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武士がいる  作者: 長埜 恵
2.武士がいる
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ねこ

 朝起きたら、武士が猫になっていた。


「ぬああああああああああ!」


 いや鳴き声ー。


 分かるよ、多分これ夢だ。

 どうせ夢オチで終わるヤツなんだ。

 もしくは「あれ、武士はどこだ……? ん、なんだお前、どこから来たんだかわいいヤツだな。よーしよしよし……ってうわああああ!」オチ。突然変身が解けてアワアワするオチ。少女漫画とかラブコメとかでよく見るやつ。


「ヌウウウウウウウ!!」


 うるせぇー。


 つーか猫だろ。もっと「にゃー」とか「なー」とか鳴けよ。忠実に武士を再現するな。


 武士猫は白をベースとした黒のブチ猫であった。

 ちょうど柄がちゃんまげのようになっている。


 ……。


 ……うちのアパート、ペット禁止なんだよな……。


「んな!?」


 お前さ、猫になったんなら逆にうちで生きていかなくてもいいんじゃない? 外でさ、たくましくノラとして生きて……。


「ぬぅっ!」


 ひっかかれた。


 え、何? 前足でめっちゃ新聞タシタシしてる。何スか。


 え? 「猫を外飼いすると起こる危険」?


 ……。

 ……あー、なるほど。


 事故や病気、他の人に虐待される可能性もある、と。そうか、今のお前猫だもんね。そういうことがあったら怖いよね。


 うーん。


 でもさ、何度も言うけどうちペット禁止なんだよ。

 お前のことだから部屋でじっとしてるって無理じゃん。オイ背中乗るな。ならリードつけて私が散歩に行かせるじゃん。オイ肩に乗るな。そしたら誰かに見つかるじゃん。オイ首に爪立てんな。私追い出されるじゃん。オイ雄叫びを上げるな。

 何? 何なの? 降りろよお前。

 え? 降りられねぇの? 猫のくせに? 降りられる見込みもねぇくせにのぼったの?


 お前猫として生きる上で目論み甘過ぎない?


 もー、降りなさいよ。ほら。


「ぬぅ」


 あー、でも猫になってたらやっぱ色々マイルドになるな。猫かわいいわ。


 うん、かわいいかわいい。


 ――が、ここでは飼えない。


「ぬうううう!」


 うるせぇな、私に飼って欲しけりゃもっと困らない動物になれ。

 仕方ない、こうなりゃ職場に連れて行って誰か猫好きな人に武士をお願いして……。


「ぬああっ!」


 うおっ、どこ行くんだよ!

 この狭い部屋の中で逃げ場っつったって別にどこにも……。


 ……。


 ……。


 ……亀出てきた……。


 しかも準絶滅危惧種のニホンイシガメだ……。


 ええー……都合いいなお前……。


「!」


 めっちゃ何か言いたそうだな。

 でも亀って基本喋れねぇだろ。

 意思疎通したかったら別の動物になれよ。


「……」


 ……。


 ……。


 ……寝始めた……。


 うん、まあ、いいや。

 カメならギリ飼えると思う。

 ペット禁止だけど、ちょっと色々調べて、大家さんとも相談して。

 無理なら職場に持って行こう。


 え、つーか夢オチじゃないの?

 私このまま会社行こうとしてるけど大丈夫?

 まぁいいや、とりあえず皿に水入れて床に置いておこう。カメの飼い方知らないから、ちょっと後で調べよう。


 ……えええ、マジでこのままでいいの?


 まぁいいか、非現実的だとか言い出したらぶっちゃけ江戸時代の武士がタイムスリップしてくること自体ファンタジーなんだ。これぐらい起こっても不思議じゃないよね。


 行ってきまーす。





 で、帰ったら何食わぬ顔で武士は武士に戻っていた。

 朝のことを聞いても、「ぬぅ? 疲れて幻覚でも見たのではないか?」とシレッと返してきやがるだけである。


 ……うーん。


 まあ、どうでもいいか。


 今日は寒かったので鍋をするのである。

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[一言] 真相は闇の中…。
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