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武士がいる  作者: 長埜 恵
2.武士がいる
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止まり木

 私が住んでいるのは、某アパートの三階である。


 当然それなりの高さがあるので、多少はこの街を見下ろすことができる。


 その日、武士は窓の外を見ていた。


 流れる雲でも気になるのだろうか。いくら時代は違えど、空の色は今も昔も変わらないと思う。

 いつも呑気な彼だが、今日は珍しく、かつて暮らしていた世界に思いを馳せているのかもしれない。


 だから私は敢えて話しかけないでいたのだが、突然その沈黙は破られた。


「大家殿、この世界は実に鳥に優しくできているのだな」


 なんで鳥?


 尋ねると、武士は嬉々として空を指差した。


「見ろ、あんなに止まり木があるではないか」


 そこにあったのは、電柱とそれを繋ぐ電線である。その上には、なるほどスズメが二羽寄り添って羽を休めていた。


「某のいた場所でも、昔動物を憐れむ法ができてな。何事も行き過ぎは考えものだが、動物を慈しむ余裕のある方が何かと上手く物事は回るように思うのだ」


 腕を組み、うんうんと武士は得心していた。


 なんかいい話になっていた。だから、私は言えなかった。



 なぁ、武士よ。



 あれなぁ、本当はエレキテル動かす為の電気が流れてるだけの紐なんだよ。



 鳥、勝手に足場にしてるだけなんだよ。



 台風か何かで電線が切れた所を素手で直しに行ってはマズイので、いずれ武士にちゃんと説明してやらないといけない。

 でもそれはそれでまた「どういう仕組みぞ」と聞かれたら面倒なので、真相を伝えるのはかなり先になるだろうと私は思った。


 あとちょっとは元の世界のこと考えろよお前は。なんでばっちり順応してんだ、ほんと。

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