stage3.リスポーン
気が付くと、初めにいた地点に戻っていた。
どうやら俺は一度死んだようだ。
んで、リスポーンエリアである初めの地点に戻されたというわけだな。
「くそ、完全に油断した」
てか、最初の敵の癖に強くない? ゴブリンに集中すればヘドロ野郎に攻撃されるし、ヘドロ相手にするとゴブリンの袋叩きに逢うし散々だよ!
チュートリアル的な立ち位置じゃないの?もうちょい弱くなんないかな。
「また振り出しか…… 」
さっき殺られた地点までの道のりは覚えている。が、今から向かっても恐らくゴブリン達であの場所は埋め尽くされているだろう。
「となると、別の道か?」
俺は最初に進んだ方向とは逆の方を向いた。
向いた方向はさっき進んだ道よりも更に葦などの草が生い茂っている。
先が分からないからなー。進むべきか……迷う。
「あ、そういえば! 」
先が分からないなら見える所まで進めばいいんだ。
思い立つやいなや俺はアーツを発動していた。
「跳躍! 」
そう叫び、2,3階建ての高さくらいまで俺は跳んだ。
上から見ると、しばらくは草をかき分けて進まなければならないが、その先には大きな湖があることが分かった。
もしかしたらNPCの集落とかが湖の近くにあるかもしれない。
他にも新たな発見はおそらくあるだろう。
「よし。湖を目指そう」
俺はそう決め、早速進む事にした。
ー数十分後ー
……しばらく進んでみて、分かったことがある。
めちゃくちゃ進みにくい。
ゴブリン達がいたところは草をかき分けて進めたが、今回はかき分けるだけででなく草を踏み倒していかないと思ったように進まないのだ。
刃物があればなぁ……。
刃物かぁ……刃物……刃物……。
あ、、、ワンチャン[水鉄砲]で切れないかな。
「水鉄砲」
俺はためしにアーツを放ってみた。
うん。切れはしないかな。
ただ草の軸が折れて踏み倒し易くはなった。
慣れれば全然こっちのほうが楽だわ。
「水鉄砲…! 水鉄砲…! 水鉄砲…! 水鉄砲…! 水鉄砲…!ーーーーーーーー」
後ろにスタンドがいる厳つい高校生ばりに俺は、アーツを連射しまくった。
いつの間にかアーツの発動時に嘔吐感も感じなくなっている。
成長? してるのかな。いや、慣れか。
そのまま特に敵に鉢合わせすることも無く、今俺の目の前には湖が広がっている。
あれ?遠くで見たときはキレイだったんだけどな……。
俺は足元に水がかかるくらいまで湖に近づく。
一見、太陽の光が反射してキラキラして見えるが、近くで水面を見ると結構汚い。
「湘南の海くらいだな」
湖にそんな格付けをしながら(何を基準になのかは俺も分からん)俺は周りを見渡した。
向こう岸がポツンとだが見える。
先程[跳躍]でみた通りだが、そこまで大きい湖では無さそうだ。
「そしたらあれだな、湖岸線沿いに歩いて行ってもあっちつきそうだな」
結構な距離あるけど。泳ぐよりかは楽だろ。
こういう時にチャリとかスクーターあると便利だよな。
俺は向こう岸に向かって歩くことにした。
湖岸沿いは足元がぬかるんでいて歩きにくそうだったが案外足を捕られること無く比較的スムーズにすすむことが出来た。結構足に泥がまと割りついてんだけどな。不思議。
俺はピチャピチャ音を立てながら、ふと、スキルを全て試していないことに気がついた。
「ホント駄目だな。アーツ使いたい気持ちが先行しすぎて、しっかり自分の能力をみてねーじゃん!」
半分ツッコミ、半分反省を込めて自身を責める。
さっき自分でも言ってたやん。情報は大事って。しっかりしろ!俺!
