異世界(どこだここ)
第二話は田中視点です。ただ、これ読んでも田中のキャラ理解が深まるかというとちょっと……
※第二話は、異世界に飛ばされるまでの、田中視点バージョンです。
「異世界」
窓際の席の三橋雄星はいつもつまらなそうにしていた。そんな三橋を横目で眺めながら、田中遼太郎は少し不憫に思った。三橋の方が頭がいいので自分には彼の悩みは理解できないと思っていたが、自分が楽しいと思う物事に対してことごとくつまらなさそうな顔をする彼は、どことなく寂しげだった。未だに彼とは当たり障りのない会話しかできないが、以前より砕けた態度が垣間見えると、自分は友人にはなれたんだなと思い、田中は時々嬉しくなる。
休み時間毎に三橋の席に行こうとしているのだが、田中の友人は三橋だけではない。同級生達とは基本的に仲がいいので、男女問わず、みんなが田中に話かける。それも当然嬉しく思う田中は、三橋のもとにたどり着くことなく休み時間を終えてしまうのだ。
「おい、三橋ぃ、」
一時間目の終わりはまだみんな眠いのか、そこまで活発ではない。田中にとっては三橋に絡むチャンスなのだ。ちなみに、授業前の朝のタイミングは田中がホームルームに間に合うのに必死なため話しかけられたことはない。
「あれ、三橋?」
反応なし。課題を解いているようだが、近日提出の課題があったかどうか、田中は思い出せない。しかし確信はある。
「お、聞こえてるな。」
三橋はなんだかんだで田中を避けない。
「ねえ今日お前んち遊びに行っていい?」
特に要はないが、なんとなく。
「課題が終わったらな。」
「今日課題出るの?」
「たぶん下田の授業で出されるだろ。」
「あ、今日英語IIかあ。三橋-」
「嫌だ。自分でやれ。」
「もちろんやるよ?でも分かんなくなるからさ、そしたらちょっとだけお助けを。」
甘えすぎると不機嫌になるので、この『ちょっと』が肝心なのだ。
「わかった。少しだけな。」
「サンキュー!」
「田中ぁ授業早く座れぇ。」
「え、まだ一分ありますって!じゃあ放課後な。」
下田先生の授業はいつも寝てしまうが、授業終了数分前には目覚めることができる。ふと窓際を見ると、珍しく三橋も寝ている。下田が出ていくのを待ち、田中はうきうきしながら三橋に近づいた。
「三橋、寝てんの?」
「起きてるよ。」
「嘘つけ、顔に跡ついてる。」
三橋が一瞬恥じらったような表情をした。田中はこっそりと満足し、話題を変えた。
「下田の奴どっさり課題出してる、人じゃねえよあれは。」
「じゃあなおさら課題やらないと、明日で人生終わりたくないしな。」
三橋の返しがいまいち理解できず、その日は一日中授業に身が入らなかった。ただでさえ話を静かに聞くのは苦手なので、放課後三橋に教えてもらうしかない。田中は授業が終わると三橋のもとへと向かおうとしたが、同級生の金本に捕まってしまった。
「タナーキー今日17時からな。」
「え、カナボーン、なんか約束してたっけ。」
「アートアルマゲドンやるっていったじゃん。」
「あー、そうだったかも。」
田中はまるで覚えていなかったが、オンラインゲームなら三橋の家でもできると考え、17時にログインすることを誓った。横目で見ると三橋はもういない。
「タナーキー!すぐよそ見するなよ!」
後者を飛び出し、三橋の通学路をたどって走り出した。田中は以前、いつもつまらなさそうに同じ道を歩く三橋に、寄り道を進めたことがある。
「もう試したよ。」
遠回りもいろいろ試したがすべて飽きてしまったという。
「すごくね、探検家みたい三橋!」
称賛されることなど想定していなかったのか、三橋が驚きとも照れともつかぬ顔をしていたのが田中には印象的だった。彼の『もうすべて知り尽くしたような表情』をもっと蹴散らしてみたいと思った。
「お、いたいた。」
10メートルほど先に三橋を見つけた。田中は早歩きから小走りに切り替え、三橋に声をかける準備をした。今日の三橋は少しぼーっとしている。近づいていることに気づかない。目の前の角から自転車でも飛び出して来たら危ないかもと思い、三橋の先にあるカーブミラーを覗くと……光った。
「三橋!」
田中は走り出した、理解はできていないが何かが変だ、カーブミラーに何も見えない。怪しく光っている、いや正しくは、鏡に映っている何かの光だ。三橋が角に差し掛かる。田中の声が届いていないようだ。得体のしれない直感がした、危険だ。
「三橋!」
もう一度叫ぶ。理由はわからないが無我夢中だった。全力で三橋に飛びつく、しかし捕まえるつもりが勢い余って突き飛ばしてしまった。一瞬、三橋と目が合う、驚いた顔をしていた。田中はその顔に満足しながら、曲がり角にいた「何か」が迫るのを感じていた。
第二話 完
ここまで読んでいただきありがとうございました。第三話はエルフ視点になります。なんでまた寄り道してるんだって自分でも思うので、四話まで飛んで頂いても結構です。