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千年に及び日本を支配して来た皇王家、そのルーツを求め皇王の孫である愛理が京都、青陵高校へ転校してきた。そこで普通の高校生立花健太に出会い新たなストーリーが始まった。

高貴なお嬢様の奴隷?・・いや友達になった件

プロローグ

五月の連休が終わった二週目の火曜日、僕は彼女と出会ってしまった。          

その出会いをラッキーと呼ぶのか?アンラッキーと呼ぶのか?は今の僕には決められない。 

もう少し大人になって周囲の状況を冷静に判断できるようになってから決めるべきだ!   

いや、無事に大人になれるのだろうか? それより無事に生存しているのだろうか? という

生命の危機をも感じている今日この頃だった。

有栖川ありすがわ 詩織しおりです。季節外れの転校になってしまいましたが、皆さ

ん仲良くして下さい。よろしくお願いします」                     

教室の黒板の前、一段高くなった教壇の上で深く頭を下げ、優雅な動作で顔を上げた彼女はど

う見ても平凡な少女だった。                             

赤茶色のブレザーにスカート、白のブラウスに赤いネクタイ、青陵高校の制服を完全に着こな

して彼女は微笑んでいた。ちなみに男子はスカートがズボンになっただけで、構成は同じだ。                          

少しクリーム掛かった背中の中程まで伸びた髪を、前の一部を左右三つ網にして他はストレー

トに後ろに流していた。                               

髪はきれいだと思ったが、黒縁の四角い眼鏡を重たそうに掛け、眼鏡自体も長い前髪で少し隠

れている為か、少し暗い雰囲気を感じた。                       

眼鏡越しに見える目鼻立ちはくっきりしているようだったが、特に目を引くようには感じられ

なかった。

                                          

京都市の南端に位置する桃配山、その麓にある古い佇まいの校舎と、さらに古い洋風の造りの

図書館を擁する京都府立青陵高校がこの春から僕が通う学校だ。             

豊臣秀吉が隠居所として建てたと言われる桃配山城。                  

桃配山の半分は城跡公園として整備され多目的広場や野球場、テニスコートがある。    

残りは皇家の墓がいくつかあり、宮内庁管轄で立ち入り禁止の森林が広がっている。    

明治初期に建てられた皇族の屋敷跡を、戦後京都府に下賜され、そこに建てられたのが青陵高

校だった。                                     

屋敷自体は取り壊され影も形も残っていないが、図書館だけは一部の蔵書と共にそのまま建物

自体引き継がれた。                                 

明治期に流行った四角い外観に、平らな屋根の部分の真ん中に、三角の屋根付き出窓のような

部分が上乗せされ、いかにも西洋風な印象だった。                   

建物自体は府の重要文化財に指定されていたし、残された蔵書も貴重な物らしく、時々大学の

研究チームが訪れたりテレビ局の取材を受けたりしていた。

「おい、立花! お前の隣の席が空いているから、お前が教科書とか見せてあげろ。 それと

校内の案内とか慣れるまでお前が面倒見てやれ」                    

青陵高校一年三組の担任にして野球部の顧問兼監督でもある黒田先生が、僕の方を指差した。

「え?なんで?谷口君も隣ですけど?」                         

自分の横の空席のその隣には、野球部員でクラスメートの谷口が座っていた。      

「谷口は野球部の練習で忙しいから時間が無い、お前は将棋部やろ?そのくらいの余裕あるや

ろ?」                                      

「ええ?」                                     

飄々と答える黒田先生に、あきれた声を上げた後、抗議の言葉を続けようとする。     

すると先生は手の平を自分向けて、止まれの意思表示を示した。            

「お前も野球部に入れば忙しくなるだろうから、案内役は他の誰かに頼んでみるがどうだ?」

「・・・面倒見ます」                               

渋々要請を受け入れた僕は隣の机と机を合わせるため、立ち上がった。         

「よろしくお願いします・・立花君?」                         

黒田先生に促されて僕の近くまで来た彼女が軽く頭を下げた後、尋ねるように僕の目を覗き込

んできた。                                     

彼女と目が合った瞬間、黒い霧のようなものがさっと晴れたような気がして彼女の目をじっく

りと見た。                                    

(あれ?・・可愛いぞ?)                              

