stage1.こんにちは 新しい世界へ
2XX0年5月頃。
閑静な住宅街。
その内の一軒に、住宅街には似合わない特殊部隊のような格好をした集団が6人見える。
その中に俺はいる。
時刻はちょうど正午を過ぎた頃だろうか。
耳元の無線から仲間の声が聞こえる。
『ザザッ ―――総員、配置に着いたな?合図で俺とサムが突撃する。後はブリーフィング通りに。以上、幸運を。』
『ザザッ ―――……っす』
『ザザッ ―――りょ』
『ザザッ ―――ラジャー』
『ザザッ ―――はいはーい』
俺は、両手で持っているアサルトライフルのセーフティーが解除されていることをもう一度確認して、無線に手をかけた。
「―――了解」
テロリスト達の位置は偵察用ドローンで皆と共有できている。
合図から10秒後に俺は二階の南の窓から侵入。
そして後ろにいる仲間1人と一緒に人質を確保し撤退。
俺はそんなことを頭のなかで2、3回繰り返し集中力を高めた。
……よし、全部入ってる。
おっとそうだった。言い忘れてた。
俺は後ろで同じように突撃を待っている仲間に声をかけた。
「人質を確保したら、俺が階段側の通路を見ておくからあんたは窓側からテロリスト達の反撃がないよう警戒してくれ。まぁ、お互いの状況に合わせてカバーしあってきましょう。」
俺はテロリスト達にバレないようヒソヒソと、しかしハッキリと伝えた。
「……っす」
しかし理解したのか納得が行かないのかそもそも聞こえていたか、良く分からん返事が帰ってきた。
おいおい……平成時代の陰キャコミュ障みてぇな反応だな、ダイジョブか? まあ平成時代に俺生まれてねえけどな。
そういえばコイツ新入隊員って言ってたっけ?こんなんばっか増えたらやだなぁ。
俺は返事貰ったし良いかと無理やり納得し、再び集中力を高めた。
しばらくの静寂。不意に無線が聞こえた。
『ザザッ ーーカウント3、2、1、ファイヤ!』
合図と共に遠くで爆発音が聞こえた。恐らく発煙弾とフラッシュバンが投げ込まれたのだろう。
間髪いれずに、銃撃音が聞こえた。同時にテロリスト達の怒号も飛び交っている。
ーー7、8、9、10 今だ!。
俺はおもいっきり窓ガラスを砕き、ガシャンと割れる音とともにフラッシュバンを投げ込んだ。爆発に巻き込まれないよう壁を盾にして隠れる。
キーンという爆音とともに激しい閃光が放たれ、テロリスト達の目と耳を奪う。
俺が乗り込もうとすると、後ろにいるはずの新入隊員が先に突入していった。
「うひょ?! あ、ちょい! 」
急だったので変な声が出てしまった。
俺がフラッシュバンの結果を確認して、お前は背後警戒だろ? しっかりしてくれよ。
さっきの納得行かない返事といい今の行動といい、イライラしつつも新入隊員の後に続き中へ入った。
ドローンで確認したときに、人質のそばにいたのは3人で、今足元に寝っ転がってんのは2人。
つまり、残りの1人には逃げられたってことだな。うわメンド。
クリアリングを行った所で、俺は彼の今の行動を咎めることにした。
「おい、勝手な行動はよせっ――――」
「いやいやお互いカバーしあいましょうって言ったのはそっちでしょ。キレんなてwww」
しかし彼は早口で目も合わせずやれやれと言った感じで悪びれもしなかった。
あ?てめぇの身勝手な行動の尻拭いを俺にしろと?まじかよ。ありえねー。
ぶん殴りたい拳を必死に抑え仲間に無線で状況を伝える。
「――こちらγチーム、人質を確保。敵を排除しつつこれから撤退する。一人逃げた、警戒されたし」
『ザザッ ―――こちらαチーム。了解した。こちらは全員無力化した、カバーへそちらに向かう』
『ザザッ ―――βチームも全員無力化したよ。俺らは、合流ポイントむかうわ』
さすがベテラン達。仕事が早い。
俺は「了解」と無線へ返し、再び銃を構え直した。
人質を引きずりながら階段へ向かっていく。まあ先行してるのはぶつぶつ独り言ってる新入隊員なんですけどね。………上手くいってるしいいか。無駄にイライラすんのもバカらしい。次はコイツとは組まないようにしてくれって言えばいいしな。
そんなことを考えつつも、コイツが先行したため後ろの確認はしなきゃいけないわけで……。
俺は強制的に後方警戒をすることになった。
突入前とは違い、どこからテロリストが襲ってくるかわからないため緊張感が尋常じゃない。
数分の緊張感でも体感じゃ数十分くらいだ。
お願いだからそのままずっと隠れててねテロリストちゃん?
