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異世界(ここではないどこか)  作者: いりかわしょう
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その3 『エルフの眼差し』

第三話はエルフの人の視点になります。名前考えるの大変でした。6ケタの数字は何なのか想像してみて下さい(説明の放棄)。

※「異世界(ここではないどこか)」の第三話です。



『エルフの眼差し』



 近い将来、エルフ族は魔族により滅ぼされることになるだろう。もしエルフが一人でも生き残る、もしくはエルフの平和への願いを継承するものがあれば、この手記を役立ててほしい。 

魔術研究府最高責任者パルーム・エルファリオ



 876,453

 魔族との戦争は不可避となった。予知部のリガリー・エルフィンドからの報告によれば、エルフ族の100日以内に第一聖都が陥落する確率は58%、300日以内が79%、500日以内ならば100%であるという。危機管理府はこの数字を一向に受け入れようとしない。「エルフは驕らない」ということわざは誤りだったようだ。私はこれから対策会議に赴く。リガリーがこれまでどれほどエルフ族に貢献してきたか思い出させてやらねばなるまい。


以下、魔術研究府予知部の資料を複製し圧縮錬成した詠唱文である。


中略


 876,467

 第二聖都が消失した。国境を超えるほどの遠隔魔法で跡形もなく吹き飛ばされたという。そんな規模の破壊魔法は理論上不可能なはずだ!観測部は被害状況を把握しきれず、大災害級としか発表できなかった。

 リガリーは新たな予測を出した。10日以内の第一聖都陥落の危険が81%だそうだ。種族統治府と危機管理府は先の会議で却下したはずの「禁呪」の解放を魔術研究府に命じたが、命令というのは学問に対する侮辱だ。しかし未だ軍事力の全容が見えない魔族に対抗するには「禁呪」くらいしかないというのは確かだろう。幸い、封印部のピノ・エルフールは、日常的に「呪術」の封印を解いたりかけなおしたりして喜ぶ問題児であり、水面下で進めさせていた「禁呪」発動の準備はほぼ完了している。


以下、危機管理府観測部による魔力攻撃の解析資料を圧縮錬成した詠唱文および、「禁呪」とその封印解除に関する資料を圧縮錬成した詠唱文である。


中略


 876,468

 読まれていた。魔術研究府が魔族軍に襲われ「禁呪」の書を奪われかけ、今は側近のミノスイアと私は書とともに危機管理府に保護されている。今宵にも「禁呪」は解放されるだろうが、私は重傷により参加できない。なお、リガリーとピノは死んだ。

 

 876,469

 「禁呪」は失敗、さらに第一聖都東部の魔族との国境付近に属性不明の高密度魔力を検知したとの報告。まさにエルフ終焉の時。危機管理府は、ここに軍を送り王族の避難までの時間稼ぎをする提案をしてきた。初めて彼らと意見が合ったと言える。ミノスイアは私にも避難を勧めたが、この体では足手まといにしかならない。おとりを引き受けると伝えさせた。大規模な結界魔法を張り、王族が城に立てこもっていると見せかける作戦だ。


 876,470

 これが最後の記録になる。王族の避難は完了し、エルフ軍は東へと向かった。これまで研究府にあるエルフの魔術と歴史に関する資料は全てこの本に移してある。詠唱文の解放には高度なエルフ魔術が必要なため魔族に奪われることはないだろう。この本は側近のミノスイアに持たせて王族とともに避難させた。そうだ、誰か私がミノスイアにかけた「意識操作」を解いてくれないだろうか。最後まで私に仕えると言って聞かなかったのだ。



追記

 まだ魔族は攻めてきていない。私は今、王座で結界の人柱となっている。別に王座でなくてもいいのだが、せっかくなので座ってみた。案外普通の椅子だ。私の家の高級肘掛け椅子の方が座り心地はいい。冗談はさておき、王の間にはいたるところに装飾として極めて強力な魔力結晶が埋め込まれている。遠隔魔法と相性の良い結晶を見つけたので、それを媒介としこの本に追記している。私が息絶える瞬間まで魔族の情報を記録するとしよう。


