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シキ  作者: 現野翔子
翠の章

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学園祭へ向けて

 花火大会は素敵なものだと聞いたから、私も行きたいと言ったの。次の日がもう終業式だったから、すぐに帰って聞いた。今回はお兄ちゃんと一緒に見られたの。

 満喫できた夏休みを過ごして、二学期を迎えた。


「みんあ、久しぶり。夏休みは楽しく過ごせたかな。それも大事だけど、宿題もきちんとしてくれたかな。」


 始業式も終わって、ホームルームが始められた。先生に宿題を出し終えると、なぜかみんなそわそわし始める。


「さあ、それでは。学園祭の説明をしましょうか。」


 毎年、初等部も中等部も高等部もみんな一緒に、学園祭をする、と。とても大きなお祭りで、学外からも人が来るそうだ。

 私たちが関係するのは出し物と、合唱コンクール。どちらもしたい人がするもので、見たり聴いたりするだけでも楽しめる。だけど、せっかくなら自分でもしてみたい。どんなものか分からないから、聞いてみないと。


「はい!俺は知り合いから教えてもらってるから、武術大会に出たい!」

「もう二年待とうね。」


 戦って誰が強いか競うそうだ。中等部生以上でないと出られない。剣術などの授業を取っている人が対象だ。楽しみ、お兄ちゃんみたいな力持ちになれるかな。


「私は刺繍をみんなに見てもらうの!」

「はい、申請を待っているわ。」


 瑞穂もいつもより元気。中等部と高等部の知り合いと協力して、出し物をするそうだ。去年よりも大物を展示すると意気込んでいた。

 今日の授業はその話で終わり。来週から通常の授業が始まる。


「ねえ、エリーちゃんは何かするの?」

「そうね。出し物は、人を指揮する者に必要な経験を積ませてくれると思うわ。」


 出し物をしたいけど、何をするかは決まっていない、ということかな。私も何ができるか考えようとすると、珍しく早姫から話しかけてくれた。


「愛良ちゃん、またお願い事があるんだけど、いいかな。」

「うん!何?できることなら何でもするよ。」

「一緒に合唱コンクールに出てほしいの。」

「やってみたいと思ってたの!歌うんだよね。私、歌うのも好き。」


 これで私も参加できる。一人ではないから、どうするかも教えてもらえる。歌うのは友兄にもたくさん教えてもらったから、しっかりできるの。


「ありがとう。あと八人ね。」

「八人?」


 参加要件が、指揮者と伴奏者を合わせて十人以上、児童や生徒だけで指揮も伴奏も行うこと。


「それなら、私が指揮してあげましょうか。人を集めるのも、声をかけるのが私なら容易でしょう。」

「じゃあお願い、エリー様。」


 これで三人。他の出し物をする人も合唱コンクールや武術大会に出られるけど、両方に出る人は少ないそうだ。瑞穂にも自分の刺繍に集中したいからと断られてしまった。




 午後になると、もう十人集まっていた。エリーちゃんのお手柄だ。伴奏は落葉千織という伯爵家の子。貴族なら楽器を嗜んでいることも珍しくないそうだ。


「まずは曲を決めましょう。一般の方も聴いてくださるのだから、初等部らしい元気な曲が良いわ。聴いてくれる人も元気になれるような、ね。」


 みんな、色々な曲名を挙げてくれるけど、私の知らないものばかり。だから、私も自分の知っている好きな曲を挙げる。


「『蝶々さんの歌』は?」

「……童謡を歌うのは斬新ね。」


 童謡は違うみたい。ある程度出たところで、他の子も千織のほうをよく見ているから、千織が一番頼りになるのかもしれない。


「『春の始まり』とはどうかしら。」

「私たちにぴったりだね。」


 春はクラス替えや入学などがある、出会いの季節だそうだ。この歌は、新しい人と出会って新しい世界を歩いて行く歌。お花が咲いて、成長していって、色々なものに出会うことを楽しみにするの。


「なら、明日以降の音楽室使用を申請してくるわ。千織、その間に教えておいてくれるかしら。」

「ええ。絵里奈さん、ついでに楽譜の用意をお願いしても良いかしら。複写はみんなでしましょう。」

「任せて頂戴。」


 エリーちゃんを見送って、千織の歌を聴く。


「綺麗!楽しい!わくわくするね!」

「愛良、覚えるんだよ。」

「あ。」


 聴いていると、思わず体が動いてしまう。一回では覚えられなくても、何回も歌ってくれて、それを覚えていく。初めて聴いた他の子の中にも、一回では覚えられなかった子もいたの。

 ある程度覚えられた頃に、エリーちゃんが戻って来る。


「待たせたわね。空いていたのは来週の木曜日以降だったわ。」


 この時期は合唱コンクールに向けて、音楽室を使いたい人が多いという。そのため、一団体で使える時間や頻度が決められている。普段は教室などで、伴奏はないまま、練習することになるという。

