クワガタ
洗濯物を取り込むべー、とベランダに出て。
隅っこでひっくり返っているソイツを見つけた。
……。
おーい、武士!! クワガタがいるぜー!!
「なんとぉっ!」
武士が飛び出てきた。やめろやめろ! ちょっとこのベランダ、ガタがきてんだよ!!
「おお、これは誠に大きなクワガタであるな!」
だろ。
なーんでこんな所でひっくり返ってるかねぇ。
「壁にでもぶつかったのではないか」
天下のクワガタ虫様が? あれかな、実はちょっと飛ぶのが下手とかあるのかな。
ちょっと調べる。
……おー、クワガタって飛ぶの下手なんだな。どこかにとまる時も体当たり式らしい。
「で、失敗してこうなっておると」
そうっぽいな。
「某、飼いたい!!!!」
言うと思ったよ。
子供かよお前。
え、でも野生のクワガタって飼って良かったっけ? あれじゃん、野生の鳥とかは勝手に飼っちゃダメじゃんか。
えー……。
「おおーっ! ワキワキしておる! ワキワキしておるぞ!」
んーと……都道府県ごとにレッドリストが作成されており……。クワガタは……あ、そうか。クワガタっていっても種類があるのか。
「ぬおああああっ! 危ない! 挟まれる所であった!!」
えー……これなんだ? 種類分からん。助けてGoogleフォト。君に任せた。
「ど、どうすべきか……! しかし、体を元に戻してやったら逃げるやもしれん。某、もう少し見ていたい。ううむ……」
……ヒラタクワガタ?
レッドリストには……あ、載ってるな。そんじゃ飼い方も分からんし、逃してやるか。
「大家殿ーっ!」
ああもううるっせぇなお前はよ!!
おい武士、ダンボールにクワガタ入れて近くの公園行くぞ。逃がしてやんなきゃ。
「ぬぅ、はさみん……」
この短時間で名前つけんな。情を移すな。
はいはい、はさみんにお別れ言いな。
「また来るがよいぞ!」
誘うな! ほんとに来ちゃったらどうすんだ!!
というわけで、逃がしてきたのだが……。
今私は、スマートフォンの画面に表示された情報を前に頭を抱えていた。
「何だと? ヒラタクワガタの販売……?」
武士が後ろから覗き込んで、顎に手を当てる。
……ああ、そうだよ。ちょっとレアなクワガタだなんて、誰が知ろうものか。
何なら、一匹何千円かで取引されるようなクワガタ様だなんて。
「……大家殿は、金が絡むとすぐ意見が変わるな」
あーーーー!! もう一回ベランダに落ちてこねぇかな、はさみん!!
ほら呼べ! お前友達なんだろ!? 呼べ!
「はさみん、二度と来るでないぞ」
ああああーーーー!!




