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楽しいファンタジーが書いてみたかったんです。
異世界
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長い道のり、長い階段、長い廊下。長い授業に長い休み時間。
「やっべ宿題やってねえ、木島お前やった?」
「勇エクどこまで行った?ゼキラ倒した?」
「ねえ今日からポテト120円だって。」
「鈴木と内海一緒に歩いてたってマジ?」
「おい、三橋ぃ、」
男も女もうるさくてかなわない。例えばあの中に混ざることができたとして、自分は同じように楽しめるだろうか。
「あれ、三橋?」
愚問だった。そもそもそれが無理だからこうして『話しかけるなと言わんばかりに課題をやっている』フリをしているのだ。
「お、聞こえてるな。」
聞こえてないぞ。何をもってその判断になるんだ田中。
「ねえ今日お前んち遊びに行っていい?」
いつものか。
「課題が終わったらな。」
「今日課題出るの?」
「たぶん下田の授業で出されるだろ。」
「あ、今日英語IIかあ。三橋-」
「嫌だ。自分でやれ。」
「もちろんやるよ?でも分かんなくなるからさ、そしたらちょっとだけお助けを。」
新しい頼み方覚えてきたな。
「わかった。少しだけな。」
「サンキュー!」
「田中ぁ授業早く座れぇ。」
「え、まだ一分ありますって!じゃあ放課後な。」
俺の席に来るタイミングは大体同じ、一時限目と二時限目の間。田中は他のクラスメイトともよく話すので、他の休み時間にあいつと話したことはあまりない。なんなら、俺の家に上がっている時もあまり話さない。俺が課題をやる横であいつがゲームをしているだけだ。
「このanother worldは異世界って意味ね、ファンタジー作品とかであるあるのやつ。うちの息子がはまってんだよねえ。」
下田の授業は緩急があって聞きやすいが、一度話が脱線すると長いのが困る。いや俺も英語の授業に高い意識を持って臨んでるわけじゃないので困るというのは言いすぎか。
「アナザーワールドっていうんだよって教えたらなんか喜んでてさあ。」
横目で観察できた範囲の生徒たちは皆つまらなさそうにしている。君らはいいよな。授業が終われば退屈からは解放されるんだから。自分に何か夢なり趣味なり、あるいはコンプレックスでもあれば良かったのにとはよく思う。ここまでの17年の人生で大きな不幸はなかったが、大きな喜びもない。両親は僕のことを手のかからない子だと言ってくれたが、それがよくなかったのかもしれない。すべてが単調。いっそどこぞのファンタジー映画のように異世界にでも飛ばされたいものだ……
「三橋、寝てんの?」
ん?なぜ田中がそこにいる?
「起きてるよ。」
「嘘つけ、顔に跡ついてる。」
これはさすがに恥ずかしい。田中なんかにこんなところを見られてしまった。それとも見られたのが田中でよかったと考えるべきか?
「下田の奴どっさり課題出してる、人じゃねえよあれは。」
「じゃあなおさら課題やらないと、明日で人生終わりたくないしな。」
今日もなんとか耐えきった。この先の人生もこれの繰り返しだとすると気が遠くなる。田中は友人たちとおしゃべりをしている、まったくなぜ飽きないのか不思議でならない。とりあえず先に帰ることにした。こうするとたまに後から田中が追いついてくるのだが、何も咎めず無駄話を始めるのはもしかするとあいつのいいところなのかもしれない。やれやれなんてこった、田中のことを考えてしまうくらいには頭が暇だ。さっさと帰って課題にでも取り掛かるとしよう。
「は?」
角から車が。大きい、トラックだ、避けられない!思考に没頭しすぎた、これでは異世界というかあの世行きだ!運転席が目に入った、不思議なことにドライバーが―
「三橋!」
体に衝撃が走った。轢かれたと思ったがすぐに違いに気づいた、意識はあるし痛みも感じない、何よりそこに田中が見えた。さっきまで俺の立っていたそこに。
次の瞬間トラックの車体が視界を遮り、俺は仰向けに地面に打ち付けられて自分が宙に浮いていたことを知った。少しの間、横たわりながら自分の心臓の音を聞いていた。体育の授業なんかとは比べ物にならないほど体が熱い。学校からそんなに離れていないはずなのに、近くに人の気配がまるでしない。田中の気配も、しない。
「田中。」
驚くほど情けない声が出た。その声がより一層自分を委縮させるような感覚がして、半ば刃向かうように起き上がった。
「あれ?」
何もなかった。立ち上がり、事故の直後の割に人っ子一人いない道路を見渡した。いない。田中はどこだ。血痕すらない。遠くまで跳ね飛ばされたのだろうか。自分の通学かばんは見つかった。でも田中のはない。
1の2へ続く
ファンタジー系のRPGを一度やっておきたかったなと、よく思います。