追記2

 半日ほどたったが魔族は来ない。先ほどの魔力結晶でこちらの状況をエルフ軍とミノスイアに報告しているが、返信が来ない。あちら側の遠隔魔法の有効範囲を抜けてしまったか……


追記3

 襲撃の時に受けた傷が開きつつある。上級治癒魔法すら弾く魔族の呪いだ、もう数時間ももたないだろう。魔族はまだ来ない。


追記4

 王座にも魔力結晶が埋めてあったとは気づかなかった。しかもありがたいことに治癒魔法と相性がいい。呪いが治るぞ!これなら結界魔法に罠魔法、迎撃魔法を上乗せできる!魔族どもに一泡吹かせてくれるわ!


追記5

 魔族がまだ来ない。王の間の結晶掘りもそろそろ飽きてきた。


追記6

いかんいかん、寝ていた。


追記7

何?東の国境付近に魔族軍・魔力兵器・魔生物、いずれも確認されなかった?ではあの魔力反応は……少年?エルフ族とも魔族ともつかぬ少年が魔力源?現在身柄を確保し聖都に引き返している……わかった、エルフ王にもそれを伝えよう。


ミノスイア、聞こえるか?国境付近の魔力反応が魔族由来ではなく……え?全部聞こえてた?なんで?あ、ほんとだ送信しっぱなしだ。



追記8

 少年の名は「タナカ・リョウタロウ」といい、魔法の存在しない世界から来たという。元居た世界ではタナーキーという敬称があるらしい。どうやら「禁呪」は部分的に成功していたようだ。しかしこちらの世界と異世界とをつないだだけで、誰をどちらの世界に送るかはまるで安定しない。エルフを異世界へ逃がすつもりが異世界の住人をこちらに招くことになったわけだ。


 また不思議なことに、タナーキーは世界転移の際に魔法を使える身となったらしい。その魔力量は一国の軍にも匹敵する。危機管理府の連中は彼を軍事利用する気満々で不快だが、実際のところ、彼の協力なしではエルフの未来は危ういと私も考えている。幸いタナーキーは何人かのエルフ兵と打ち解けており、彼の協力を得ることは難しくなさそうだ。エルフ王と合流した時に魔力の提供を打診してみよう。


追記9

 異世界人の思考は理解できない!魔族軍の話をしたら、いきなり「空間超越」して魔族の王のもとへと行ってしまった!現在彼の救出作戦をまとめている。だが隣国まで行けるほどの移動魔法を使える者などこの国にはいない!


追記10

 タナーキーが魔族の王を倒して帰ってきた……理解が追い付かない……


追記11

 魔王を失い魔族軍が降伏したという知らせは瞬く間に国中に広まった。いまやエルフ国全土がお祭り状態だ。しかし勝利をもたらした英雄タナーキーは魔王の毒を身に受けており、彼の魔力をもってしても三日ともたない重篤な状態だった。エルフ文明の総力を挙げても解毒薬・回復魔法の開発が間に合わないため、危機管理府と魔術研究府合同で「神域調査班」を発足、神域に生息するといわれる「命の花」を採取しに行く運びとなった。


「命の花」採取計画の概要

 毒状態にもかかわらず動けるようなので、タナーキーの「空間超越」で調査班とともに神域外縁部まで行き、そこから馬で探索を行ってもらう。「命の花」を持ち帰る時間はない。医術・薬術魔法の専門家を同伴させ、現地で治療する。


 876,471

 タナーキーを救う旅には私も同行したかったが、国内でやらねばならぬ仕事ができた。タナーキーが異世界の道具をいくつか持ち込んでおり、そのうちの一つ「スマホ」なるものが動かなくなったという。「スマホ」は異世界とつながりあちら側と会話ができる道具らしい。私は修理計画の指揮を執ることとなった。これこそ魔術研究者の本分というものだ。


 魔族の侵攻は防がれたが、エルフの民が負った傷は大きく、巨大な魔力攻撃の謎も残っている。真の平和の実現に向けて、なすべきことはまだ多い。この手記は今後、激動するエルフの歴史を記録するものへと変わるだろう。我らの未来に繁栄あれ。


第三話 完

第四話からようやく三橋の視点に戻ります。パルームさん意外と気に入ってます。

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