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シキ  作者: 現野翔子
緑の章
115/192

ちょっと休憩

 昨日がお休みだったから、今日はしっかりお勉強をする日。お勉強中はお勉強に集中して、恵奈の助言を実行しない。するのは休憩に入って、お茶をする時だ。

 いつものように教科書や資料集を読んで、一昨日から一週間くらい前に勉強した部分の確認問題を解く。前回の問題でも間違いはなかったから、その直しや確認はなしだ。


「お疲れ。」

「今日は何?」


 クリームとさくらんぼが乗ったプリンだ。恵奈の助言も実行したいけど、これも食べたい。


「恵奈と友幸さんが羨ましがってたよ。毎日こんなお菓子食べてて太らないなんて、って。」

「頑張って勉強してるから甘い物が食べたくなるの。」


 目の前に置かれた皿の誘惑を振りほどき、いよいよ実行の時だ。正面に座る秋人の膝の上に座った。


「え、何?お前、何かあった?」

「ううん、何となく。」


 戸惑って、顔を覗き込まれる。熱はないよな、と額に手を当てて確認された。お兄ちゃんと同じで温かい。

 休憩時間はそんなに長くないから、他のことを試すのはまた後にして、お菓子に手を付ける。カラメルソースとクリームが混ざっていて、プリン本体も一緒に食べると甘さと香ばしさが同時に味わえた。


「いや、まあ、良いけど。この状態でよく平然と食べられるな。」


 だけど秋人もプリンを食べ始める。人のこと言えないね。どうして平然と食べられないと思ったのかは分からないけど、何かを感じたらしい。恵奈に忘れないように報告すれば、教えてもらえるかもしれない。

 最後に残しておいた、少し酸味のあるさくらんぼを食べて、休憩は終わりだ。教科書と資料集を引き寄せて、お勉強を再開しよう。


「このままやるんだな。それされると俺の作業、ああ、まあ良いか。」


 何かごちゃごちゃ言われるけど無視して読み始めれば、諦めたように腰に腕を回される。そんなことしなくても落ちないのに。

 今日は皇国史のお勉強。もう近代に入っていて、同じ学年の子の両親や祖父母の年齢なら生きている人もいるくらいになっている。今日で皇国史は一通り終わらせて、後は忘れないように確認問題を解いていく予定だ。

 大陸のエスピノ帝国と戦争したけど、戦場になったのは大陸側だけ。国内の移動でも船を多用していた皇国が帝国に海を越えさせなかった。だから、皇国の人たちは戦争をした時代を生きた人も、戦場に向かった人以外はあまり戦争を身近に感じていない。武器とかを作ったり食料を支援したりはしたけど、襲われる心配はなかったから。

