第六話【新たな来客は可愛らしい少女でした】
放課後というものはゆっくり帰宅し、溜め込んだアニメを消化し、飯を食べて寝るが俺流のルーティンとも言えるものだ。
しかし、それは今となっては過去。俺は仕方なく都市の巡回をするのであった。帰りたいなぁ……。
『要塞都市』そんな言い方もする奴もいる。だが表を見ているだけの人間にはわからない。裏の社会がどのようなものになっているのかを。
ーーだったら、俺が証明してやろう。律儀に都市の安全を願うバカな連中どもとは俺は違う。俺にはこの『第六感』がある。力がある。その力を行使しない理由がない。
簡単だ。内部から壊していけばいい。ただ、それだけのことだ。社会を乱し、新たな世界を支配するのはこの俺だ。全ては俺を候補から落としたやつが悪い。
ある男は、燃え盛る炎をまとい、そんな想いを内に秘めていた。
「あの、九条くん、いますかね」
「それよりも、あなたは?」
「あ、ごめんなさい。私は『補助』コースの2年、白鷺 葵と言います」
『補助』。正確には『実技』とは違い、主にサポート的な分野を学ぶコース。例えば、能力者に適合した機械を作ったり、体調を管理できるような知識を学ぶ。
しかし、この学園ではコースは違えど、クラスは一緒というケースもある。ただカリキュラムの中身に違いがあるだけだ。よってこの白鷺 葵って子が『実技』のコースの人に接触する可能性も十分にある。
「で、どういった件で九条くんにご用があるのかしら?」
「えーと、ちょっとクラスが一緒のものですから、連絡事項があったので伝えたいなと思いまして……」
口ぶりからだいぶ緊張気味だった。それもそのはず、普段生徒会室は立ち入りは生徒会のものか先生しか出入りしない。
「ここに九条くんがいるっていう根拠は? 誰かに聞いたの?」
「はい。担任の伊藤先生に聞きました」
「そう。でも残念ね。九条くんならさっき都市の巡回に出て行ったわ。多分、今日は戻ることはなさそうね」
時刻はすでに午後5時を回っている。どうせ適当にやって今頃帰っているだろう。まぁ、そのことを見越した上ではあったが。
「そうですか……わかりました。では明日の朝伝えます」
「そう。それと、同じクラスだったらクラスの連絡コミュニティがあるでしょう」
「それがですねー、うちのクラスの人、誰も九条くんのアドレス知らなくてですね……あはは」
まさか本当に一人だったとは。未だに孤高と孤独を履き違えていたとはね。
「わかったわ。なら明日、6時半にここにまた来なさい。九条くんなら私が朝ここに来るように伝えておくから」
「本当ですかっ!」
そういうと、彼女はいきなり座っているソファの隣まで来て近づいていた。その目はとてもキラキラしていた。
「えぇ、だからちょっと離れてくれるかしら」
「あぁ、ごめんなさい。嫌だったですよね……」
「い、いえ、別に嫌だったわけじゃないけれど。もう少し人との距離というものを大事にした方がいいわよ」
私に注意されながらも、その顔には喜びの笑みがこぼれていた。本当に反省してるのかしら。
「まぁ、今日はもう帰りなさい。また明日、ここにくればいいから」
「はい。ありがとうございました」
そう言ってお辞儀をすると、彼女は生徒会室から出ていった。
窓の外はすっかり夕暮れだった。私が自然とため息をつくと、部屋には静けさだけが漂っていた。
朝は男子高校生にとって非常に大事な時間である。髪を整えるものもいれば、遅刻時間ギリギリまで寝ている人もいる。だが、これは決して『無駄な時間を過ごしてる』わけではい。その時間は大事なものなのだ。俺にだって限界まで寝るという朝のルーティンがあるのだ。
なのに、今日の俺にはそんな時間などなかった。そう、それはつい昨晩のことだ。
『明日6時半、生徒会室、来なさい』
この一文が、なぜか先生用の連絡コミュニティに残されてあった。つまり、早々に支度をし、学園へと向かわねばならんのだ。……ナニコレメッチャブラックやん。
