ガチャガチャ
普通さぁ、こういう「ある日誰かがやってきて一緒に住み始めた」系ってさ。
その途中で新キャラとか増えて、最終的に色んなヤツと同居することになってるってのが常じゃん。
「うむ」
なんでうち、まだお前しかいねぇんだ。
「え……知らぬ」
知らぬじゃねぇよ。今160近く話数重ねてんだぞ。そろそろおかっぱ頭の可愛い女の子とか、風呂場で思わぬドッキリ遭遇イベントがあるしっとり系和風美女が来てもいいもんだろ。しっかりしろ。
「気をしっかり持たねばならんのは大家殿の方だと思うが」
あーうるせーうるせー!
もー、同居人ガチャ失敗したなー! チクショー、なんでうちは武士なんだよ! もっといるだろ! あー!
そう言いながら武士に目をやると、奴はなんだか難しい顔をして考えこんでしまっていた。
――ヤベ、傷つけたか。
これはあれか、「大家殿のことなどもう知らぬ!」とか言って出てってしまうアレか。どうしよう。謝った方がいいのか。
でも今月ちょっとヤバイし、可能であればいっそそのまま三日ぐらいヨソで飯をもらってきてほしい。そしたら食費と心に余裕が出て、武士にも素直に謝れる気がするのだが……。
誠実とは言いがたいことを考えている私の前で、武士はゆっくりと顔を上げた。
「……がちゃとは、なんだ……?」
あ、違った。全然落ち込んでなかった。ガチャを知らないだけだった。
え? つーかマジで知らないの? ガチャ。ガチャポン。ガチャガチャ。
「知らぬ」
あ、そう。
んじゃ、今から試しになんかやってみっか。
そんなわけで、私は武士を連れて大型ショッピングモールのガチャガチャコーナーにやってきたのである。
「見たことはある」
でしょうね。
武士はといえば、相変わらず物珍しそうにキョロキョロと見回していた。
やー、しかし昔に比べたら本当色々種類が増えたなぁ。前は100円ガチャが主流だったんだぜ。でも今はもう200円、300円とか全然普通だからなぁ。
「大家殿、これが可愛い」
武士に手招きされて、近くまで行って見てみる。
何これ。座椅子?
「どんぐり殿とにぼし殿を座らせたいのだ」
あ、なるほど。
でもねお前、ダメだよ。これってさ、この内の一つしか入ってないんだよ。
「なんと?」
うん、どれが当たるか分かんないの。
「……ならば、かぶってしまう可能性もあるではないか」
あるね。
「ううむ……これでは、全部出るまで揃えてしまいたくなるな……」
それが狙いだからね。
言っとくけど、私は一回分しかお金は出さないからな。
「……ぬぬぅ」
そうして武士は、あっちをウロウロこっちをウロウロして散々悩んだ挙句、とあるガチャガチャの前で立ち止まった。
「大家殿、これがいい」
武士の選んだ唯一のガチャガチャ、それは――。
――“和の心 仏像コレクションシリーズ”だった。
いや、なんでだよ。
「家に小さき仏像が欲しい」
分からないではないけどさ。
「さんびゃくえん……。仏様にしてはいささか安すぎるが、我らのような身にでも分け隔てなく加護をくださるというわけか……」
武士はぶつぶつ言いながら、ガチャを回す。
出てきたのは、金色の阿弥陀如来像だった。
「某のもとには阿弥陀様が来てくださった!」
とりあえず、武士は喜んだようである。
……しかし、久しぶりに見るとちょっとやりたくなるな。今月厳しいのは事実だけど、私もやって……。
「大家殿! こっちにはドラクエのスライムがおるぞ!」
マージで!? よっしゃ私に任せろ! 明日から毎日鞄につけてやる!
そんなわけで、今私の仕事鞄の取っ手には、スライムナイトのラバーキーホルダーがぶら下がっている。なんか分からないけど士気が上がる気がするので、たまにはガチャガチャもいいものである。
「大家殿! 見事座椅子が出たぞ!」
そんでお前我慢できなくてやっちゃってんじゃねぇか! せいぜい座布団は自分で縫えよ!!




