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『ざまぁ』について考える -『ざまぁ』の面白さは『お約束』の面白さ  作者: 軽石
第1章 『ざまぁ』の面白さは「お約束」から生じる面白さ
1/10

『ざまぁ』の面白さは『お約束』から生じる面白さ


<< はじめに >>


ネット小説界隈で大流行している『()()()()()


いわゆるテンプレものと言われる『追放モノ』や『悪役令嬢モノ』などもその根底には『ざまぁの構造』があります。


つまりこれらの大本はすべて『ざまぁ』であり、『ざまぁ』を表現する過程が異なるだけなのです。


 ◇


このエッセイでは


・『ざまぁ』とは何か


・なぜ読者に支持されているのか


・なぜ『ざまぁ』に幼稚さを感じてしまうのか


そして”『ざまぁ』が本当に良いものなのかどうか”について考えてみたいと思います。



――――――――――――――――――――――――



<< なお結論を先に書くと >>



①『ざまぁ』モノの面白さは『お約束』から生じる面白さであり、テンプレモノが受け入れられているのもそのため


②『ざまぁ』が支持されるのは人はみな幼少期に『ざまぁ教育』を受けており、ざまぁを受け入れる素養が備わっているから


③『ざまぁ』に幼稚さを感じるのは、対象年齢が上がるとより複雑なざまぁ構造を取らない作品の比率が上がるため。またそのことによってざまぁ成分の供給不足が起きる。


④しかし需要があることからも分かる様に『ざまぁ』は何だかんだ言ってやはり良いもの。


という風になります。



――――――――――――――――――――――――



◆◇◇◇



【 1-1『ざまぁ』の定義 】



『ざまぁ』について考える前に、まず『ざまぁ』とは何かについて定義しておきます。


『ざまぁ』は ”様を見ろ(さまをみろ)” の江戸言葉であり、失敗したり惨めな目にあっている他者に対して「ひどい自分の状態を見てみろ」と嘲る意味になります。


なお本稿では『ざまぁ』に至るまでの一連の展開を含めて『ざまぁ』と表現します。



【 1-2 『ざまぁ』の基本構造 】



『ざまぁ』の基本構造としては、"相手をみかえす"という構造が見られます。


よくある"テンプレ追放モノ"を例に取ると、



① 主人公が何か理由をつけられて追放される


② 主人公は何らかの理由で実は最強だった or 最強になる


③ 主人公を追放した側は主人公の脱退によって何らかのひどい目に合う


④ ざまぁ成立



という一連の流れがあります。


ここで重要となるのは『加害者・被害者』という分かりやすい関係性です。この”被害者側が加害者側を直接的または間接的な方法で仕返しする”というのが『ざまぁ』の基本構造になります。


※なおこの分かりやすい関係性こそが『ざまぁ』が幼稚に思える理由の1つにもつながりますが、それは別項で触れていきたいと思います。



【 1-2 『ざまぁ』の面白さは"お約束の面白さ" 】



娯楽小説を読む際に読者は何かしらの『()()()』を求めているはずです。この『面白さ』を細分化し論じることは難しいので深くは触れませんが、面白さの種類を大雑把に分類すると



① 意外性の面白さ


② お約束の面白さ



の2種類が考えられます。


①については”勝つか負けるか分からない勝負を強いられる中で何とか工夫して勝つ”という様な読者としてはドキドキするストーリー展開から得られる面白さのことです。


『意外』というのは『予想外であるということ』であり『ええっ!?』と感じる驚きの展開が面白さにつながるのです。


一方で『ざまぁ』モノはあらかじめ結末がなんとなく予測できます。特になろう系小説においてはタイトルの時点で堂々と予告されていることすらあります。


では結末が分かっているのになぜわざわざそれを読むのかというのが②の「お約束の面白さ」につながります。


このお約束の面白さはあらかじめ『おそらくこうなるだろうな』と予想できる展開が、予想通りに『そうなる』ということで生じる面白さのことであり、期待が達成されることで感じる"スカッと感"が面白さにつながるのです。


