第七話【呪いの術式は恐ろしい】
さてさて、この案件を、俺はどうやって解決すれば良いのだろうか。
「すまん、ちょっと意味が分からないんだか.....」
もはやちょっとどころの話ではない。
「だから、そのままの意味ですよ!」
すると、彼女はこちらの方に左腕の制服の裾を捲り見せながら話し始めた。
「ここにあるそれが証明です。私は常に誰かから監視されてるんですよ」
「それってつまり、誰かに能力をかけられるってことか?」
白鷺は元気がないのか頷くとまた俯いてしまった。改めて彼女の左腕を見ると、紅い紋章のようなものが浮き上がっていた。当然、普通の人は見たら驚くだろうが、これはきっと、涼風でも対応できた話だろう。
「……一応、心当たりはある」
「本当ですか!?」
待たしても白鷺は身を前のめりにし、こっちに近ずいてきた。いや、だから近いって。
「多分だが、それは術式系の能力だろう」
「術式.....系?」
「あぁ、その通りだ」
彼女の頭の上にはてなマークがあったようなので、一から説明した。
「術式系の能力ってのは簡単に言うと、事前に仕込んだ罠に対象者がかかるって感じだ」
それからなるべくわかりやすいように説明した。
ーー術式系の能力とは、予め能力を発動させ、対象者に、いわば刻印を付けるものだ。術式にかかると、相手の能力にもよるが、マインドコントロールなどといった凶悪犯罪にもなりうる可能性がある、極めて危ない能力。系統も様々あり、殺めることに長けたものもあれば、索敵に長けたものもある。
それ故に、術式といった能力を保持する人は数少ない。過去の事件では、術式による他人操作で、目的である人物を殺害させたという事例もある。だが結局、被害者の刻印を調べ、簡単に真犯人を見つけることができたが。
だが、問題は、なぜ彼女が術式にかけられてしまったのかだ。白鷺は『補助』コースの生徒であり、『実技』コースではない為、実質的な戦力など皆無だ。これは問い詰めていくしか無さそうだな。
「かけられる理由とか心当たりはあるのか?」
「多分、私の能力ですかね。私の能力は『過去写し』って周りから言われています」
それは、俺でも聞いた事のない能力だった。
「それはどんな能力だ?」
「簡単に言うと、相手の実際に起きた過去の出来事を頭の中で再生されるんです。ただ、発動条件が一切わからなくて……」
言うなればフラッシュバックみたいなものか。それか記憶が微塵となり他者の脳に直接的に侵入するのか……。わからない以上、どうすることもできないな。この件は後回しにしてだ。
「残念だが能力は俺にもわからんがつまり、お前はいつ術式が発動して、殺されてもおかしくないって状況って事で合っているか?」
「はい、間違いはありません」
「それで、俺に助けを求めていると」
「そうです。お願いします。あの、私見たんです。昨日のショッピングモールでの事件を」
「昨日、あそこにいたのか」
「はい、ちょうど買い物をしてて」
俺も背後に目はないからな。てっきり避難して誰もいなかったと思っていた。
「で、何を見たんだ」
「あの時、明らかに九条くんだけは違いました」
「具体的に何が違う、と?」
「わかりません。ただ、あそこにいた人達の中で落ち着きと言うか......と、とにかく助けて欲しいです」
俺は少し悩んだ。ここままでは彼女が危ないし、警察が動き、大事になれば犯人が術式が発動する可能性が高い。少し悩んだ結果、
「状況は理解できた。……だが、断る」
そう答えると意外にもすんなり受け入れた。
「そう……ですか。ありがとうございます。話だけでも聞いてくれて良かったです」
白鷺は立ち上がり帰ろうとする。しかし、俺はこのままだと非常に後味が悪かった。だから別の提案をする。
「俺は無理だが、この学園の生徒会長さんにこの話をつけてはやれるぞ」
「いいんですか?」
「あぁ、もちろん。ていうか、聞いてるんだろ」
そう言うと、扉が開き涼風が姿を現した。
「涼風さん!?」
「わかっていたのね。だったら最初から呼び止めておけばよかったじゃない」
「すぐにいなくなったのはそっちだろ。で、今の話を聞いて協力するのか?」
ツンデレか。だったらもう少しわかりやすい態度をとって欲しいものですね。涼風は白鷺の方へ向き直す。
「白鷺さん、その件、私に協力させて貰えないかしら。もちろんこれは生徒会としてもだけど、私個人としても」
