番外編:実際武士よ、今は江戸に帰っといた方が良くね?
なぁ、武士。
「なんだ?」
お前さ、江戸に帰りたいとか思わんの?
「ぬ?」
あ、身構えんな身構えんな。違う違う、家計が圧迫されてヤベェから追い出そうってんじゃないのよ。
いやさぁ、このご時世じゃん。世界的にウイルスが流行して、命の危険があって、全然前みたいな生活もできてなくて。
それぐらいならさ、江戸に帰りたくならないのかなって思ってさ。
「いや?」
ならないのかー。
即答じゃねぇか。なんでだよ。
「ううむ、いくつか訳はあるのだが……まず一つ、江戸では疫病がさほど珍しいことではない」
ふんふん。
「大家殿も麻疹は存じておるな? あれは幼児がかかるものとされ、あまりにも死ぬ子が多かった故“命定め”という名でも呼ばれた。七つまでは神の子という言葉は聞いたことはないか?」
ああ、時代小説で読んだことあるよ。
へぇ、あれってそんなえげつないものなんだ。
「しかし今の日本では、これも無くなっているのだろう。なんだったか……ワクワクさん……」
“ワクチン”ね。ワクワクさんは工作が得意なおじさんね。なんで知ってるのよ。
まぁいいや。そうだよな、麻疹は今予防接種で抑えられてるよ。
「うむ。その上江戸は火事も多いし……血の気の多い輩も多いし……割とあっさり死ぬ時は死ぬし……」
何、お前江戸嫌いなの?
「とんでもない。ただ、どこに行こうと病からは逃れられぬし、不測の事態は起こると言っておるのだ。しかし、人はそれに立ち向かったり、やり過ごしたりすることもできると思っておる」
ふーん。やり過ごす、ねぇ。
「うむ。我々は怪しげな祈祷師の言う事を聞いておるわけではない。知識が豊富な者の言う事を聞いておるのだ。ならば、後はそれを正しく守って過ごすだけである。問題無い、今までのようにいずれ終わることだ。大事なのは、それまでなんとか生き延びることなのだ」
……。
……まあ私としちゃ、今一時期だけでも江戸に帰ってれば? と思うけどねぇ。
「……」
何よ、その目。
「……しかし、それだとキムタクが……」
あー。
やっぱ『JUDGE EYES』面白かったよな。忙しくて積みゲーにしちゃってたけど、今やっててすげぇ楽しいもん。
「某は“ちんぴら”を成敗するので忙しい」
お前絶対江戸に帰りたくない理由それじゃねぇか。
「あと、買ってきた“とっぽ”も食べねばならない」
そうだな。
じゃあ、もうちょい頑張って現代日本で暮らしてみるか。
「あと“ほっとけーき”というものを食べてみたい」
分かったよ、作ってやるよ。
引くほど重ねてやるから見てろよ、お前。
「あと……」
まだあるのかよ。未練たらたらじゃねぇか。
どんだけ現代日本魅力的なんだ。怖。