しかも①と違ってこちらは最初からハッピーな結末が保証されているのでストレスフリー、安心安全に楽しめるのです。



そう、これはある意味『()()()()()()()()()()』です。



作者も読者も『あらかじめ”お約束を分かっている”という暗黙の了解の上で、はじめて成り立つ面白さ』がそこにはあるのです。


この『伝統芸能的なお約束の面白さ』が次の『ざまぁ』が支持される理由につながります。



――――――――――――――――――――――――



◇◆◇◇



【 2-1 なぜ『ざまぁ』が支持されるのか 】



多くの日本人が人生でもっとも最初期に触れるストーリーが童話です。この童話の多くに『ざまぁ構造』が含まれています。


つまりほとんどの人は幼少期に『ざまぁ教育』を受けて育っているため、ざまぁ展開を受け入れるための共通理解、つまりは『ざまぁの素養』が備わっているのです。


『ざまぁ』の作法、『ざまぁ』の正しさ、『ざまぁ』への期待はみな幼い頃に教え込まれ、刷り込まれたものと言っても過言ではありません。


では一体なぜ童話には『ざまぁ』が多いのでしょうか? その理由は以下の三つが考えられます。



【 2-2 童話に『ざまぁ構造』が多い理由 】



①『生存バイアス』


これは要するに”適者生存の法則”です。無数に生まれた童話の中で、より幼児教育という環境に向いていた『ざまぁ構造』を持つ童話が広く語り継がれているという考え方です。


ではこの幼児教育という環境に向く要素とは何かを考えるとだいたい次の2つになります。



②『因果関係の説明』に向く


因果関係とは『Aが起きたことでBが起きる』という『原因と結果の関係性』のことです。


この因果関係の理解はヒトが生まれた時から持っているものではなく教育によって徐々に獲得していくものですが、それを説明するツールとして童話の読み聞かせが用いられています。


この『Aしたら→Bになる』という関係を説明する上でざまぁ構造を持つ童話は非常に説明しやすいのです。



③『道徳の教育』に向く


童話の役割として『()()()()()()』というものがあります。


道徳というのはその社会における正しさを表したものであり、時代と場所によっては何が正しくて何が悪いのかが変わる不確実なものであるため論理的に説明することが難しいものですが、それを教育するツールとしてざまぁ構造を持つ童話は非常に便利なのです。


例えば「サボってはいけない」という基本ルールを理解させることはなかなか難しいことでしょう。大人の社会では適度にサボることの方が正しい場合すらありますし、サボってはいけないというのは決して絶対的なルールではないのです。


そこで、このルールを説明する方法の一つとしてざまぁ構造を持つ『うさぎとカメ』の童話が用いられます。


① うさぎが足の遅いカメをバカにする

② うさぎが舐めプ(なめくさったプレイ)してレース中に寝る

③ カメが追い抜いて勝つ。うさぎは負ける

④ ざまぁ成立


という一連の流れを通して原因と結果を教訓として刷り込むのです。



※さてここまで読んで「いやいや、ざまぁ構造じゃない童話も結構あるぞ」と思った方も多いと思います。しかし”普及度合い”という観点からざまぁ構造を持つ話の方が圧倒的であると考えられます。


例えば数多くの童話が収録されているグリム童話の中で『かえるの王さま』や『ラプンツェル』は有名どころではあるものの日本人全員がそのストーリーを把握しているかといえば微妙な所です。


一方、『白雪姫』や『シンデレラ』は全員が知っていると言っても過言ではないでしょう。この理由は”語られる頻度が高いから”です。


※各童話における考察は次話の「童話における『ざまぁ』バリエーションの考察」で行いたいと思います。



――――――――――――――――――――――――



◇◇◆◇



【 3-1 なぜ『ざまぁ』に()()()を感じてしまうのか 】



ではなぜ、ざまぁに幼稚さを感じてしまうのか。このことは決して日本人全員に共通するとまでは言いませんが少なくとも、ざまぁモノに高尚さを感じている人はほぼいないと考えられます。


この背景には『ざまぁ構造』の物語は対象年齢が上がると減っていくことがあげられます。


対象年齢が上がり、より現実的で文学的とされる作品となればなるほど登場人物達の関係性は複雑化されて行き、物語が単純に「善と悪」「被害者と加害者」といった風には割り切れなくなってしまうのです。


