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シキ  作者: 現野翔子
翠の章

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織姫さん

名前の間違いを一か所(伊織から詩織に)、表記の間違いを一か所(同じ文章を続けて記載)、を訂正。2020年9月23日

「瑞穂は織姫さんなの?」

「違うよ。誰がそんなこと言ってたの?」


 月曜日、学校で会ったらすぐに確認して、一昨日のことを説明すると、笑われてしまった。


「それだったら、今年からいる愛良ちゃんのほうがあり得るよ。私はずっと知り合いの子もいるから、違うって言ってくれるよ。」


 他にはいたかな。一人一人思い出していると、横で聞いていたエリーちゃんがいいことを教えてくれた。


「愛良ちゃんは、織姫が本当にいると思っているのよね。」

「うん。」

「だったら、真実の鏡を使ってみるのは如何かしら。」


 これも学園の七不思議の一つだという。初等部の家庭科室に長い間、布がかけられたままの全身鏡があって、映った人や物の本当の姿を映すという話だ。それで普段と違う姿なら、その人が織姫さんだと。


「行ってみよう!」

「申請しないといけないわ。」


 申請用紙に色々記入して、先生に出せば使えるそうだ。




 放課後、瑞穂とエリーちゃんと一緒に、家庭科室に向かう。申請理由は瑞穂がお洋服を作る練習をするということにしてくれた。私とエリーちゃんは興味があるから見せてもらうということにして、ついて行く。


「あれね。」


 家庭科室の中は、前が黒板、左右と後ろがお料理する所、真ん中がお裁縫などをする所になっている。黒板の横に三つの全身鏡が置かれていて、今は全部の鏡に布がかけられている。二つは授業で使われることもあるそうだけど、扉から一番遠い鏡は、一度も使われたことがないそうだ。

 瑞穂がその鏡の布を外してくれる。今、正面に立っているのはエリーちゃん。鏡に映っているのも普段通りのエリーちゃんだ。初等部の制服をきちんと校則通りに着て、長い髪をしっかりと整えている。


「エリーちゃんは織姫さんじゃないね。」

「当然よ。私は瀬古侯爵家が第一子、瀬古絵里奈様。次期侯爵なのよ!」


 腕を綺麗に真っ直ぐ伸ばして、反対の手は腰に当て、ズビシッと鏡に向けて決める。いつもこうやって練習しているのかな。

 次に映るのは私。エリーちゃんと同じ初等部の制服で、お兄ちゃんに切ってもらって肩くらいになった髪を垂らしていて、友兄からもらった若草色の髪飾りを着けている。


「愛良ちゃんもそのまま。まあ、愛良ちゃんは嘘とか隠し事、苦手そうだもんね。」

「そうね。自分を偽るなんて難しいこと、できそうにないわ。」


 嘘を吐くのは悪いことだから。

 最後は瑞穂が映る。今日は細いツインテールを白いレースのリボンで括っている。これも自分で作ったそうだ。その上、毎日違う髪型で来ている。だけど、鏡に映った瑞穂も映っていない瑞穂も同じ姿だ。


