冷たい
仕事から帰ってきたら、珍しく武士がいなかった。
まあ、トレーニングか何かに行っているのだろう。
そう決めつけ、手洗いうがいもそこそこにこたつに潜り込む。
……あー……。
ぬっくい……。
幸せだな……。
布団もさ、いいんだよ。でもあれって自分の熱であっためなきゃならないじゃん。時間かかるじゃん。
その点こたつは優秀だよね。向こうが勝手にあったかくなってくれるから。こっちは全てを信じて身を任せるだけでいい。
あー、こたつこたつ。
……。
しかし、久しぶりに部屋で一人になったな。
最近というか、武士が来てからはこうして部屋を一人で独占することもできなくなっていた。
ここで私が「武士がいない部屋、こんなに広かったんだな……」とか「チクショウ、静かじゃねぇか」とか言えば、多分それなりに起伏のある小説になるのだろう。
が、残念ながら露ほども思わないんだ、これが。
こたつとみかんをひたすら独占できて嬉しい。それが今の私の心境である。
あーーーー、足を伸ばせるこたつ、最高ーーーー!!
そうやって仰向けに倒れて伸びをしていると、ガチャッとドアの開く音がした。
「ぬううううう、寒いぞ!」
帰ってくるの早いねぇー!
小説の流れ的にはお前、全然帰ってこなくて「え、武士!? そんな、まさか! ……何も言わずに帰っちゃったのかよ……馬鹿野郎……!」って私が静かに泣いてからドアガチャだろうがよ。風流を解さない奴だな。
「なんで某は怒られておるのだ?」
別に何でもないよ。ちょっと暇なだけだよ。
「それより大家殿、もちっとそちらに寄るがいい。某の分のこたつが無い」
うるせぇーなー。早い者勝ちだよ。
お前は風呂入って身を清めてろ。
「取り急ぎ暖まりきったこたつに入りたい」
うお、押しのけてくんな、やめろ。
うわ、うわああああああ!
「ぬははは! どうだ、某の足は冷たかろう!」
やめろ! 足くっつけてくんな! 冷てえええええええ!!
「ぬはははははははは!!」
うぜええええええええええ!!
武士って、ゴミの区分としては粗大ゴミでいいのだろうか。それか案外燃えるゴミかな?
もしくはブックオフ。最近本以外も扱ってるらしいし、連れて行ったら引き取ってくれないだろうか。百円までなら払うから。
私は武士をこたつから追い出しながら、そんなことを考え……。
あああああああ! 足冷てぇってってんだろアホおおおおおお!!




