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武士がいる  作者: 長埜 恵
2.武士がいる
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眠れない

 たまに、寝られない日がある。


 いや、ほんとにたまになんですけどね。こうなるともう大変まずく、布団の中で目を瞑ろうが、一時間過ごそうが、全く眠れる気がしないのだ。ありとあらゆる睡眠法みたいなのを試してみてもダメだった。ゾーンに入ったようになって全く寝られない。


 で、結局私はどうすることにしたか。


 諦めたのである。


「ぬおおおおおっ!?」


 深夜、時刻は夜の二時。たまたまトイレに行こうと起きてきた武士は、キッチンでうずくまる私を見て悲鳴を上げた。


「大家殿! 悪ふざけが過ぎるぞ!」


 危うく漏らしかけたらしい。トイレから戻った武士に、コンコンと説教されてしまった。

 や、だって仕方ねぇじゃねぇかよ。寝られないんだもん。


「布団に入って体を横たえていれば、勝手に眠くなる」


 そんな簡単な話じゃねぇんだよー。

 いやマジできついんだから。


 まぁね、ちょっと聞いてくれよ。


 多分ね、人間ってのは生まれながらにして起きて活動できる時間が決まってるんだ。

 その点私は夜寝られないからさ、焦るだろ? だってみんなはすぐ寝てるのに、私は寝られない。こうして布団でモダモダしている間にも、貴重な人生の残り時間が過ぎていく……と。


「うむ」


 だからね、こう思うことにしたんだ。

 寝られないのならいっそ起きて、やれることをやろう、と。


「そういった了見だからこそ寝られないのだと思うぞ」


 正論でしかないな。


 でも眠れないんだもん、しょうがねぇじゃねぇかよ。


「ぬぬぅ」


 すぐ眠れる人と眠れない人の差。どうもこれは遺伝的要素が大きいらしくてね。成人だと睡眠時間の遺伝率は三割から五割だ。

 ところで2019年にはアメリカでショートスリーパー遺伝子なるものも発見されている。もちろんこれはごく一部の人に限った話だから、私には関係ないと思うんだけどね。

 まあとにかく、環境的要因をいくら改善したとしても、ある程度はどうしようもない部分が出てくるってことさ。


「そうかな」


 そうだよ。

 だから武士は寝直せ。私はもう少しここでスマホを触ってる。


「寝る前のスマホは目が冴えるのだぞ?」


 一ヶ月スマホ無し期間を設けたけど、やっぱ寝られなかったので諦めたんだ。


「むぅ……。仕方ない、今夜は見逃そう。だが明日には必ず大家殿を寝かしつけてやるからな」


 え、武士が?

 何、どうやんの?


「“とれーにんぐ”に付き合うていただくのだ」


 ……。


「環境だの遺伝だの其にはよく分からんが、つまり体に余力があるから眠らなくても平気なのだろう。そんなに夜寝たいのであれば、体が悲鳴を上げて休息を求めるまで追い込むに限る」


 …………。


「それではおやすみである、大家殿! 明日は共に石段を登ろうな!」


 ………………おやすみ………………。


 …………。


 …………。


 ジャージ、出しとくか……。


 翌日、私は武士と二時間筋トレに励み、泥のように眠ったのであった。筋肉痛がヤベェ。

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