しかし、俺の祈りも虚しく突如銃声とともに、俺の肩と頬を弾丸がかすめた。
「っ!か、カバー!後ろから来てる!」
俺は叫ぶと同時に弾丸が来た方へライフルを向け射撃をした。
射撃中は相手も被弾する恐れがあるため隠れることを徹底してる。
くそ、敵は子供部屋か。俺のこの今の立ち位置だとギリギリ射線が通せないじゃねーかよ。
悪態をつきつつも敵の方へ射撃を止めない。
「おい新人何やってんだよ早くカバー入ってくれ! 弾が切れる! このままだとリロード中で叩かれるぞ!」
ジリジリと階段の方へ移動しつつ、なんとか射線を免れそうな物陰まで俺は下がった。
全然カバーに入らないことに苛立ちを覚え、後ろを振り向くと、アイツは人質を両肩に担いでいた。
は?
「んじゃ、あとよろしくwww」
そういってアイツはフラッシュバンを俺の目の前に置いていった。
よくみると、え、これピン外れてんじゃん。
俺が混乱している間に、激しい音と閃光はあたりを包んた。
閃光で視界が消える直前。アイツの悪意のあるニヤケた後ろ顔。
それが俺が最後に見た光景だった。
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「はあぁぁぁ、クソゲー。てられな」
目の前には『人質を殺してしまった!ミッション失敗!』と表示されている。
そう、今の今まで俺が見ていた世界は最先端のダイブ型VRのゲームの世界だ。
俺はゲームからログアウトし、現実世界に戻った。
「うぜぇ、マジうぜぇ。アノヤロー今度あったらぜってぇボコボコにしてやる」
俺は無意識にホーム画面に移動し[問題の報告]でさっきの害悪プレイヤーのIDを連打していた。
「はあぁぁぁ~」
俺はため息を吐きながらイスのリクライニングを限界まで傾けた。
せっかく勝てそうだったのに。あと称号も貰えそうだったのに。結局あのあと直ぐに敵追っかけてきて背中ぶち抜かれてんじゃんかよ。俺にしかフラッシュバン効いてねじゃねえかよ。ホントなんだったんだアイツは。
はぁ、BANされていることを祈ろう。動きの感じ、常習犯っぽいし、俺以外にも報告してる奴いるだろ多分。
被っていたヘッドギアを外し時計に目を向ける。
時刻は先程より15分くらい経過したくらいだろうか。
不意に、俺の腹がぐぅーと鳴る。そういや朝からぶっ通しだったことを思い出した。
親が居たら怒られてたな。まぁ、親が出掛けたことを確認してからダイブしたからそんなことにはならないんだけどな。
俺は部屋から出てリビングへ向かった。とりあえずメシだメシ。
冷蔵庫を漁り、簡単に食べれそうな物をチンして食べる。
食べながら携帯端末を操作してると通知のアイコンが来た。
『新作ゲーム"Pop Monsters Evolution"のインストールが完了しました。早速ダイブしてみましょう!』
「お、そういえば日本は今日配信開始か。よし!早速やるか!」
Pop Monsters Evolution。巷ではPMEとかポプモン、ポップモン、ポプエヴォ等と呼ばれ親しまれている。要はまだ通称みたいなのが定まってない。
海外では1週間程早く先行配信されていて既に、任地堂やスクエア・エスニックスなどののレジェンドタイトルである、ハイパーモリオやフィナーレファンタジアの最新作と肩を並べるまで売れている。
発表当初は、通称がモンスターカプセルと呼ばれる物からモンスターを出して冒険する超人気アニメの二番煎じ感が漂っており、制作会社もベンチャーもいいところであったため大きなニュースにもならなかった。だが、ひと度β版が配信されると、操作性の簡単さからは想像も出来ないくらいに奥深いシステムが埋め込まれており、たちまちダイブ型VRMMOのヘヴィ層からライト層までおも巻き込んだ人気作となった。
かくいう俺も当初はバカにしていた勢で、海外のゲーマーや日本の大物実況者のプレイ映像を見て欲しくなったクチだ。
俺は軽くSNSをチェックしてから食器を流しに移して、部屋に戻ることにした。
おっと、その前にトイレトイレっと。
用を足して、洗面所へ移動して手を洗う。あ、歯も磨いてないじゃないか。
俺は歯ブラシに手を掛けようとふと鏡を見る。そういえば今日始めて鏡見るな。
そこには昨日見たのと変わらない俺、『水野一巳』の顔があった。
相変わらず、死んだ目してるよな。一重がとか二重がどうとかが関係してるのかな。
いや、大して寝ずに朝っぱらからゲームやってたからか。
最近はニキビも痕も残らずすっかりなくなったわ、良かった良かった。
前髪伸びてきたな~、そういや揉み上げも襟足もうざったくなってきたから切り行かないとなー。
そんなこと考えながら俺は歯みがき粉をつけシャカシャカ始めた。
俺の顔はまぁ、普通だ。イケメンでは無いが不細工でも無いと思う(切実)。よく「水野君って薄塩顔だよね~笑」って言われるけど、語尾に付いている笑は嘲笑じゃないと信じてるよ。あと薄ってのも。
グチュグチュペッ!
よし!口元もスッキリしたし、新作やりにいきますか!