 それから、エリーちゃんが写してきた楽譜をそれぞれ自分用に写していく。合唱のために借りたい人が多いから。自分が気を付けることなどを書き込んでいくそうだ。


 それからみんなで歌う練習をしていく。授業が終わってから、晩ご飯まで。だけどその練習も水曜日だけはお休みさせてもらうの。だって、慶司との約束があるから。


「あれ、今日はなんか色々置いてるね。」

「学園祭に向けて、ね。俺は数人と模擬店を出すから。」


 飴細工を飾ったり、お菓子を売ったりするそうだ。その練習以外にも、今日はいつもと違うところがある。秋人がいない。


「秋人はどうしたの?」

「武術大会は知ってる?」

「うん、聞いたよ。」

「それに向けて特訓中だろうね。」


 総合部門、射撃部門、剣舞部門の三つに分かれていて、秋人はその中の総合部門に出るつもりだそうだ。トーナメント形式で戦っていくの。去年は中等部生の中で十番くらいになったくらい強いそうだ。学園祭の日に見に行ってみよう。


「私はね、合唱コンクールに出るの。」


 色々報告して、歌の練習をしている所にさっと行くの。慶司も完成品は当日を楽しみにしていてと言っていたから、続きは学園祭が終わってからだね。



「愛良、上手ね。」


 千織が褒めてくれる。晩御飯の後も練習した日があるからね。他の子も千織の言葉に同意してくれて、エリーちゃんがさらに褒めてくれた。


「本当に。もっと聞きたいと思ってしまうわ。」

「時々、ご機嫌で教室でも歌ってるよな。」


 浩介も近い席だから、聞こえてしまうのかも。お日様が元気に見えている時とか、鳥さんが鳴いている時とかは、そういう歌を思い出すの。




 お夕飯を終えて瑞穂の部屋に行ってみると、大きな布地が置かれていた。


「何、これ?」

「展示用の作品だよ。」


 大の字になっても余裕がありそうな大きな布。半分くらいにはもう刺繍がされている。赤と黄色が中心で、紅葉を表現しているそうだ。


「ちゃんと会場に飾ったら、さらに綺麗に見えるんだよ。」

「へえ。じゃあ、当日も見に行くね。」


 楽しみがまた一つ増えた。刺繍なら静かだから夜遅くまで頑張れば、学園祭には間に合いそう、だと。歌うのは寝る人もいるから止めるよう言われているため、あまり遅くなると練習できない。




 夜中、熱くて目が覚めたから、夜風に当たりに行く。危ないから寮から出ないように言われているけど、少しなら怒られないよね。そう思って、寮の周りをぐるっと歩いていると、女の人の歌声が聞こえた。


「あなたは〜、どこへ〜、行くの〜。」


 夜にお出かけする人は意外と多いのかも。声を辿って行くと、そこには二つの人影が見えた。


「なんでわざわざ来るんだよ。」

「一人で怖がらないように、来てあげてるのよ。」

「お前が歌ってたせいで目が覚めたんだよ!」


 剣を片手に持った秋人と、壁に凭れて立つ詩織。二人で何をしているのかな。


「こんばんは!」

「ほら、愛良まで来た。こんな時間に歌うからだろ。」

「秋人曰く、不気味な、ね。」

「変なとして言ってないだろ!」


 暗いのが怖かったよね。それなのに、完全に陽が沈んだこんな時間に、お外にいる。一人ではなかったら怖くないのかな。


「何をしてるの?」

「私は秋人のお守。」

「必要ねえよ!いくつだと思ってんだ。だいたい同い年だろ!」


 でも、一緒にいてほしいのは秋人のほう。詩織は一人でも怖くないみたいだから。私がお兄ちゃんに一緒に寝てもらう時と同じだ。


「秋人は?」

「ちょっと訓練。」


 苦手な所で訓練するなんて。克服しようとしているのかな。それなら偉いね。


「訓練ってどんなことするの?」

「色々。普段は素振りとか、相手がいることを想定して、とか。基本の型の復習とか。」


 剣を振って見せてくれる。刃は潰されている物を使うそうだ。斬れてしまうと痛いからね。説明してくれる時はいつも通りなのに、振っている時はいつもと違ってキリッとした顔をしているの。なんだか素敵に見えて不思議。


「私もしたい、教えて!」

「駄目よ、愛良。それは中等部に上がってから習えるものなの。秋人も、教えてはいけないわよ。」

「別にいいだろ。」

「危ないでしょ。」

「貴族なら家で習ったりしてるんだから、それは理由になんねえよ。」


 刃がないなら斬れる心配はないよね。それに、包丁は使ったことがあるから、刃物の扱いは心配ないの。お料理の時もお兄ちゃんは危ないと言うけど、友兄が教えてくれるから。


「大丈夫、ちゃんと気を付けられるよ。」

「まずこれ持って。」


 さっきまで秋人が振るっていた、刃が潰された剣を渡される。


「重い!」


 秋人は軽々と持っていたのに、私は両手で持つだけで精一杯。振るうなんてできそうにない。


「当たり前でしょ。見るからに細いこの腕で持てるわけがないじゃない。もう、そろそろ寝なさいよ、二人とも。秋人も送って行ってあげるから。」

「いらねえよ。」


 私が剣を振るうのは中等部に上がるまでお預けかな。


「中等部になったら、私もスマートに振るえるようになる?」

「ちゃんと鍛えたらな。」

「秋人はちゃんと鍛えたの?」

「当然だろ。」


 授業は出ないこともあると聞いたけど。

 私がまずすることは、重い物をしっかりと持ち上げられるようになること。走って体力をつけて、色々と鍛えるの。少しずつを毎日続けるのが大事らしいから。


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