 そんな風に読んだ内容を反芻して、私は集中していたのに、ふいにお腹を撫でる感触に邪魔をされた。


「もう、何?今、お勉強中だよ。」

「あ、いや、ごめん、何でもない。今のは俺が悪かった。」

「教えるのに邪魔しちゃダメでしょ。何かあったの?」

「悪かった。」


 だけどお腹と腰をなぞる手は止まらない。これでは集中できそうにない。


「何?お勉強していい?」

「ちゃんと食べてるんだよな?」

「食べてるよ。間食までしてるの知ってるでしょ。」


 秋人やエリスに比べると頼りない体つきをしているのは知っている。それに毎日見ているのだから、そんなの今更だ。


「俺の手で腰一周できそう」

「くすぐったいよ!」


 試そうとする手を止める。そこまで細くはないのに。頑張ってご飯もたくさん食べよう。今もお腹いっぱい食べているはずだけど。


「あ、悪い。今のなしで。」

「なしになりませんー。」


 今は休憩時間にしよう。これで今日の予定まで進まなかったら秋人のせいにできる。その分、明日頑張らないといけなくなるけど。

 そうこの後の算段をつけていると、まだ私の腰回りを確かめつつ何やら呟いている。


「俺は食べた分運動してるから良いとして、愛良は勉強ばっかりだよな?どこに食べた分消えて……」


 何か思いついたように、腰回りをなぞっていた手が上がってくる。


「ちょっとそれはダメですー!それされたら殴って良いって聞いたから!」


 立ち上がって拳を振り上げる。両手を挙げて降参を示すから、殴ることはやめてあげよう。


「悪かった、ごめん。今のは本当に悪かった。」

「もう仕方ないなぁ。」


 膝の上に戻って、教科書を手に持つ。念を押すことも忘れずに。


「次はダメだからね。」

「ああ、また座るんだな。」

「ダメだよ?」

「分かってるよ。今の、友幸さん、はまあ最悪良いとして、アリシアさんと優弥さんには内緒な。」


 私が話したい相手は友兄と恵奈だから、エリスとお兄ちゃんに言わないのは約束できる。


「いいよ。お勉強するから、今度は邪魔しないでね。」

「了解。」


 手が動く気配がないことを確認して、お勉強を今度こそ再開した。




 お夕飯の後は自由時間。何とか予定の箇所までお勉強が進められたから、恵奈の助言に従って友兄にお話だ。


「――ってことがあったんだよ。」

「まず、愛良はなんで、そんなことをしようと思ったんだ?」


 これは答えられない。恵奈にはその部分を内緒にしておいたほうが楽しいよとも教えてもらっている。後できちんと伝える予定にはなっているから、今は隠してしまおう。


「内緒。約束だから。」

「誰に内緒って言われたんだ?」

「恵奈と秋人。なんでしようと思ったかは恵奈に内緒って。秋人には、したことを、友兄とエリスとお兄ちゃんに内緒って言われてるの。」


 友兄には絶対に内緒ではなかったから話してしまうけど、あの言い方なら許してくれるだろう。


「へえ、なるほど。秋人は分かっててやったわけだ。よく分かった。愛良、教えてくれてありがとう。」

「どういたしまして。でも、なんで怒ってるの?」


 怒っている時の顔をしている。私に対してではなさそうだけど、秋人はきちんと謝ってくれたから、もう怒らないといけないようなことはない。


「秋人がいけないことをしたからだな。」

「謝ってもダメなの?反省してたよ。」

「愛良が気付いていないのを良いことに、注意をしなかった部分もいけないことだからな。あれも一応家族以外の異性に入るから、そういうことはしないように。」


 恋人にするようなことを試してはいけないらしい。でも、気持ちの持ち方次第で変わるとか、恋人同士がするようなことを友人同士ですることもあるとか、恵奈は教えてくれた。その点で恵奈と友兄は違う考えを持っているみたい。

 他にも色々試してみようと思っていることはあるけど、これ以上は怒られてしまいそう。今日はこの辺にして、また忘れた頃に試すことにしよう。


「分かった、しない。」


 今日はしない。来週もしないかな。




 後はお勉強の進み具合の話をして、お風呂の時間だ。恵奈にお着替えの用意をしてもらいながら、今日の出来事の報告をしようと思ったのだけど。


「今日は秋人様と入られますか?」

「ううん。さっき友兄に注意されちゃったから、今日はやめとくね。」


 一緒に寝るのはどうなのかな。お兄ちゃんとか友兄とか、エリスとかラウラなら一緒に寝ても、お風呂に入っても、誰もいけないとは言わないのに。

 お風呂で気を取り直して、今日の報告だ。


「それでね、なぜか友兄は怒ってたの。」

「それはそうでしょうね。大切な妹に手を出されてしまっては困りますもの。それも騙して、なんて。後でアリシア様からもお説教していただかないといけませんね。」

「秋人、嘘ついてたの?でも、エリスとお兄ちゃんには内緒って言ってたから、エリスに言うのはダメなの。」


 約束は守らないといけない。恵奈にも念を押して、湯船に浸かる。ほかほかして温かいけど、夜は一人で寝ることになる。お兄ちゃんと一緒に住んでいる時は、いつも二人で寝ていたから、少し寂しい気持ちになることもある。お風呂では暖かいから寂しくならないけど。

 体が冷えてしまわないうちにお布団に入るけど、どんどんと寒くなってくる。きちんと被っているから体はそこまで冷えないはずなのに、寂しいから寒い気がしてしまう。今日は特に昼間たくさん触れていたから、そう感じてしまうかもしれない。

 一人で寝るのは諦めて、お部屋を出る。


「ねえ、一緒に寝よ。」


 絶対に怒られない友兄の所。秋人の所は怒られる可能性があるから、試すにしてもまた今度だ。


「良いよ、おいで。」


 微笑んで迎え入れてくれるから、こっちが正解。お布団で並べば、お兄ちゃんほどは温かくないけど、一人よりは温かい。向かい合って手も握ってくれるけど、今日はお兄ちゃんみたいに抱き締めてほしい。


「ねえ、ぎゅっとして。」


 お願いすれば、ぎゅっと抱き締めてくれる。でも、なんだかきちんと包まれている感じはない。何かがお兄ちゃんとは違う。ちゃんと安心できるように、その位置を探して少し動くけど、何かが違う感覚は残っている。


「愛良、動かれると寝れない。」

「だって何かお兄ちゃんと違うんだもん。友兄、きちんとぎゅっとして?」

「してるって。」


 何が違うのかきちんと観察してみる。横に寝転んで、向かい合っているのは一緒。見上げた位置に頭があるのも一緒。だけど、肩幅とか、腕のたくましさが違う。お兄ちゃんの腕はもっと太くて、手も大きい。


「友兄、小さい?」

「小さくない。優弥さんは騎士でしっかり鍛えてて、背も高いだろ。」


 体格で言えば、秋人のほうがお兄ちゃんに近かった。今日は諦めて友兄の所で寝るけど、次は秋人の所にしよう。友兄と手を繋いで寝るのも温かくて好きではある。


「小さいよ。私の知ってる男の人の中では、たぶん一番小さいよ。」

「じゃあ愛良の周りが大きい人ばっかりなんだな。」


 そうなのかな。私より年上の知り合いを思い出せば、みんな友兄より大きかった気がする。並んでいるわけではないから、はっきりとは分からない。

 前に同じ学年の子と会った時はどうだったかな。


「そうだ。あのね、私、女の子の中でも小さいほうなんだって。で、兄弟姉妹だと体格とか近くなりやすいんだって。」


 つまり、友兄は男の人の中では小さいほうになる、かもしれない。アルセリアは私が大きくなる前に見ただけだから、女の人の中で小さいほうだったのか大きい方だったのか分からないけど。


「明日も勉強するんだろ。ちゃんと寝て休んでおかないとな。ほら、お休み。」

「はーい、お休み。」


 これ以上この話題を続けたくないからだと分かったけど、休まないといけないことは本当だから、大人しく従った。

 明日もお勉強、頑張ろう。


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