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武士がいる  作者: 長埜 恵
2.武士がいる
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不審者

 そういや、この間ヤベェ人に会ったよ。


 この言葉に、武士はカップ焼きそばの麺を口から生やして振り返った。


「ヤベェ人とはなんだ?」


 うん、一週間ぐらい前だったかな、私がスーパーで買い物してた時だったんだけどさ、なんかやたらこっち見てきてたオジサンがいたのね。そんでもまぁ当然無視してたんだけど、そいつが私んとこに近づいてきてさ。


「ほうほう」


 で、スーパーって結構狭いじゃん。変に逃げるのも怖くて、できるだけ気にしないようにしてそこに突っ立ってたんだよ。

 でも、そいつとうとう私の真隣にまで来て。


「お、おお」


 私の耳に口を寄せ、一言、こう言ったんだ。



 ――“誘拐されろ”……と。



「……」


 ……。


「誘拐……されろ」


 うん。


「……何故他力本願」


 いやマジでそうだったんだよ! 私も私で「え、されろ?」って思わず素で返しちゃってさ。

 これがね、「誘拐してやる」とか「誰かに頼んで誘拐してやる」とかならまだ分かるんだよ。こっちも「チクショウ、通報!」と思えるんだけどさ。

 なんでよりにもよって“誘拐されろ”なんだよ。もうわかんねぇよ。なんて返すのが正解なんだよ、何を望まれてたんだよ。しかもいい年した大人だぞ私は。


 だからもう恐怖とか危機感とかよりも疑問が先に来ちゃってさ。「なんで?」って思ってる間にオジサンどこか行っちゃったんだ。


「……ぬぬう。其奴とはその後?」


 会ってない。


「……」


 武士は神妙な顔をし、腕組みをして何かを考えていた。

 なんだなんだ、ボディガードでもしてくれんのか。


「……大家殿が誘拐されたら、某はどうなるのだろうな」


 あ、そっちっすか。

 知らねぇよ。そこは同居人として、全然帰ってこないことを怪しんで通報してくれよ。


「通報? ……ああ、警察に頼むのだな」


 そうそう。あ、そういやお前にそういった類の連絡先を教えてなかったな。

 110番が警察で、119番が救急車で……。

 ……うーん、でも最近なかなか電話ボックスも見なくなったしなぁ。子供用ケータイでも持たせるか?


「案ずるな、大家殿。最悪の事態とあらば、某は友人である警官殿のご自宅に駆け込むと決めている」


 そこは交番に駆け込めよ。自宅訪問して事件告げられたら流石の警官殿もびっくりするだろ。恋人といちゃついてたりしたらどうすんだよ。


「そうなったらその者にもしっかりと断りを入れた上で、助けてもらう」


 つーよーいー。

 なんだよ心臓に毛でも生えてんの?


 この分だと私が誘拐されても大丈夫そうである。しかし何者だったんだろうな、あのオジサン。みんなも気をつけてなー。

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