俺は階段を駆け上がり、部屋に戻ると早速ヘッドギアをセットして、Pop monsters evolutionを起動する。
俺は小学生の時に感じたようなワクワク感を覚え、ゲームへとダイブした。
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ーーん?声が聞こえる。
女性を思わせるような無機質な音声が何処からともなく聞こえた。
『Pop Monsters Evolutionの世界へようこそ!これからあなたの分身であるアバターモンスターを生成します。始めても宜しいですか?』
一面水色の空間に、俺一人が漂っている。目の前には[OK]のアイコンが表示されていた。
あ、キャラクリね、りょーかい。
俺は[OK]を押した。
『始めに、あなたはβ版をプレイしていますか?』
俺は、当時テスト期間真っ只中だったのでβ版はプレイしていない。
もちろん「いいえ」と答たえた。
すると画面がパパッと切り替わりった。
『ーーそれでは、アバター名を選択してください』
アナウンスとともに手元付近にタッチパネルが現れる。これで入力しろってことか。
あ、よく見たら音声入力もいけるな。
名前か……どうしよう。俺はムムッっと考えてしまった。
オンラインゲームにおいて、名前は結構重要だったりする。馬鹿正直に本名入れるのはこのご時世、危険すぎる。かといってアニメやゲームのキャラ名もなぁ……kuraudoとかkiritoとかにしてみろ?イタい奴だと思われてしまう。
ネタに走るのも、センスがないと厳しいし何より冷めたときの「俺なんでこんな名前にしたんだろ」感は尋常じゃない。
手っ取り早くハードウェアのIDでいいか。
俺は普段ゲームで使用しているアカウントのIDを入力した。
あれ?ID途中で切れてる。……もしや!
俺は消去を連打し、名前入力の最初の状態に戻した。
マジかよ、文字数制限あるのか……。
どうやらこのゲーム、名前は12文字までが最大数らしい
……よし、無難に代名詞とか自分の名前モジって作ろう。
恐らく史上最もつまらないアバター名だろうと覚悟しつつ俺は名前を入力するのであった。
『ーー次に、アバターの容姿を作成します。以下の質問に答えてアバターの容姿を決定してください。』
お、キタキタ。ここがポップモンの珍しいポイントその1。
従来のアバターを作成するようなゲームは、自分のそのままの容姿を生成したり、ある程度決められたパーツを組み合わせたり、細かいところまで自分で設定し、自分好みのキャラをメイキングしていくというのが一般的だ。一方、ポップモンは出題される質問に答えることで、あちら側が勝手にアバターを生成するというちょっと変わったメイキングの仕方になっているのだ。しかも生成されたアバターはゲームスタートまでわからないという謎仕様。最初は批判が多かったんだが、数種類のパーツから決まる訳ではなく、ほぼ無限といっていいほどのパーツがあり(開発者も「何百億通りあるのか知らん、兆超えてるかも」とコメントしていた)質問で回答者の性格や好みが分かるのか、不思議と生成されたアバターを皆気に入っている様子だった。
さて、それじゃ質問に答えて行きますかね。
俺は、適正診断テストばりに多い質問すべてに答えアバターの容姿を決定した。
『ーー次にスキルポイントを割り振ります。各項目にスキルポイントを割り振りって下さい』
お、これは個体値を初期ステータスに+α加算していくやつだな。10Ptもある。
ポップモンはLvが上がるごとにステイタスも上がっていくゲームで、本来は自分が設定したキャラのタイプ、倒した敵、自分の行動によって個体値の上昇が変わってくる。今回はPtを[HP(体力)][ATK(攻撃)][DEF(防御)][MND(魔防御)][INT(知力)]のどれかに任意に振り分けることで、ステイタスを前もって上げることが出来るみたいだ。
うーん、悩むな。
HPとDEFを上げて守りの堅いキャラでも良いし、INTに振って強力な魔法をバンバン打つキャラも捨てがたい。
俺は数分考えたが、ふと、『てか、どんなポップモンになるかわかんないんだから姿見てから決めた方が良くね?』という考えになり、画面の[ポイントを割り振らない]を選択して、決定した。
これ後でも割り振れるよね?ダイジョブだよね?
ちょっと不安を拭いきれなかったが、あんまりやりたくはないが最悪作り直せば良いので気にせず次に進むことにした。
『ーー最後に、ゲームのシステムを設定して下さい』
これはあれだな。ゲーム始めて何時間かたったら警告出しますか?とか、色覚補助しますか?とか、明るさこんくらいで良い?って奴だな。
これは直ぐに終わるわ。
俺は必要になるだけの設定を決め残りはデフォルトでシステム設定を決定した。
『ーー以上でアバターモンスター生成を終了します。お疲れ様でした』
うはぁ、やっと終わった。軽く一時間は費やしたぞ?これ大変だな。
でもこれでやっとポップモンが出来る。
俺はそう思うだけで不思議と疲労感が薄れてきた。気がする。
『ーーそれではPop monsters evolutionでの冒険をお楽しみください』
長いロードを経て、アナウンスとともに空間がだんだんと白んでいく。
さぁ、いったいどんな世界が待っているのやら。
俺は期待に胸を膨らませ白い世界に飛び込んでいった。
ーーTo be continued.
お疲れ様でした。
最後まで見てくれてありがとな!
次回もぜってーみてくれよな!