教壇のところで見た感じと違って、理性と明るさを兼ね備えたような神秘的な顔立ちにドキリ

としたが、その動揺を出さないよう無表情を維持して応えた。             

立花たちばな 健太けんたです。よろしく」 

第一章 高貴なお嬢様の奴隷?・・いや友達になった                       

「野球部に入ればよかったのよ立花君」                        

ホールルームに続き一限目の授業が終わって近づいて来たのは、野球部のマネージャーをして

いる倉田撫子くらたなでしこだった。                       

不思議そうにしている有栖川さんに笑顔で挨拶しながら彼女は僕の前に立った。     

(努力・誠実)を校風にする我が青陵高校は、比較的真面目な生徒が多い。        

どこと比較するのかは聞かないで欲しい!                       

入学式に付いて来た父が「この学校は地味・・もとい真面目な子が多いみたいだな」となぜか

残念そうに呟いていた通り、ちゃらちゃらした感じの子はいない。文学少女のようなおとなし

い感じの子が多い。                                 

倉田撫子はそんな中にあって、珍しく体育会系の健康的美少女だ。            

長い黒髪を頭の後ろでまとめポニーテールにしている。野球部の応援で慣れているからか声も

大きく、教室の隅にいても彼女の快活な笑い声が頻繁に聞こえて来て、教室のどこにいても存

在感を感じさせるアグレッシブな少女だ。今日来たばかりの有栖川さんの方が校風に合ってい

て、おかしなくらい教室に溶け込んでいた。                        

「入る訳ないだろ」                                 

小学校、中学校と野球をしてきた僕は、自分の才能の無さを思い知ったのと、拘束時間が長い

ことに嫌気がさして、野球部ではなく将棋部に入った。                 

高校に入って仲良くなった友達に誘われるまま入った部活だったが、そのゆるさとユニークな

先輩たちとの出会いでそれなりに気に入っている、家族にはあきれられたが・・・。    

「何でわざわざグランド整備要員に好んで志願しないといけないんだ?」        

「グランド整備は人数が多い方が良いのよ! それに私という美少女の接待もうけられるわ!」

中学で野球をしている姿をどこかで見られていたらしく、「野球部に入るんでしょう?」と彼

女は初日から声を掛けて来た。言下に否定すると唖然としていたが、事あるごとに勧誘を掛け

て来る。最近は担任の先生も巻き込んできているので少々面倒になって来たところだった。

「自分で美少女なんて言っていると価値が下がるぞ!」                

「良いじゃない、事実なんだから」                         

「その自信はどこから来るんだ?・・それに今日は有栖川さんを案内しないといけないから相

手はしてやる時間は無いよ」                            

「べ、別に相手をして欲しいわけじゃなくて、勧誘しているだけだから」         

一瞬うろたえたように見えた倉田だったが、腰に両手を当てて僕を睨みつけた。       

「だいたい将棋部なんてほとんど活動していないじゃないの? って言うか立花君、あなた将

棋なんてできるの?」                               

「おい! 将棋を指すくらい僕だって」                       

「あ、あの〜・・・」                                

倉田の剣幕に焦って言い返そうとした僕に、恐る恐る片手を挙げて発言を求めてきた有栖川さ

んに、二人揃って驚いた顔を向けた。                         

同時に視線を向けられてビクッと反応した彼女だったが、申し訳無さそうに口を開いた。  

「周りから注目されているので痴話げんかはそれくらいにしたほうが・・」       

「ち、痴話げんかじゃ無い! 勧誘!勧誘なの!」                    

すごい剣幕で自分に顔を寄せる撫子に有栖川さんはまたもビクッとしたが、さらに申し訳なさ

そうに言葉を続けた。                               

「そ、それに私の案内は必要ありません。母が通っていた頃と校舎の造りは同じみたいですか

らだいたい分かります」                              

「お母さんの?」                                  

思わず近づき過ぎていた事に気が付いた倉田が一歩下がりながら首を傾げた。      

「そうなんです! 母はこの学校の卒業生なんです! ずっと東京に住んでいたのですが、無

理を言って母の実家から通わせてもらう事になったんです」              

「ふーん、そんなにお母さんの母校に通いたかったの?」               

「ええ! 転入の手続きが大変で結局こんな時期外れの転校になってしまいました」     

両手を胸の前で合わせて食い気味に答える有栖川さんに、撫子は両手を組んで少し感心したよ

うに彼女を見つめていた。                             