文句をぶつぶつ言いつつも、学園へ向かう九条であった。
「で、こんな朝早く呼んでおいてなんのようだ?」
嫌々この生徒会室について、いざ入るとソファに座っている涼風しかいなかった。
「あら、来たのね。てっきり無視して来ないかと思ったわ」
「仕方ないだろ。来なかったら俺の命が危ないし」
ほんと、こいつが何をしでかすかわからない。凍らして『凍死』なんて洒落にならんからな。
「連絡したのが私だって分かっていたような口ぶりね」
「俺の連絡先を知ってる人は限られてるし、あんな省略された文章を教師は送んねぇーよ。助動詞使え助動詞」
あるだけ不満を言い、涼風とは反対側に腰を下ろす。涼風は用意してあった紅茶をカップに入れ、飲んだあと、
「大体、あなたがクラスの連絡コミュニティに入ってないのが悪いのよ」
「それは……すまん」
頭を掻きむしりながら、渋々涼風に謝る。
「で、無視された質問の答えは?」
俺はこんな早く招集を命令された理由を聞きたかった。
「……正直に言えば、私もわからないのよ」
「は、お前何を言って」
「あなたに会いたいって人がいるから。もう少しで来るんじゃないかしら」
時計の針は6時40分を指していた。すると徐々に足音が迫っていき、閉まっていた扉からノックが響く。
「どうぞ」
涼風が言うと、どっかで見たことあるような、ないような……いや、ないな。おそらく同じ学年であろう少女が入ってきた。肩まで伸びた茶毛と整った顔立ちに幼さが残ってた。指定の制服も着こなし、涼風とはまた違う可愛さがあった。
「いやー、ちょっと遅れてきてすみません……っていたっ!」
彼女が指を指している方向は明らかに俺だった。
「え、なに、俺?」
「では、私はもう必要ないわね。あとは、あなたたちで好きに使っていいわよ」
そう言って涼風は生徒会室から出て行こうとする。おい、ちょっと待てや。
「……あのー、全く理解ができないんですが涼風さん」
「あなたに会いたいって言っていた人よ。私はあくまで仲介役だから」
軽く手を振り涼風は生徒会室を後にしてしまった。……さて、気まずいぞ。女子と2人だなんてほとんどなかったからな。相手も立ったままだしな。とりあえず、座らせた方がいいか。
「そこ、適当に座ってくれ」
「う、うん」
俺は余っていた紅茶を新しいカップに注ぎ、彼女の元に置く。彼女との間にあるものはテーブルだけだ。近いな。
「あの、私のことわかりますよね?」
数秒の沈黙……誰だっけ?いや、もしかしたら過去に会ってるかも知れない。相手の口調からしてそうだ。だからここは相手の空気に合わせるべきではないか。ぼっちにとって空気を読むということは特技ですらある。新年会で披露できるレベル。
「あぁ、あの時のな……」
「ほんとにわかってます?」
彼女は前のめりなって顔を近づける。ヤバイ、近いって。ここは天国か。
「あー、いや、すまん。わからん」
こんな女子に嘘などつけなかった。ちくしょーこの煩悩め。
「私、これでも同じ『クラスメート』なんですけど」
その態度はプンスカしていた。やだちょっとカワイイ。
「ん、待て、じゃあ名前は?」
「あ、まだ言ってなかったですね。私の名前は白鷺 葵です」
白鷺……いたようないなかったような……まぁいいか。クラスになんて関わりが一切無かったら覚える気もなかった……てか、新学期2日目でどうやったら覚えられんだよ。
「で、そんなクラスの人が俺になんのようだ?」
用件について切り出すと、白鷺の顔にあった笑顔が少しずつ消えていき、俯きながら口を開く。
「あの、……私を、た、助けてほしいんです」
「いや、全く理解できないんですが……」
すると、顔を上げ、
「――私、誰かに命を狙われているみたいなんです」
彼女の口から出た言葉は想像もできない内容だった。
ヤベェ、理解デキネー。どゆことコレ?流石に俺には理解できなかった。
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