コンセント
そういえば、武士がここに来て間もない頃である。
掃除機を使っていたら、やたらとコードの先に興味を示された。
武士は私を振り返り、尋ねる。
「大家殿、これはなんだ?」
それ?
コンセントって言うんだよ。
「こんせんと?」
うん。
そっからエレキテルが出てるんだ。
そう言うと、武士は恐る恐る手を伸ばした。
「ほう。ならば某もこれに触れれば、えれきてるを手に入れることが……!」
おいおい、やめとけよ。
いいか、エレキテルってのは危ねぇ力なんだ。
ほら、掃除機をコンコン叩いてみろ。固いだろ? むしろこれぐらい固くねぇとダメなんだよ。あまりにも強過ぎる力は身を滅ぼしてしまう……。
「な、なんだと? つまり……どうなるのだ?」
つまり、エレキテルに触った人間は……。
「人間は……?」
強大なるエレキテルの力に耐えることができず……。
「できず……?」
死ぬ。
「死ぬ!?」
爆ぜて死ぬ。
「爆ぜて死ぬ!?」
だからコンセントに触るのはやめとけよ。
この部屋を血の海にしたくないのならな……!
武士はコンセントから飛び退き、プルプルと震えていた。
あれから数ヶ月。
なんやかんやで、私自身無責任にもそのことを忘れていた頃である。
武士が、すっ転んだ。
同時に、コンセントにぶつかった。
「ぬあああああああああああああああああ!?」
部屋中を転げ回る武士。コンセントに当てた手を上に突き出し、雄叫びをあげている。
おい、どうしたよ。そんなに痛かった?
声をかけると、武士は息も絶え絶えで私を見た。
「お、大家殿……某はここまでのようだ……」
お、おう。
「最後に……遺言を……」
うん、何?
「たこ助殿と……どんぐり殿と……にぼし殿を……頼ん、だ」
頼まれてもー。
どうしろっつうんだよ。毎朝話しかけろってか。おはよー今日も変わんねぇなってか。
「がくっ」
あ、死んだ。
……。
……。
……。
「……?」
おはよう。
「ここは……地獄か?」
おう悪かったな、地獄寄りの部屋で。
無事に生還した武士に地獄のテキサスクローバーホールドをお見舞いする。
この日以降、武士はコンセントに対して苦手意識が薄れたようだった。
……それでも、やはり近づきはしない武士なのであるが。




