第三話【七星の正体】
帰宅ラッシュという事もあり、都市の大通りは学生や社会人で溢れていた。しかし、俺と涼風は皆とは反対の方は歩いている。そうか、これが「皆とは違うことをしたい」という事か。中学にいたわ。「俺はお前たちと違う!」みたいなやつ。痛々しくて見るに絶えなかった。やはり理解できんな。
それはさておき、俺はさっきの戦闘を思い出していた。
「けど凄かったな、あの能力は」
「あれはほんの一部よ。あんなんじゃ上を目指さないわ」
あれより上あるとか涼風パイセンちょー怖いっすわ。たが、当の本人は不満げな顔をしていた。
「それにあの時、多少のズレがあったわ。あと0.5秒遅れていたら攻撃を受けていたかもしれないわ」
そう。あの時、涼風には若干の『遅れ』があった。しかし、その『遅れ』に気付いていたのは、恐らく本人含め二人だけだっただろう。
そんな彼女に一つ訊いてみた。
「なぁ、なんでお前はそんな上を目指すんだ? 強さだけが全てではないはずだが」
すると涼風は急に立ち止まり、夕暮れの空を見上げて、
「私は約束したの。また会うときはその力で見つけようと。その為に私は強くならなければならないの」
そこには希望や願望や欲求などではなく、ただ一つの目標があった。人は目標があればそれをこなそうと必死に努力する。何かキッカケにが無ければ始まることなどないのだ。
「だから、私は『七星』に入る必要があるの。『七星』の一人としていけば、必ず見つけられるし、実力の証明にもなる」
「そうか。まぁなんだ、頑張れよな。俺は応援してるからさ」
「そんな汚い声援などいらないわごめんなさい」
「はいはい……」
相変わらずの口ぶりで安心した気分だ。そんな話をしているうちに学園の前までついていた。部活の掛け声もないことから、すでに大半の生徒は帰っているようだ。
「ここまでありがとう、九条くん。後は私が報告しておくわ。最後に、ここに名前を書いてちょうだい」
とりあえず受け取った紙とボールペンで名前を書く。で、これ何?
「これであなたは正式に生徒会の一員だわ。よろしくね」
うっかりはめられてしまった。ハニートラップ怖っわ。ま、どうせ書かなくても強制だと思うが。
「一応、よ……よろしく」
「えぇ、よろしく」
慣れない挨拶は久々にやると照れるな。そんな淡い感情を抱く九条 十夜であった。
それと、別れ際に俺は呟く。
「あ、あとな、さっきのことだが、実際は0.8秒のズレだったぞ」
すると、涼風は怪訝な顔をしながら、
「ど、どういう事?」
「嘘は言ってない。それだけのことだ。んじゃ」
涼風は腑に落ちないのか、顔を困らせていた。それもそのはず。あの時の状況を一番理解していたのは戦っていた本人ではなく、俺だ。
「ちょ、ちょっと待って……」
俺は振り返る事はなく帰るのであった。一人で。
私は九条くんと別れたあと、先生へ事件の報告と生徒会の申請書を提出しに行った。学園の廊下は刻々と色を濃くした夕焼けに染まっていた。
職員室の前まで来るとノックしあいさつをする。すると中から「入りたまえ」と伊藤先生の返事が聞こえたので扉をあけはいる。
「失礼します。今回の事件の報告に来ました」
「お疲れ様。ケガは……大丈夫だな」
「はい、今回はそこまで大変ではありませんでしたから」
ここまでのやり取りで終始笑顔でいる先生に違和感を覚えた。
「先生、どうしてそんなに嬉しそうなのですか?」
「いやぁ、別に大したことではない。それよりどうだ、アイツの実力を見たか?」
多分アイツとは九条 十夜のことだろう。別にあの少年はボーッと見ていただけなので冷めきった返事をした。
「いえ、あの人は何にもしていません。ただ見ていただけ……」
その時、私の脳裏にさっきの言葉が浮かんだ。
「ん、どうした?」
「いえ、別に」
だか、彼は明らかに言ったのだ。まるでただ見ていただけであの戦闘の真理が。しかし、どうしても気になるため、ダメ元で先生に質問した。
「あの、先生は九条くんについて、何を知っているのでしょうか?」
すると、先生はカップに入れていたコーヒーを飲み干し、
「『七星』は当然知っているな、というよりもお前が一番それに近い生徒だからな」
「えぇ、ですがそれの何が九条くんとの関係が?」
「この前、君が『七星』の候補として上げられ、そのまま正式に承認って形だったんだが、途中で飛び入りで参加して見事そっちが承認された。分かるだろ」
「はい、それは存じ上げております。私には少々釈ですが」
あれはつい先日、新たな『七星』枠に私が選ばれる予定だったが、他の人も候補に選ばれ、私は見事に落選してしまった。
「彼は一体何者なのでしょうか?」
伊藤先生は深々とため息をつき、
「それが彼だよ」
「それは……どういうことですか?」
「――そのままの意味だ。彼が、『七星』第四等星 九条 十夜だよ」
その言葉は、空気の風と共に開いていた窓からすり抜けていった。
その少年は戦うことに理由を見出さない。ただ一人歩き、必要とあらば叩き落とす。この要塞都市の中は退屈がない。常に新たな能力者が現れる。所詮は一人勝ち。誰かを蹴落とすのは容易い事だ。
だが、今日の出会いで何かが変わったとすれば、それはそれでいいのかもしれない。こうしてまた、嘲笑を浮かべながら、新たな戦いに胸を高まらせ、夕陽の中へ消えていった。
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・『七星』メモ
〜〜〜〜〜〜能力〜〜能力者〜〜〜〜
第一等星 『???』 ???
第二等星 『???』 ???
第三等星 『???』 ???
第四等星 『空間操作』 九条 十夜
第五等星 『???』 ???
第六等星 『???』 ???
第七等星 『???』 ???