人がトランポリンに向かって全力疾走してる!! なかなか見られねぇぞ、こんな光景!


「ぬふぁっ!」


 そんで一歩踏み出すなり転んだ! そのままポヨンポヨン転がってる!


「ぬぬぅ、負けてなるものか! 武士の矜持にかけて!」


 うわー、外に放り出されないように粘った。耐えた。

 頑張ったね。でも武士のプライドってこんな所で発揮されるもんなんだね。私知らなかった。


「ほほほーい!」


 ……。


 ……。


 ……楽し、そうだな……。


 私はというと、屋根つきベンチで休んでいる。それでもクソ暑いけどね。息するたびに熱で喉が焼けそう。


「ぬぅぅ! ほほいっ!」


 あー、でもほんと楽しそう。なんかいいな、ああやってなんでもかんでも楽しめるの。


「どぉぉっ!? ぬぅっ! ほいっ!」


 ほんと、武士って人生楽しそうなんだよな。いやまぁ、働いてないってのはでかいかもしれないんたけど、多分それだけじゃなくて。


「うぬぅ! ぬわぁっ!?」


 たまに、ちょっとだけ羨ましい。なんだろ、ああいう生き方? 捉え方っての?

 そこにあるものを楽しんで、見つけて。なんでもやってみて。


「……」


 いいと思うんだよな。心の余裕というかさ。


「……」

 

 ……。


 ……武士?


「……」


 武士ーーーーっ!!?


 武士は、あまりの暑さにひっくり返っていた。慌てて日陰に引っ張り込み、持ってきていた麦茶を飲ませ、パキッとしたらひんやりする棒で冷やしまくる。


「江戸に帰る前に、仏様に会いに行く所だった」


 うん、やっぱ無謀だったね。ごめんよ。


「だが夢が叶った」


 うん、それは良かった。

 でも、もうこの暑さで遊ぼうとするのはやめような。

 ちょっとしたエクストリームスポーツになっからね。死ぬからね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] エクストリームスポーツの名をここで見るとは…!! いつかエクストリーム出社しようと思ってるんですが、朝マックから始めるのが定石ですかね。 そしてやっぱり癒やされます。大好き。
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