「それであの!」                                  

くるっと顔を僕の方に向けた有栖川さんに動揺を抑えて鷹揚に応えた。         

「何?」                                       

「校内の案内は大丈夫なのですが、図書館の場所だけ教えていただけませんか? 私図書館

が・大好きですので」                                

大好きと言う瞬間、戸惑うような妙な違和感を感じたが、気にせず僕は彼女に提案した。   

「ああ、それなら図書館まで案内するよ、僕は図書委員だから」           

「え? ば、場所だけ教えてもらえれば大丈夫ですよ?」                

困惑に顔を曇らせた様子だったが、眼鏡のせいでよく分からなかった。         

「なんか図書館って分かりにくいんだよね。案内図で見ると簡単なんだけど油断しているとた

どり着くのに時間がかかることがあるんだ。・・・それに火曜日は僕の当番の日だから行かな

いといけないんだ。だから放課後一緒に行こう」                    

暫く無言で僕を見つめていた有栖川さんは、納得したように小さく頷いた。       

「それでは放課後お願いします」

そして放課後になり何か不満げな倉田の視線を無視して、僕と有栖川さんは教室を後にした。

校舎の裏側、渡り廊下の先にその西洋風の建物はひっそりと佇んでいた。         

図書館の後ろはすぐに桃配山の緑の斜面が迫っていて、古い壁の汚れも相まって独特の圧迫感

を見る者に感じさせた。後ろの斜面の少し離れた斜め上に、これも少し年代を感じさせる家屋

が図書館を見守るようにあり、それが少し圧迫感を緩めていた。             

黄色や紫色の多種多様な菊の花が図書館の周りに植えられている、咲く季節が違っているのか、

満開のものもあればつぼみのものもあった。                      

左右二つある入り口の片方を開けながら僕は彼女に話しかけた。             

「僕はこのまま二時間ほど受付にいるけど、有栖川さんはどうする?ちょっと本でも読んでい

く?」                                       

図書館を呆然と見上げていた有栖川さんは僕の言葉にハッと我に帰った様子で僕に視線を合わ

せた。                                      

「元々ある蔵書は閲覧できるの?」                          

教室で見たぼんやりとした雰囲気から、急に姿勢を正したように変化した凛とした雰囲気に戸

惑いながらも笑顔で答える。                            

「皇家の蔵書なら二階の奥だよ。ただし二階の蔵書は持ち出し禁止で一階にも下ろしてはいけ

ないから、二階の読書スペースでのみ閲覧OKだよ」                  

「わかったわ、ありがとう」                             

軽く頭を下げると、返事も待たず僕の開けた扉からすべるように図書館に入ると、待ちきれな

いかのように二階へと消えて行った。  

六時を過ぎて閉館の準備をするため、二階へと上がってきた僕は有栖川さんの姿を探して読書

スペースへと足を向けた。                              

二階は人が少ないため照明が抑えられていて少し薄暗さを感じた。              

読書スペースは西側の窓から差し込む夕焼けの赤い光に満たされていた。          

僕はそこに赤い光に染まった高貴な絶世の美少女を見つけたのだった。

推定、有栖川さんと思われる美少女は黒い眼鏡を外し、熱心に手元にある分厚い本に目を落と

していた。編み込んでいない後ろに流した髪は首の後ろの辺りでリボンで結ばれ、白く細い首

筋が顕わになっていた。眼鏡でよくわからなかったぱっちりとした少し青みを帯びた目が嬉し

そうに輝いている。 邪魔になっていた前髪も髪留めできっちりと分けられ、スッと通った鼻

筋や小さく赤い唇がはっきりと見えている。                          

どう見てもこの学校の中ではぶっちぎりの美少女だ、いや京都駅辺りを歩いていても、ほとん

どの人が振り返るような次元の違う輝きを放っていた。                 

知らずに呆然としていたのだろう、二メートルほど離れた場所で立ち尽くす僕に気が付いた有

栖川さんがゆっくりと顔を上げた。                          

「あら立花君、どうしたの? あっもう閉館の時間かな?」                

時計で時間を確認しながら彼女は黒い大きなフレームの眼鏡を掛けた。          

すると急に照明が消えたかのように彼女が放っていたオーラが薄れ、そこには真面目で平凡な

顔立ちの少女が座っていた。                            

「そ、そうだよ。二階は有栖川さんだけだったから呼びに来たんだ・・何か調べ物?」  

「ありがとう。・・ちょっとね、ここには貴重な蔵書があるって聞いていたから」     

「ふ〜ん」                                    

「まあそれは置いといて、早く帰りましょう!」                    

