カレーから始まる徒然話
雨がめちゃくちゃ降ったり、やべぇぐらい暑くなったり。
こうなると、流石の武士とて調子が狂いそうなものである。
「大家殿、かれーおかわり!」
狂えや。
平気で炊飯器空にしてくるスタイルやめろ。
「かれーは実に美味であるな! 暑いと尚更うまく感じるぞ!」
それは分からんでもない。
でもお前ね、普通その言葉はキャンプとかで言ったりするヤツだからね、クーラーガン効かせの部屋で言うアレじゃないから。まぁ猛暑日にそんなことしてたら熱中症になる気はするけど。
あー、カレーうまい。
「しかし、こうまで暑いと何者かの策ではないかと疑いたくなるな……」
ん、何。陰謀論?
拝聴しようか。
「うむ。……場所は富士山」
はい嫌な予感。
「その頂にて、ずらりと並ぶは愛らしき猫ども――その数ゆうに十を超える猫らが、こぞって火を焚きサンマを焼いておるのだ」
へぇ。
……へぇー。
「特に暑い日は、二十匹に増える」
猫が? サンマが?
「どっちも」
そりゃ確かに暑くもなるな……。
「猫らもな……汗だくになりながら、バッサバッサと団扇でサンマをあおいでおるのだ。そう責めてやるな」
責めちゃいねぇよ。
でもなんでそんな場所でサンマ焼いてんの。
「山で食べる食事は美味いからな!」
そういう理由かよ。
おい武士、カレーおかわり。
「お主の方が近いではないかー」
もう私はケツに根が生えてんだ。床から離れねぇ。
「致し方無いのう! その代わり、明日は某の為にサンマを焼くのだぞ!」
えー。
あ、よく考えたらサンマ全然旬じゃねぇじゃねぇか! 解散!
「エレキテルの力で売っておらんか」
知らん……。とりあえず、スーパーに行くだけ行ってみるか……。
「うむ!」
行くことになった。
そして、翌日。
「……」
武士は、魚コーナーを見つめたままじっと動かなかった。
その視線の先は、勿論――。
「……解凍さんま……」
うん、サンマだよ。
ちゃんと間違いなくサンマ。
「解凍……ということは、凍っておったのか……?」
そうだな。
「……つまりサンマは、氷の中でも泳ぐのか……?」
……。
……。
うん。
「なんとぉ!」
サンマってさ、細身だし口とかちょっと他の魚よりとんがってるじゃん。氷を砕きながら、できた隙間に体をねじ込ませてガンガン進んでいけるんだよ。
そうして残った屈強なサンマは、旬の時期にやってくる漁師たちの手を逃れる……そして疲れてきた今の時期に、やっと捕らえられるんだ。
「サンマァッ!! もののふよ……お主こそ誠のもののふよ!」
こいつ面白ぇなぁ。
こうして敬意を評した武士の意向により、結局サンマは買わずに帰ったのであった。