よし、そうと決まれば改めてスキルを確認だ。
俺はステイタスウィンドゥを開きスキルを選択しそれぞれの詳細を選択した。
<スキル>
[雑食]
生物であれば何でも食べることが出来る。また、アイテムによっては生物でなくてもも食べられる。
[水生]
水中での活動が活性化され、消費スタミナが軽減される。
被水属性のダメージを激減、被火属性のダメージを半減する。
被木属性、被雷属性のダメージを倍加する。
[微毒分泌]
Lv.1の毒属性を口の中に貯めておけ、任意で射出し攻撃出来る。また、物理攻撃被弾時にそのLv.以下の毒耐性をもつ相手を50%の確率で、Lv.以上の相手を1%の確率で微毒状態にする。
LV.1までの被毒属性ダメージを無効にする。
[保護色]
任意で身体の表面の色を変え敵に気付かれにくくする。(カモフラージュ率30%)
こうしてみてみると、俺はずいぶんスキル名だけを見て分かった気になってたなというのがわかる。
[保護色]とか、さっきの不意討ちで使ってたらワンチャンバレなかったかもしれないし、ゴブリンにタコ殴りされてるときも[微毒分泌]使っていればもしかしたら状況は違ってたかもしれない。
まぁ、実際カモフラージュ率30%ってどのくらいか基準が分からんし、毒だって何ダメージ/秒与えられるのか、そもそも効くのかも分からないから、もしかしたら死にスキルかもしれない。
ただ、試していないのは事実だ。
次は上手くやれるように今ここでしっかり備えておこう。
「まずは……[保護色]だな。試してみよう」
俺は頭のなかで[保護色]を念じてみた。
しかし、何も起こらない。
あれ?アーツみたいに発動を宣言しないといけないのかな?
「 [保護色]発動! 」
俺はアーツを発動するようにスキルを唱えてみた。が、特に変わった様子はない。
なんでだろう?
戦闘状態じゃないと使えない? 自分では変わったかどうか確認できないとか?
「うーん……分からん」
思わず乾いた笑いが出た。
いやー、まじで分からん
もちょいテキストに情報いれといてくれーい。
仕方ない、一旦後回しだ。次。
[微毒分泌]はどうだろうか。
俺は試しに[微毒分泌]を先程と同様に念じてみた。
すると、口一杯に苦いような痺れるような、簡潔に言うと不味い味が広がった。
「げえぇ! マッズ! ペッッッ!」
俺は必死に口中の唾という唾をかき集め不味い味を追い出した。
すると、吐き出した足元には紫色の如何にも毒って感じの液体が広がっていた。
地味に煙が出てる。塩酸かよってくらい。
「どこが"微"毒だよ。がっつり毒やんけ」
逆にコレを喰らって平気な敵すげえなって思うわ。
むしろこのレベルで微毒という表記であるのなら、強毒は…………よし、考えるのはやめよう。
「まぁ、攻撃スキルとしては申し分無いな。」
当面は、[水鉄砲]と併用して、メインウェポンにしていこう。
次は、、、[水生]だな。
俺はステイタスウィンドウを確認しながら呟いた。
属性被ダメージの増減は確認できないため、これも後回しにするとして『水中での活動が活性化され、更に消費スタミナが軽減される。』の部分は具体的に何が活性化されるのか、どれぐらいスタミナが軽減されるのだろうか。全部数字で表記してくれ!曖昧でわからん!