ここに『ざまぁ構造の話=低年齢向けっぽい』という図式が成り立ちます。


※このため『ざまぁ構造』を採用している物語でも大人の鑑賞を想定した作品では”光と闇

の対立”の様に、単純な構造を一見複雑っぽく見せる様々な肉付けの努力がなされることになります



【 3-2 『ざまぁ』に対する見飽きた感 】



またこれとは別に、ネット小説界隈においては逆に『ざまぁモノ』が主流になっていることで、それに対する「ざまぁモノ=安易」という見飽きた感が幼稚さを感じさせる要因ともなっているのではないかと思います。


特になろうにおける『ざまぁ』モノは、「追放」や「悪役令嬢」など『ざまぁ』を表現するための部分に関してもテンプレート化が進み、結果どの作品でも似た様な用語が使用されストーリーも似た様なものとなってしまっているのです。


お約束の面白さを全面に押し出す『ざまぁ』はマンネリ感とは切っても切れない関係にあり、それが幼稚さあるいはチープさを感じさせる要因となってしまっているのです。


※ただし実際に人気となっている作品は『ざまぁ構造』を取りつつも独自の要素、いわゆる"テンプレ外し"を備えています。これについては「『悪役令嬢』にみる応用ざまぁの考察」で取りあげます。



――――――――――――――――――――――――



◇◇◇◆



【 4-1 しかし何だかんでいって『ざまぁ』は良い 】



では、ざまぁはダメなのかといえば、そうではありません。逆です。


大ヒットしている多くの小説や映画が『ざまぁ構造』を採用していることからも分かるように『ざまぁ』は依然として人気があり、需要もあるのです。


世界的に大ヒットしたファンタジー小説であるハリーポッターシリーズも『ざまぁ構造』をとってますし、ほぼ毎回『ざまぁ構造』なディズニー作品は大人にも子供にも大人気です。他の映画や漫画も結局のところ売れ筋は『ざまぁ』モノです。


ざまぁ教育を受けて育った我々は結局のところ『ざまぁ』が大好きなのです。



【 4-2 ネット小説界隈で『ざまぁ』が流行っているのは需要があるから 】



なぜネット小説界隈では『ざまぁ』が流行っているのかと考えれば、作者・読者の両方に需要があるからという点に尽きるでしょう。


みんな『ざまぁ教育』を受けて育ち、ざまぁ成分を欲しているのにも関わらず、対象年齢が上がっていくにつれてざまぁ構造を取る作品は減少しその結果、深刻なざまぁ成分の供給不足が起きてしまっていたのです。


その需要を満たすかのように最近のネット小説ではこれまでの一般書籍に見られなかったレベルの『ざまぁ特化』の作品が多数現れていますが、それは現実世界や大人向けな創作物にざまぁ成分が不足していたという背景があったからこそ流行っているのだと考えられます。


この『ざまぁ特化』は上で書いた様に、"幼稚さ"や"見飽きた感"を連想させるため諸刃の剣ではありますが「お約束」による面白さを得ることに主眼を置いている『ざまぁ』モノではそれでも十分ウケるから大丈夫なのです。


ただし、最近では『ざまぁ』に特化しつつも様々な手法で独自性を加えた作品が人気となっています。これについては次話以降の「『ワンパンマン』に学ぶ"ざまぁ"表現方法の考察」で取り上げていきたいと思います。



――――――――――――――――――――――――



<< まとめ >>



①『ざまぁ』モノの面白さは、「お約束」から生じる面白さであり、テンプレ設定・テンプレ展開が受け入れられいるのもそのため


②『ざまぁ』が支持されるのは人はみな幼少期に『ざまぁ教育』を受けており、ざまぁを受け入れる素養が備わっているから


③『ざまぁ』に幼稚さを感じるのは、対象年齢が上がるとより複雑なざまぁ構造を取らない作品の比率が上がるから。またそのことによってざまぁ成分の供給不足が起きてしまう。


④大ヒット作の多くが『ざまぁ』構造をとっていることかも分かる様に結局のところ、みんな『ざまぁ』が大好き。『ざまぁ』は何だかんだ言ってもやはり良いもの。



――――――――――――――――――――――――



次話以降は各論的な内容となります。



→次回:童話における『ざまぁ』バリエーションの考察


・『追放』が便利な理由の考察

・『悪役令嬢』にみる応用ざまぁの考察

・『ワンパンマン』に学ぶ"ざまぁ"表現方法の考察



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