「三人とも違ったね。他に織物が上手な女の子っている?それか、動物と仲良しな男の子。」

「中等部のご友人に聞いては如何かしら。」


 秋人は知り合いが多いと、前にエリーちゃんが言っていた。動物と仲良しは島内の探索で見つかるかもしれないけど。




 今回は急がないから、お茶会を待って聞く。


「織姫さんって知ってる?」

「そりゃ誰でも知ってるだろ、七夕の伝説の、」

「知り合いなの?」


 七夕の人というのは私も知っているから、聞きたいのは別のこと。


「知らねえよ。」

「何かそれっぽい人は?織物上手で、綺麗なの。こっそり地上に降りて来てるんだって。」

「えー、名前的には、詩織とかいるけど。」


 織物の織の字が入っているの。だけど、織物が得意なわけではないそうだ。刺繍も。


「会いたい!」

「寮で勝手に会えばいいだろ。」

「知らない人だもん。」


 いきなり織姫ですかと聞いても教えてもらえないかもしれない。桃子だって花嫁の幽霊ということは秘密にしているから。


「……会いたい!」

「……まあ、詩織なら変な邪推とかはされないだろ。後で行くか。」

「うん!ありがとう。」


 変な邪推が何か分からないけど、されないのなら私が気にすることではないかな。




「珍しいわね、わざわざ。」

「この子が会いたがって。」


 落ち着いた雰囲気の女の人がこちらを見る。髪や目の色が秋人に似ている人だ。


「初めまして、神野愛良です。織姫さんですか。」

「え?えーと、落葉詩織よ。残念ながら違うわね。愛良は織姫を探しているの?」

「うん。織姫さんと彦星さんを探してるの。」

「だったら、良いことを教えてあげる。織姫と彦星は夫婦なの。だから、夫婦か、婚約者同士で探すと見つかりやすいかもね。」


 花嫁の幽霊さんの桃子もまだ花嫁さんではないからね。でも、夫婦の人も婚約者同士の人も知らない。


「どの人なの?」

「そうね。貴族なら婚約していることも多いわ。平民ならまず学生で婚約していることはないわね。」


 私の貴族の知り合いは、エリーちゃん、邦治、秋人、弘樹、桃子、それと今知り合った詩織の六人。エリーちゃんは確かめたし、弘樹と桃子は違うから、可能性があるのは三人。


「秋人と詩織は?」

「私はしていないわ。」

「俺も。」


 それなら後は邦治だけ。織姫さんはどこだろう。


「他の貴族の人って知ってる?織姫上手か、動物と仲良しな人で。」


 詩織は少し考えて、教えてくれる。


「そうね、織姫っぽい、婚約者がいる人なら知っているわ。じゃ、秋人、行ってらっしゃい。」

「まず姫じゃねえし、」

「行ってらっしゃい。」


 にっこりと笑っているのに、逆らってはいけない雰囲気。私にとってはありがたいけど、秋人は不服そうにしながら連れて行ってくれた。



 着いたのは男子寮の部屋の一つ。織姫さんは女の人だと思っていたけど。


「伊織ー、いる?」

「ノックすれば分かるから。」


 出て来たのは詩織によく似た男の人。


「また弘樹さんに怒られたの?」

「今日は違う。この子が会いたいって。」

「初めまして、神野愛良です。織姫さんですか?」


 伊織は少し嫌そうにする。織姫さんが男の人はやっぱり何かおかしいよね。


「織姫ではないね。誰がそんなこと言ったの?」

「詩織っていうね、」

「ああ。ごめんね、妹が。」


 二人とも秋人のいとこだそうだ。詩織は秋人と同い年で、伊織は慶司と同い年。

 それから話を聞いても、織姫さんと彦星さんの知り合いは教えてもらえなかった。


「じゃあ、他でも探してみるね。」


 この後、女子寮に戻って、桃子にも聞いてみたの。


「残念だけど、彼らとはジャンルが違うの。」


 本当に他の人と変わらない答えしか得られなくて、地道に自分で聞いて回るしかなくなってしまった。



 同じクラスにも、織の字がつく子がいる。


「千織は織姫さん?」

「違うわ。どうしてそんなことを聞くのかしら。」


 理由とここまで経緯を話せば、新しい考えを提示してくれた。


「なるほど。それなら、姫っていう字が入っている子にも聞いてみないとね。」


 その千織の言葉を信じ、同じクラスの心当たりを訪ねる。


「早姫は織姫さん?」

「そうだよ。」


 そうすると当たりだったの。私、実はもう織姫さんと友達だったみたい。


「じゃあ、彦星さんは知ってる?」

「ううん。探してるの。」


 逸れてしまったのかな。一緒にさがしてあげよう。いたいのにいられないのは嫌だと分かるから。


「きっと彦星さんも探してくれてるよ。だから、二人で探せばすぐに見つかるよ。」


 励ましたのに、早姫は首を横に振った。


「そういうことじゃないの。私は、私の気に入った人に、彦星さんになってほしいの。」

「ふーん。じゃあ、どういう人が彦星さんなの?」

「私を認めてくれる人よ。」


 早姫は褒めてほしい。それなら私にもできる。


「綺麗だよ、早姫。」

「ありがとう。でも、私は違うの。瑞穂ちゃんみたいに器用でもないし、エリーちゃんみたいに勉強もできないし、愛良ちゃんみたいに可愛くもない。」


 私もお勉強できるよ。学年で二番目だから。エリーちゃんの次にできるの。

 早姫はなぜか自分のできないことばかり挙げていく。早姫にもできることはたくさんあるのに。


「でも、早姫はお掃除をきちんとするし、先生の頼み事もいっぱい聞いてあげてるよ。」

「それだけ?」

「え?えっと……」


 他には、と思い出していると、早姫は待ちきれなくなってしまった。


「思いつかないでしょ?愛良ちゃんは、可愛くて、純粋で、思いやりがあって、優しくて、意外と勉強もできて、すぐ色んな人と仲良くなれる。」


 褒めてもらえて嬉しいけど、早姫の言葉はただ私を褒めているだけのようには感じられない。そこにどんな思いを込めているのかははっきりと分からないけど。


「確かに早姫は、工作の授業でも自分の思ったようにはなかなかできなくて、私よりテストの点数が低くて、仲のいい人は少ないけど、いい子だよ。」


 頭を撫でてあげる。私はそうされると嬉しいから。でも、早姫は嬉しそうにしてくれない。


「愛良ちゃんにもそう見えてるんだね。私だって、もっとすぐ色々覚えてたいし、色々作りたいし、愛良ちゃんみたいに色んな人に可愛いって言われたいし、色んな人と仲良くしたい。」


 色々したいと言っているのに、楽しそうではない。私ももっと色んなことを知って、色んなことをして、色んな人と知り合って、同じことを考えているのに。そうできると考えるとドキドキわくわくしてくるの。


「早姫はしたいことがいっぱいなのに、楽しみじゃないの?」

「私は愛良ちゃんみたいに能天気じゃないの。」

「悩み事?」


 能天気は、物事を深く考えない人のこと。前にも言われたことがあるから知っている。私だって色々考えているのに。なぜかみんな意地悪な顔をして言うの。


「愛良ちゃんは悩み事がなさそうで幸せそうね。」

「あるよ。今週はお兄ちゃんに何を言おうかなとか、友兄と何をしようかなとか。」

「そんなの悩みじゃないわ。」


 考えているのと、悩んでいるのは違う、ということかな。それなら、悩み事が何かは分からない。


「じゃあ、早姫の悩みは何なの?」

「器用じゃなくて、可愛くもないのに、勉強もできないのが嫌。」


 できるようになればいいけど、早姫には難しいのかもしれない。だから言ってもいいのは、したらいい、ではなくて。


「したいのにできないのは嫌だよね。」


 これ以上なんて言ってあげればいいかは分からなかった。

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