第十話【ヒーローは遅れてやってくる】
「じゃ、やりますかねぇ。能力、『炎脚』!!」
構えの姿勢からそう叫ぶと、たちまち彼の脚から紅蓮に燃ゆる炎がうまれた。それは小さい灯火から稲妻のような炎に。
「さぁ、かかってこいよ。『七星』候補の力見せてもらおうか」
「いいでしょう。所詮はただの炎。私の『氷絶』があなたを貫いてみせるわ」
その氷は冷たく、空気すらも凍りつくほどの零度。誰もが恐れる能力。だけど私にとっで己の為に行使してきた道具に過ぎなかった。
……でも、今は違う。誰かの為に使う私の能力。
「そんじゃ、こっちから行くぜェ! オラァ!」
彼は高く飛躍し、上空から涼風の顔をめがけてかかと落としをした。すかさず両腕に氷を集中させ、それを受け止める。
炎使いは一度体勢を立て直すために後退する。
「へぇ、やるじゃねぇかよ。体術もできるとは情報不足だったな」
「舐めないでもらえるかしら。これでもそこらの能力者よりは格段に上よ」
「じゃあ、もっとスピード上げてくぜェ」
今度は低姿勢から突撃。涼風の懐までくると右脚からの蹴り上げ。それを両腕で受け止める。連続して左脚での横払い。
私はすかさず地面から氷柱を出しそれをガードする。そしてそのまま地面全体に氷膜を展開する。
「――んだコレッ!動かねェ――!」
「無理も無いわ。『氷絶』を前にして勝てる者など殆どいないわ。そのまましばらく凍ってなさい」
圧倒的勝利。相手を完全に無効化するほどの力だった。
――はずだった。
「俺の炎、ナメんなよ」
刹那、急激に彼の脚が燃え上がり、たちまちまわりの氷が溶けていゆく。涼風が白鷺の場所にたどり着くまでに全ての氷が溶けきっていた。
「まさか、氷を溶かしたの!?」
「こんなんで俺を倒せると思うなよォ」
今度は周りに大量の炎球が創り出される。それを一つづつ蹴り、こちらへ向かってくる。
涼風は驚きながらも、素早く氷弾を展開し、相殺させる。重々しい響きとともに水蒸気爆発が起きる。
互いに煙風が襲い、視界が不良になる。
「やっぱすげぇな。いやー大したもんだ」
やっぱりあんなのでは倒せそうにないわね。倒れている白鷺さんを守りながらはちょっと厳しいわね。
「……一気に決着をつけましょう」
「やれるもんならやってみろよォ」
炎使いはまたしても高速移動から距離を詰める。だけど、その手をもう分かっている。彼は遠距離に対しての戦術をあまり有していない。だからこその近距離戦闘。
この技は一定の距離がないと効果がない。範囲が狭むかわりにその力をひとつに凝縮するもの。全てを凍らせる、絶対零度の氷技。
「ッ! の、野郎!」
「これだからバカは助かるわ。『アブソリュート・ゼロ』」
――それは一瞬して咲く薔薇のように。それは人間一人分を飲み込むほどの氷塊。彼女の『氷絶』が炎使いをそのまま氷と化してしまったのだ。
「勝負あったわね。やはり、初めからレベルが違うのよ」
終わった……のかしら。とりあえず横たわっている白鷺さんを介抱しなくては。
「白鷺さん、だ、大丈夫? 」
「う、うん。でも、何で助けたの? 私はあなたに嘘をついてまで陥れようとしたのに」
彼女の目には整った綺麗な顔には涙が零れていた。それを右手で拭ってあげると、
「いい、そんなので依頼人を見捨てたりしないわ。それに、私は負けないから」
「ホントに……ごめ」
突如、爆発が起こり、後ろを振り向くと、
「――こ、こんなで終わらねぇぞオィ。」
「どうして……動ける……の」
あれは完全なる、いわば必殺技みたいもの。確実に相手を捕縛するかわりに能力を最大限まで消費する氷技。それを……打ち破られた。
彼の身体からは無数の煙が立ち上がっている。またしても氷を溶かしきったのだ。
「だからよォ、言ってんだろぉォ」
来ていた服はボロボロでもはや立っているのも危ういのに、なぜそこまでして立ち尽くすのだろうか。私には分からなかった。
「俺は負けねェってよォ!」
互いの距離は僅か数メートル。それを目にも止まらぬ速さで近ずき、
「能力者ナメんなって言っただろうがァ」
強烈な右脚によるなぎ払い。その力は鈍器で殴り潰されるかのように。
「――ッ!」
ガードすることができず、そのまま転がり、壁に激突する。
「すーちゃんっ!」
力が出ず、起き上がれない。能力を使用する余力などは残っていない。炎使いはこちらへゆっくりと歩き出す。
「殺すつもりはなかったが、安心しとけ、冥土の土産にそこの女も連れていくからよォ」
……それはつまり、両者の死を意味する。何もかも救うことの出来なかった。
――結局、私には無理だった。勝機はあったのだろうか。ここで負ける自分自身に情けない。
ごめんなさい……白鷺さん。私には……ダメだったみたい……。
炎に燃ゆる脚が制裁を下す斧のように、振り下ろされる。
「死ねえええええぇぇェェェ!!!」
――刹那、ドゴォーーンと地面を抉るほどの衝撃が走る。それは振り下ろされたものでなく、そこから少し離れた場所。そして現れる人影。
――ふぅ、何とか間に合ったな」
そう、最初はただの最低な人だと思っていた。だけど面と向かって模擬戦をした時、まるで違った。それは今の私には表現できないもの。まだ知らない、分からないこと。だから、助けなんていらなかった。
「誰だァ?」
それでも、どこかで望んでいたのかもしれない。その存在に。
「これは派手にやったなぁ」
「聞いてんだろうがよォオイ!」
そう。そこに立っているのは紛れもなく、この前出会ったばかりの人。
「……九条くん……」
「ったく、助けるんだったら最後まで責任持てって言っただろうが」
希望の中にある絶望が覆す瞬間だった。
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