暑かったんすよ
暑い。
なんで? なんで急に暑くなっちゃったわけ?
そりゃ季節側にだって色々事情があるだろうさ。ちょっと今回は冬をあっためておきましたんで夏もお願いしますー、みたいな。神々の事情みたいな。
それにしたって、何故五月で夏並みの気温だよ。
どうしたんだよ。
暑い暑いと愚痴る私に、武士は不思議そうな顔でこちらを見ていた。
「……それほど暑いのであれば、大家殿も月代を作れば良いのではないか?」
良いわけねぇだろ。
職場での話題、暑さに代わって一気に私がかっさらうわ。視線独り占めだわ。
あーーーーー暑いーーーーー。
「しかし、その頭髪では実に暑そうだぞ」
放っといてくれよ。
あー、暑い。
「……某が」
あ?
「某が、剃ってやろうか?」
……。
……。
ヤダよ。
「ぬぬぅ!」
嫌に決まってんだろ。お前絶対坊主かましてくんじゃん。
あ、でも坊主だと楽は楽だよな。シャンプー代も浮くし、人によってはめっちゃかっこいいし……。
いっそイメチェンだと思ってやってみるか……?
「承知!!」
あー、待って待って待って。
いやほらさ、やっぱ一度剃ったら終わりじゃん。や、終わりじゃないけど、しばらくは伸びてこないわけじゃん。
となると、まだちょっと未練があるんだよなぁ。
「ぬ。だが某は、出家した大家殿と並んで街を歩いてみたいぞ?」
嘘みたいな絵面になるぜ?
武士と坊主が並ぶのか……。その場所だけ時代的に浮いちゃうな。
そんで、どんな人混みにあってもソーシャルディスタンスされそうだ。
いや、出家言うなや。
もうー、やめだやめやめ。私はちょっと散髪予約できねぇか聞いてくるわ。
「髷にすると申すか!!」
ンなわけねぇだろ!! 引っ込んでろクソ侍!!




