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武士がいる  作者: 長埜 恵
2.武士がいる
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オムライス

 オムライスが食べたいらしい。


 基本的におにぎりしか与えず、品数を増やしても焼き魚や卵焼き、味噌汁など和食に偏った食事だったのだが、どうも最近テレビを覚えてしまったせいだろうか。こういった洋食に憧れる節が見受けられるようになった。


「あの赤きものを使うのだろう?其、書物でしか読んだことがなくてな。店に参るたび気にはなっていたのだが…」


 江戸時代には無かったのか、トマト。そういえば、スーパーに連れて行った時に凝視していた様な気がする。

 そこで、ものは試しと作ってみることにした。私はデミグラスソース派だったが、ここはベーシックにトマトソースを用いたものが良いだろう。黙って後ろに佇んでいる武士を尻目に、私は調理を始めた。


 だが、野菜と鶏肉を炒める段階になって武士がわめきだした。曰く、「箱(冷蔵庫だろう)の中を見たが、あの赤きものは無かった。其が知っているオムライスはあの赤きものがふんだんに使われていた」「其は赤きものが食べたい」だそうだ。


 それなら最初からトマト食べたいって言いなさいよ。


 私のエプロンを引っ張ってぶつぶつ言う武士を携えたまま、冷蔵庫のドアを開ける。そしてケチャップを取り出し、鼻先に突きつけてやった。

 きょとんとする武士。たっぷり間を取って、これがお前の好きなトマトの成れの果てだと伝えると、とても興味深げな顔をした。

 これで作るということは、すなわちトマトを食べることと同義である。つまり、武士の願いは無事に叶えられるのだと、そう伝えた。すると武士は、しばらく考え込み、やがてこう言った。


「しかし大家殿、大豆と醤油の味は別物ぞ」


 納得はしなかった武士だが、オムライス自体は美味しかったようである。しっかりと平らげ、私の皿の分までじっと見つめていた。

 次は、トマトでサラダでも作ってやろうと思う。

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― 新着の感想 ―
[一言] まぁ…。ケチャップとトマトは割と味近いから、セフセフ。
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