トイレットペーパー
トイレットペーパーが一時的に品薄らしい。
なんでも、コロナウィルス関連の諸々でSNS上にデマが広まったからだとか何とか。
普段から震災に備えてちょっとだけ備蓄してた我が家に、死角は無かった。
「しかし、この状態が長く続いたらと思うと不安になるな」
テレビを見ながらの武士の一言に、頷く。
そうなのだ。先行き不透明な現状、人は手っ取り早く不安を解消したいが為に、簡単な目的を達成することで心に安寧を取り戻したがる。買い物は手早く心が満たされる目的達成行為なのだ。
「こうなれば、我が家も紙が無い場合、どうやってやり過ごすかを考えねばならん」
ああ、紙を切らさない、という過程はすっ飛ばすんだな。オーケーオーケー、それもまた大事なことだ。
そう思いながら、しかしどうしたものかと悩んでいると、テレビがちょうどCMに切り替わった。
軽快な調子でお買い得商品が紹介される。
内容は、高圧洗浄機。
……。
「大家殿……」
却ーーーーーーーッッッッ下!!!!
「まだ何も言っておらん」
いやアレをケツに放射しようってんだろ!?
ふざけんなよ! ケツ消し飛ぶわ!!
「しかし、離れた場所からならあるいは」
ねぇわ!!
つか何!? お前まさかこれを家ではやらねぇよな!? 良くて庭、下手すりゃ河原だろ!?
「うむ、外にて放水する」
すげぇ絵面になるよ???
想像してみ?
「……」
できた?
「あれで警官殿が来なかったらこの街の治安を疑う」
だろ?
「しからば、早急に済まさねばなるまい」
粘るねぇー?
「一番弱い水を、できるだけ遠くからやれば上手くいくと思うのだ」
そりゃ上手くいくかどうかで言えば可能だろうよ。
でもその為に、白昼堂々河原で成人男性一人のケツ(拭いてない)が丸出しになるんだぜ。
「うむ」
下手すりゃコロナより許されねぇよ。
「許されないか」
許されねぇよ。
「……ならば仕方ない。厠にある、えれきてるの洗浄機に頼る他あるまいか」
オゥ答えに行き着きやがった。
ウォシュレットな、ウォシュレット。
「大昔は紙で尻を拭くことなど無かったろうにな。人は文明に生かされ、文明に殺されるのだ」
知ったような口をきく武士である。いやお前だってもう、安いトイレットペーパーのバリバリ紙じゃ文句言うようになってんじゃん。
ともあれ、この混乱の早期収束を願うばかりである。みんな、いっぱい食べていっぱい寝て免疫高めとこうな。