イライラを抑えつつ、ふと、俺は今どこにいるのかを思い直した。
てか、すぐそこに湖あるやん。入って確認すれば何かつかめるかもですやん。
早速、俺は回れ右をし湖へジャブジャブと、水位が股間に触れるか触れないかくらいまで進んだ。
「泳ぐの久しぶりだな。中学生の水泳の授業以来か……あれ?俺人並みに泳げたよな?」
大丈夫だ。確か水泳の授業は3だったし水が苦手な記憶はない。クロールくらいなら余裕よ。
そんなことを考えながら俺は[メニュー]ウィンドウの[便利機能]にあるタイマーをスタートさせた。
「フゥ……スゥ------ッ!!」
軽く息を吐き、肺に入れられる最大限の空気を流し込み、俺は水の世界へ文字通り飛び込んだ。
ゆっくりと目を開くと、そこは少し濁った青緑の世界が広がっていた。目は染みないから恐らく淡水だろう。スキルのお陰で平気なのかも知れないけど。
目視は、10mは行かないくらいを見渡せる。思っていたよりかは見えた。
「さて、一つ一つ水中でスタミナ軽減以外に活性化されるモーションがあるか見てみよう。」
まずは水中での移動のしやすさだ。軽くバタ足で進んでみる。
秒でわかった。…すごい。
足にフィンがついてるかのようにすすーっと潜れる。それでいて浮力や水を掻く抵抗力がほとんど感じられないから方向転換も余裕だ。
ただ、スピードはヒトの体で泳いでいるときよりも若干早いかな程度で、段違いに早いわけではない。
確か最近のオリンピックで、50mを20秒60で泳いだ人いて新記録だ!って騒いでたけど、今の軽いバタ足でそんくらいかな。だから全力クロールしたらそれより早いって感じか。
結論、取り回しが良くなるってことだな。
うし、とりあえずこの湖の底まで潜ってみるか。
少し、自分の能力が分かってきたことにワクワクを覚えてるのを噛み締めながら悠々と俺は水面を後にした。
しばらく潜っているとちらほら環境生物が現れてきた。
ここら辺はいろんな種類の川魚が生息しているみたいだ。環境モンスターとちがって見た目は結構リアルに作られている。モンスターか環境生物か見分けるときの指標になりそうだな。
リアルといっても腹側のヒレが8つあったり頭が頑丈な殻で覆われてたりと実際の川魚とは異なっている。開発者すげえな。こんなとこまでこだわってンのか。
俺は感心しながらこいつらや環境モンスターの生態を動画にするのも悪くないな~なんて考えながら更に奥へ進むことにした。
その時、ぐぅぎゅるるるる~~とお腹が鳴った。
「現実世界でさっき食べたばかりなんだが?」
乾いた笑いを浮かべながら俺はステイタスを確認してみた。
状態異常の欄に『空腹』の文字が表れていた。
丁度良い。[雑食]の効果も調べられるかもしれない。
早速、さっきまで一緒に泳いでいた川魚たちをキャプチャして食べられるか確認してみよう。
俺はそこら辺の川魚に思いっきり飛びかかった。
ただ、あっちは魚。手で掴もうとする頃には既に約1m奥へと逃げられてしまった。
「チクショウ!もう一回だ!」
俺はめげずにもう一度近くにいた魚に飛びかかるが、結果は同じ。
「まだまだぁ!」
俺はそんな感じで、十数回ほど生け捕りしようと奮闘していた。
そして、やっと生け捕りは無理だという結論にいたった。
心なしか空腹感が強くなったように感じる。無理だという結論にいたった虚しさが、そう感じさせているのだろうか。
ふと、自分のHPバーを見てみると、最大HPが10あったのが9に減少しているのがわかった。
「これが、噂の空腹状態による弊害か……」
ダメージを受けるのではなく、最大HPが減っていくタイプのスリップダメージだったとは。
ステイタスが低い初期レベル帯では、この空腹状態によってリスポーンを繰り返す初心者が後を立たない。
一刻も早く食料を確保せねばならない。
生け捕りは諦めて、アーツを使ってサクッと食料をゲットしよう。
そうと決まればーー
「[水鉄砲]!」
俺は数十m先の少し大きめの川魚めがけ、アーツを放った。
軽い嘔吐感とともに勢い良く俺の口から鋭い水の塊が飛び出した。
……と思ったが、みるみるうちに水色のエフェクトは消えた。
「もしかして、水中じゃ水技使えない感じ…?」
おいおい嘘だろマジかよ。水中で動き回れても攻撃出来ないんじゃ意味ねえじゃん!
