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武士がいる  作者: 長埜 恵
2.武士がいる
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風船

 この年になって、風船を伴って家に帰るとは思わなかった。


 営業上取り扱う可能性のある製品の展示場に出向いた際、とあるブースにて手渡されたシロモノである。

 いや珍しいな。普通粗品ってタオルとかそういうもんだろ。


 風船て。


 だが、家にいるとある武士の顔が浮かんだのもまた事実である。


 よって、今私は風船を片手に家の前にいる。


 ……ただいまー。


「うむ、お勤めご苦労である!」


 ドアを開けたら二秒で武士である。うん、今日も苦労したよ。

 ほい、お土産。


「……なんだ、これは」


 風船。

 ご存知?


「……フーセン? しかし、浮いておるぞ? 某の知っているフーセンは、こう、紙でできており……」


 折り紙のやつかな? それとも紙風船?


 まあいいや。とにかくこれは浮く風船なんだ。


「ほぉー!」


 武士の細い目がまんまるになった。早速喜んだようである。


「すごい、すごいではないか! ほう、何が入っておるのだ……? ぬう、押しても押しても上に行こうとしてくるな! 大家殿! この糸を取ったらフーセンはどれほど上がっていくのだ!?」


 そんなの知らんよ。


 部屋の中なら天井までだろうけど、外だったら際限なく上がってくんじゃない?


「……!」


 ……やってみたい、という気持ちと。


 やったら風船が無くなってしまう、という気持ちが。


 戦っている。目に見えて葛藤している。


「……二つ、無いのか?」


 無いね、ごめんな。

 そうだな、結構余ってたし、頼めばいくらかくれたかもしれない。

 その場合の私、ちょっとした風船売りの様相をなすと思うけど。


「夢のような仕事だな?」


 確かに。子供は風船が好きなものだし、それを配る仕事なら尚更……。


「フーセンを飛ばし放題とは」


 あ、飛ばすんだね。

 ダメだろ、集まってきた子供達ポカンとしちゃうだろ。

 いや案外一緒になってはしゃぐかな。武士と子供って妙に相性いいんだよな。


 いずれにしても、明日の話である。

 明日晴れてたら、外に出て風船とお散歩してごらん。


「それは良い案だな! 某の明日の予定は、フーセン殿と散歩である!」


 おー、何より何より。

 んじゃメシにすっぞー。





 翌日。


「大家殿おおおおおおおお!! フーセン殿が!!」


 風船殿は、部屋の片隅でころりとしていた。

 早くもヘリウムが抜けてしまったらしい。


 あー……その……なんだ。


 どんまい。


「もう一個!!!!」


 残念、展示会昨日までだったんだよ。

 またどこかで見かけたら買ってやるから。


「その際は二個!!!!」


 調子に乗るんじゃねぇ。

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