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毛玉クリーナー
「では、朝の鍛錬に行ってくるぞ!」
そう言って出て行こうとした武士の頭を包むニット帽には、
信じられないぐらいの毛玉がついていた。
「ぬおおおおおおおお!?」
うぃーんじょりじょりじょりじょり。
「やめろ大家殿! 一体何をしておるのだ!」
うぃーんじょりじょりじょりじょりじょりじょり。
「何だか分からんが分からんからこそ怖い! やめるのだ!」
じょりじょり。
はーい動かないでねー、もう終わるよー。
「ぬぬぬぬぬぬううううう!!」
じょり。
はいおしまい。帽子きれいになったよ。
「む……?」
ようやく私の両足から解放され起き上がった武士は、帽子と言われて脱いで手に取ってみた。
そこにあったのは、毛玉クリーナーによって毛玉が一掃されたピカピカのニット帽。
「……これは……」
おうよ、スッキリしたろ。
「……時間が巻き戻ったのか……!?」
なんでだよ。
そんなビックリアイテム持ってねぇわ。
説明してやると、嬉々として自分でやり始めた。じょりじょりと毛玉が取れていく感覚がたまらないらしい。
武士が喜んでいるようで、何よりである。
鍛錬はサボった。




