第二話【この世界の能力者】
男というものは実に臆病な生き物だ。その証明に今、この状況がまさに例である。
あれから何分経っただろうか。ぼっちたる者、一人で時間を潰すのは特技である。しかし、二人きり、しかも学園一の美少女となると、なんか気まずくなってしまう。
「あなた、どこかで会ったことある?」
「いや、ないと思うが」
「あらそう。ならいいわ」
だが、それもつかの間、書類を整理していた涼風が、書類を一箇所にまとめて机の角に置くと、時計を見た。
「時間ね」
俺は訳も分からず訊いた。
「見回りよ。時間は午後2時。それに今日は始業式。午前放課よ、学生のトラブルは付き物。警察だけでは対処できない案件もある。だからするのよ。分かった?」
猿にでも分かるような説明を受け、納得する。それにしても、相変わらず怖い。
「じゃあ、俺はこれで」
「何を言っているの? あなたも行くのよ」
で、ですよね〜。
星下学園は、全国でも名の高い能力育成学校。その周りの街並みは、最先端技術が施された、まさに科学都市。面積はおおよそ、東京都一個分。都市の周りには高さ約40メートルの壁がある。
その内部にも壁があり、四方に区切られており、北の都、東の都、南の都、西の都と分かれている。実に面倒臭い。
そして星下学園があるところは西の都。他の都よりも機械技術が卓越している。そんな所に俺はこの女と歩いていた。
「基本的にはあなたは何もしなくていいわ。いえ、何もしないで。犯罪者と勘違いされるから」
せめて、人間扱いされて嬉しいと思った俺は病気だろうか。
「わかった。何もしない。だけど、本当にこんなことして意味あるのか?」
「理屈ではなく事実よ。決して無駄ではないわ」
どうやら、この涼風にも信念みたいなものがあるようだ。ちなみに俺の信念は『五十歩百歩』。どちらも同じなら、俺は五十歩がいい。超楽だ。
それから20分ほど経ったが何一つ事件と事件は起こらなかった、と思ったがそれは一通の要請で事態が変化した。涼風は自分の携帯を取り出す。
「はい、こちら星下学園生徒会。何かありましたか。どうぞ」
「ショッピングモールにて、立てこもり事件発生。犯人は灯油をばら撒き、ライターを手にしています。能力者のお力を貸していただきたい」
「了解しました。五分後に到着します」
すると涼風は無線を切り、急いで走り出した。
「お、おい、どこ行く?」
「すぐ近くのショッピングモールよ。早く着いてきて」
「はぁ、マジかよ」
ここしばらく走っていなかったので、少しばかり心配だった。筋肉痛やだなぁ〜。
現場のショッピングモールまでピッタリ5分で着いた。俺もなんとか着くと、もうすでに始まっていた。戦闘が。
「大人しくしなさい。あなたは包囲されてるわ。観念しなさい」
「ふっ、黙りやがれ。こっちには人質がいるんだ。手を出したらどうなるかわかるよなぁ」
ついた現場は最悪の状況だった。そこにいたのはナイフを持った青年で、女の子が人質にされていた。これはまずい。ま、あいつがどう出るか、お手並み拝見ってとこだけど。
「あなた、どういうつもりで刃を向けているかは理解できないけど、他人の命を代償に取る行為をする人は、大抵人生が詰んでるわ。どうやら、あなたもその一人のようね」
……どこにいてもその毒舌は健在のようです。案の定、相手の堪忍袋に触れてしまったようだ。
「あぁそうか、勝手言ってろ。だが、お前の行動一つでこの小さな命が散ることを忘れるなよ」
「えぇそうね。でもそれはすでに不可能だわ」
「あぁ?」
俺にはわかる。ここから始まるのはただの戦闘ではないことを。
すると突然青年の左脚から上が冷気を纏う氷に包まれた。
「な、なんだこれは!?」
「これが私の能力、『氷絶』よ」
そう、これが星下学園の上位の能力者。身体から溢れ出る冷気はまさに絶対零度。能力の対象者を凍える氷で包みこむ。
「これが不可能の理由よ。あなたは私が来た時点で勝機など皆無だわ。そのうちに人質さんも逃げられたし」
一体どっちにびびって逃げたのかはさておき、女の子は颯爽と警察に保護された。ひとまず最悪の状況からは逃れられた。
「くそ、まぁいい。そっちが能力者なら対等だ。こっちも使わせてもうぜ」
すると、さっきとはまた違う、熱気が包みこむ。
「能力、『火花』」
氷漬けされた左手の逆からブォォ、と火が燃え上がり、氷を溶かした。
「あら、あなた、能力者だったのね」
「あぁ、そうだ。俺はお前より強いぜ」
「あらそう、なら私もそれなりの対処をしなくては、無礼というものね」
「行くぜぇ!」
「私の能力を受け止めない。『アブソリュート・ゼロ』」
すると右足から駆け、勢いで飛び込んで来た青年を、彼女は右手一振りで扇状の氷塊を展開。タイミングは正確で、刹那にして身体ごと凍ってしまった。す、ずげぇ〜。
「う、嘘だ…ろ」
「最初から投降すればいいものを」
その出来事は、彼だけではなく、警察を含む皆がその光景に冷汗をかいていた。あれ殺人レベルだろ。
しかし、これが彼女の能力、『氷絶』の力だ。七星候補も伊達じゃないなこれは。彼女はあんな大技を繰り出しながらも、その姿は平然としていた。
「依頼は完了しました。後の処理についてはそちら側に一任します」
警察の人が「了解です」と言うとすぐその場を立ち去った。そして、何故か俺は事件の後処理に対応させられてた。おい、なんでだよ。
無償労働とは実に嫌なものだ。二度としなくない。あれから一時間が過ぎただろうか。日も暮れ、空が夕焼けに染まるころにようやく片付いた。すると、ちょうどそのタイミングで涼風は事件現場にもどった。
「お、おい、ちょっと待てよ」
「何?」
「いや、どこ行っていたのか気になっただけだけど……」
「……いえ、あなたには関係ないわ。ごめんなさい、勝手に抜け出してしまって。あなたには感謝するわ」
また侮辱でもなんやらされるかと思いきや、素直に謝ってきた……だと。うん、案外悪くないな。
「まぁ、あなたは何もしてないけどね」
最後の言葉が無ければ最高なんだけどなぁ。
「これから先生へ報告しないとだから、あなたも付いてきなさい」
「なんで俺が行かなきゃいけ――」
「これは命令よ。立場を考えればわかるわよね?」
……訂正。こいつ鬼だわ。
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