「い、いいんですか?」
「当たり前よ」
「で、ではよろしくお願いします!」
結局俺ではなく涼風が対応するという形になった。
時間は午前7時を指していた。窓の外を見ると、登校してくる生徒がちらほら出てきた。俺もこんな早く学園へ来たのは初めてかもしれない。普段はまだ寝ている時間だし。
俺は一度生徒会室を後にして廊下を歩いていた。それにしてもさっきの話、どうも都合がよすぎる。何故、術式をかけた犯人は俺たちと接触してる時点で発動しないのか。それにタイミングよく昨日の事件現場にいたことも。
まぁ、それは今日中にわかる事だろう。その罠を仕掛ける為に今向かっている。俺が足を止めたのはとある教室だった。『補助』コース、一年生の教室だ。時間も早いため、まだ数人しかいない。しかも、入学して間もないからな。緊張してるせいとも多いだろう。そんな中、一人だけ異質を放っている生徒がひとりいた。
「根城はいるか?」
「あ、先輩!」
俺が名前を呼ぶと颯爽と歩いてくる。
根城 械斗。その格好はやはり他の生徒とは違い、学園指定の制服の上には白衣を身にまとい、頭には作業用のゴーグルがあった。身長はそこまで高くなく、まさに機械オタク満載だった。ちなみに俺が『七星』だということを知っている。あと数少ない顔見知り。
「どうしたんすか先輩」
「いや、ちょっと頼みがあってな」
俺が頼みたい内容をこっそり話すと、
「先輩。それはモラル的ダメっすよ。そんな同じクラスの女子の......」
俺はすぐさま根城の口を抑え、これ以上喋らせないよう言う。
「勘違いされたらどうする。いいから頼む」
幸いにも女子生徒はいなかったが、噂にもされたら社会的にまずいなこれ。
「まぁ、先輩を僕は信用してますからね。頼みはいいですけど……ホントに大丈夫なんすかね?」
「あ、あぁ心配すんな。その年齢は対象外だし」
「いやその思考がまずいって言ってるんですけどね。……まぁ、いいや。昼休みには完成すると思いますよ」
「ありがとな、じゃ、昼休みには取りに行くわ」
「了解です。期待して下さいね」
俺は一年生の教室を若干の心配をされながら早急に去っていた。場合によっては今の行為が命に関わるかもしれない。できれば意味がないといいんだが。
俺はそんな願いをしながら、そのまま自分の教室へ戻る。時間はまだあるが生徒会室は今使っているし、自分の机で寝ていよう。
「ッ……寒っ」
4月の朝はまだまだ冷え込んでいた。
――同時刻、九条くんが生徒会室を出ていったあと、
「話は聞いたけど、あなたの能力に興味があるわ」
九条くんとの話を聞いていて彼はあまり興味を示さなかったけど、『過去写し』と呼ばれている能力。
「あまり大した能力ではないと思いますけどね。それに、自分自身もよく分かってないし」
「いいえ、私は素晴らしいと思うわ。わたしの能力は、場合によっては人を殺めることもできる、そんな残酷なものよ」
自分でも分かっていた。誰かが喜ぶような能力では無いことを。
「でも、私は素敵だと思いますよ。氷って色んな姿に変われるし、カッコイイって思うし」
「そ、そう、ありがとう」
誰かにそんな風には言われたことは初めてかもしれない。涼風の顔は少し赤らめていた。
「それと、同じ学年だし敬語じゃなくていいわよ」
「いいんですか? じゃ無くて、いいの?」
「えぇ、もちろんよ。頼みを受けた以上、もう他人ではないもの」
「えっとじゃあ、せっかく氷を使うから、氷ちゃんって呼んでもいい?」
「それはそれはやめてちょうだい」
「えぇ、なんでぇ〜〜」
そんなたわいもない話していたら時間はあっという間に過ぎ、
「そろそろ時間ね。今日の放課後にまた会えないかしら」
「そのことだけど、一緒にショッピングにでも行かない?」
「だいぶ急ね。まぁ、いいわ。ちょうど今日は巡回がないから」
「やった〜。じゃあ、また放課後ここに来るね」
そう言うと彼女は生徒会室から出ていった。
なんだか、とても変な子という印象だった。でも、ここまで一緒にいて居心地のいい人はいなかった。だからこそ、彼女にかけられた術式を解かなければならない。その関係は昨日出会った他人から、命を守る依頼人へと変わっていった。
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