俺は軽く絶望した。
しかし、俺が頭を抱えていると数十m先にいた川魚が、まるで『不意討ちでいきなりタックルされた人間』の様にむち打ちの状態になり、死んだのか気絶しているだけなのか分からないが、プカーっと水面に向かって浮いていった。
どうやら水中と地上では[水鉄砲]の仕様が違うらしい。
何にせよ、結果として魚を仕留めることが出来たから良しとしよう!
俺は水面へゆっくりと向かっている魚へと近づいた。
手が届く距離になると、魚の上に「オレ・フィッシュ」とその魚の名前らしき表示が出た。また、名前の下にはアニメチックな髑髏(目の部分がバツになってる)の形をしており、一目で死んだと分かるアイコンも表示されていた。
これが俺にとって初めての狩猟になったのは間違いないな。
「にしてもコイツ……食えんのか?」
魚だから生で食えないことはないだろうが、淡水魚っぽいしなんだかな……臭そう。
とはいえ、火のアーツを俺は持ってないから加熱は出来ないし、こうしているうちにもHPは空腹により減っている。9あったHPも今や7だ。悩んでいる暇はない。
「よし……いただきます!」
俺は、意を決して仕留めたオレ・フィッシュにかぶりついた。
「……うげぇ、不味い。」
いや絶対こうなるって分かってた。
多分俺今泣いてる。水中だから見えないだろうけど。ぴえん。
味は、とにかく川臭ぇ。食感もブヨブヨしてるし。
現実世界だったら確実にもどしてる。
もどさないで食べられているのは[雑食]のお陰だろう。そう信じたい。
「さてと次は腹側を……」
どうにか3口目までいってみる。
すると食べていたオレ・フィッシュがいきなり ポン っという音とともに、キレイに白骨化した。
見ると名前が「オレ・フィッシュの骨」になっていた。
ある程度食事をするとアイテムが変化するのか。
この骨だけを見ると何かめっちゃ魚食べるの上手い人みたいになってるな俺。
「この骨も食えるか試さないとな」
これは食事でもあり実験でもある。[雑食]の守備範囲を知るのも今後の冒険においては必要であることは間違いない。
俺は続けて、骨だけになったオレフィッシュにもかぶりついた。
「さっきよりかはましだな」
うん。あんまり味がしない硬い食い物だな。強いて味をいうならば鶏の手羽元の関節部分みたいな味ってところだな。全然イケる。
こちらも3口目にポンっと間抜けな音がしたのち、手には何も無くなってしまった。
「ごちそうさまでした」
魚にしっかりと感謝をしてから、俺は自身のステイタスを開いた。
状態異常は空腹から健康に戻っていた。
「よし、大体魚1匹で空腹は消せるみたいだな」
HPを見ると10までしっかりと回復していた。その隣には『+食事ボーナス:2%/s HP回復』という表示もされていた。
どうやら食料を摂取したことにより付加効果がついたようだ。これは、摂取した環境生物によってプラスにもマイナスにも効果がつきそうだと予想できるな。
[雑食]の効果確認のモチベーションもこれでいくらかは上がりそうだ。
「ええと、1秒間に2%のリジェネ効果ってことだから、今のオレの体力は10でそれの2%だから……0.2か」
つまり5秒でやっと1回復するってことか。
非戦闘時の回復手段としては申し分ない。ただ、戦闘になった時、それも最初のゴブリンたちみたいに多勢に無勢でこられるとキツいな。
最初は1対1で戦ってレベルをあげていくしかなさそうだ。
よし、最初は群れから外れた雑魚モンスターからコツコツ倒していこう。
そうと決まればもう一度湖の底を目指そう。
もしかしたら水性のモンスターがいるかもしれない。
俺は颯爽と湖の更に奥へ進んでいった。
ーーTo be continued.
最後まで読んでくれてサンキューな!
次回もぜってー見てくれよな!