1の3
第一話もいよいよ終わりです。昔よく読んでた小説の文体に似ている気がします。恥ずかしいのも少しありますが、ちょっと嬉しくもありますね。
1の3
その後クラスメイトや田中の両親にもあったが、どうやら田中の存在は完全になかったことになっているようだった。信じがたいが、異世界転移説で考えるしかない。夜になって、田中からメッセージが届いた。
《王様に頼まれて魔族の王を倒してきたぜ》
完了形?!
《順に説明しろばか》
《世界間移動したから特殊能力持ってて、瞬間移動して魔王にいきなり挑めた》
RPG二週目の主人公でももうちょっと優しさがある。とりあえず無傷ならいいが。
《でも魔王に毒食らっちゃってさ、余命が三日くらいって言われた》
致命傷じゃねえか!
《ファンタジーの世界なんだろ?回復魔法とかないのか》
《一通り試したけど、魔王の毒だからみんな弾かれる》
《解毒剤みたいなのは作れないのか》
《今エルフの人たちがやってくれてるけど間に合うかわからん》
だんだん実感が追い付いてきた。このままでは本当に田中が―
《だからこれから伝説の薬草取りに行く》
は?
《瞬間移動で行こうとしたんだけど神域だから入れなくて、エルフの強い人たちと一緒に馬で行くことになった》
冒険の二章始まったよ!
《あとさ、三橋に謝んなきゃ》
《何?》
いやこの状況下だと何言われても怒るも驚くもないよな?
《充電なくなりそう、あと1%》
うああああああああ!
《心配させてごめんな。そっちに戻れるかわかんないけど、いろいろ試してみるよ。このスマホはエルフの人たちに預けて、薬草探しの間に充電できないかやってもらうから》
《わかった》
それしか言いようがなかった。自分にできることはない。
《あ、そうだ、親に俺が毒状態てのは内緒にしてな》
田中にはこちらの状況を何も伝えていない。神域への旅とやらが穏やかなものとは思えないし、ここは田中を動揺させるような情報は避けとこう。
《ああ、わかった。》
メッセージを送ってすぐに、大事なことを言い忘れていたのを思い出した。そもそもの始まりは、俺なんだ。
《そういや、助けてくれて、ありがとな》
《このメッセージは送信できません》
電池切れ。
「ばか!」
俺がだ。ほとんど焦ってるだけだったじゃないか。言うべきことも言いたいこともまるで言えてない。
「ああっ、ばか!ほんとばか!くそ!くそ!」
ベッドに身を投げ出した。いつまでも喚き散らしていたい衝動にかられたが、昼間一度同じようにして時間を無駄にしたことを思い出した。そして、まだ全て終わったわけではないことに気づいた。
「俺も行こう。」
口にした途端、全身に得体のしれない情熱が沸き上がるのを感じた。どうやら俺は自分で思っていたより田中のことが大事だったらしい。
ベッドから起き上がり、荷造りを始めた。急に頭がさえてきた。思えば俺がいっそ異世界にでも行ければと考えていたのが発端ではないか?突飛な発想だが現状がすでに突飛だ。それに、あのトラックも変だ。今思い出したが、俺はあの時運転席を見た、しかしドライバーを見ていない。顔も服装も思い出せない。事故の記憶は鮮明なので断言できる。トラックは無人だった。つまり、あれは事故なんかではなく、「迎え」なのでないか。
リュックには食料と衣類を入れた。物々交換に使えればと目覚まし時計やスマホ、懐中電灯も入っている。玄関のドアを開ける。両親は帰ってきても俺が寝てしまっているのだとしか思うだろう。存在が消えるので心配はかけない。残酷だが意外に気楽だ。12月の冷気が痛い。学校に向かってしばらくあるくと、目的地の事故現場だ。
「こいよ!そっちに行ってやるよ!」
トラックは現れない。もしあれが迎えなら、こちらの世界になじむ外観の物が来る決まりでもあるのだろうか。昼間じゃないと現われないなんてこともありうる。実験を繰り返して少しずつ決まりとやらを絞ってやる。ただ、異世界転移のタイミングがランダムだったり周期があったりすると困るが。
「寒いから、来ないなら来ないって言ってほしいな。」
変にテンションが上がってる自覚がある。近隣住民に見られませんように。
「おい、このまま帰ってもいいのか?間違ったやつを連れて行って恥ずかしくはないのか?」
まあ神のようなものがトラックを送り込んでるとしたらこれも一つの手か。せっかくだ、もう少し煽ってみよう。
「あっそ。所詮そんな覚悟だったんだ。神だか悪魔だか知らないけど、案外意識低いんだね。」
なかなか性格の悪い台詞が出てきた。意外な才能だ。
「ちょっと君、学生?ここで何してるの。」
声のする方を振り向くとお巡りさんが近づいてくるのが見えた。まずい。両親より出くわしたくない人と鉢合わせてしまった。逃げると余計面倒なことになる、大声で悪態ついていたのは良いとしても、この荷物はまずい。どう見ても家出だ。言い訳を考えなくては!
「こんな夜にどこ行くの?」
言葉に詰まったその時、背後からまぶしい光が差した。お巡りさんが顔を背ける。直感的にわかった。来たんだ!振り向きざまに光へ向かって走り出した、直感通り、その先には待ちわびたトラックが!!!
「待ちなさい君!」
お巡りさんごめん、でもこれが今一番俺がやりたいことなんだ。走り幅跳びのようにとびあがり、トラック正面に突っ込む。ヘッドライトの光から外れ、闇になれない目にもかすかに運転席が覗けた。
「あ……」
ドライバーのお兄さんと目が合った。
2へ続く
意外に小説の第一作目はこれになります。本当はここで終わりにしたかったんですが、田中というキャラが気に入ったので……
第二話は田中の視点です。三橋がこの後どうなったか知りたい方は第四話まで飛んでください。