本を閉じると彼女は笑顔で立ち上がった。                       

僕はさっきまで彼女から溢れて光を惜しむ気持ちを抑えながら、戸締り点検に向かった。

次の日も有栖川さんは放課後になると図書館に向かった。                

本当は昼休みにも行きたいようだったが、他のクラスメートに話しかけられたり、食事の同席

を誘われたりして仕方なくつきあっていた。                      

今週中は教科書類が揃わない為、席を繋げたまま過ごしたがあまり会話は弾まなかった。  

ただ、月曜日は家庭の事情で毎週休みでたまに金曜日も休む日があることはわかった。   

親友で同じ将棋部の山本が不在で、有栖川さんと二人だけで喋っていると、何故か決まって倉

田が彼女に話し掛けて来て、何を調べているのか聞き出せなかった。           

彼女は言葉通り月曜日は家庭の事情で休み、火曜日から登校して来た。          

既に教科書類も揃い校内の案内の必要も無い為、机を離し会話することは無かった。    

しかし、僕はどうしても彼女に聞きたい事があったのだ。  

それは昨日の夜の国営テレビのニュース番組だった。                  

体調を崩していた皇太子妃に付き添って那須の御用邸に行っていた娘の愛理様が、十日ぶりに

今年から通っている東京の学習院高校に登校する様子を報じたものだった。       

「お母様の具合はいかがですか?」                          

「ありがとうございます。もうすっかり元気になりました」               

丁寧に質問する女性キャスターにお淑やかに答える愛理様。                

学習院高校の質素だがお嬢様らしい紺のブレザーとスカートに白いブラウス、胸元には赤いリ

ボンを結んで答えるその姿は、一週間前、夕焼けの図書館で見た、眼鏡を外し輝くオーラに溢

れた有栖川さんそのものだった。                          

「こ、この人は?」                                 

呆然としながら知らずにつぶやいた僕に、隣で一緒にテレビを見ていた父親が不思議そうに僕

の方を横目で眺めた。                               

「知らないのか?・・今上皇王陛下の孫で皇太子様の娘の愛理様を?・・皇位継承権で言うと

第四位かな?男性優位にするか直系優位にするかで今揉めているから、第三位になる可能性も

あるけどな」                                    

父親の解説を聞きながら、目はテレビの中でインタビューに答える彼女に釘付けだった。  

本当に有栖川さんと愛理様が同一人物なのか、彼女に問い正したくて仕方無かったのだが、ま

さかクラスメートが大勢居る前で聞く訳にも行かず、放課後、彼女が図書館に行くのを待つこ

とにした、今日は僕が当番の日だからだ。

放課後、いつも通り図書館に向かうと、すぐに有栖川さんが現れ二階へと消えて行った。  

五時半を過ぎ、人気がまばらになったのを見計らって僕は彼女の姿を探した。       

今日は黒縁の眼鏡をしっかりとかけ、髪も括らず後ろに流したままの姿で、三冊ほど積み上げ

た本を横に置き、熱心に本に目を落としていた。                   

「立花君どうしたの?」                               

近づく僕の足音に気が付いた有栖川さんは、顔を上げると不思議そうに首を傾げた。   

「まだ閉館の時間では無いでしょう?」                        

ちらりと時計を見てから彼女は僕に問いかけるように見つめてきた。          

「有栖川さん。・・ちょっと確認したいんだけど」                  

「何?」                                      

机を挟んで目の前で立ち止まった僕に、彼女は軽く微笑んだ。             

「君はもしかして愛理様?」                             

一瞬だけ驚いた表情を見せた彼女だったが、すぐに微笑むとゆっくりと頭を左右に振った。

「私はあんな美しいお嬢様ではありません・・・どうしてそう思うの?」         

無表情で問いかける僕を、彼女は微笑みながら見上げた。しかし、眼鏡の奥の瞳には警戒の色

が宿っているように思えた。                            

「一週間前の図書館で見た眼鏡を外した君と、昨日ニュースで見た愛理様が同じ人だったから」

冷静に告げる僕の言葉を聞いた途端、彼女はしまった!と言わんばかりに動揺した。    

「まだ慣れてないから少し外しただけだったのに・・でも外していても認識疎外の術は残留し

ているはずなのに・・・そう言えば目があった時、一瞬術の効果が消えたわね・・」    

他人の存在を忘れたかのように早口であせりながら独り言をつぶやく彼女を、僕は白けた目で

じっと見つめていた。                                

「あなた何者なの?」                                

気を取り直したかのように姿勢を正して、睨むように有栖川さんは僕を見た。      

「いや別に、普通の一般市民だけど?」                       

「それはおかしいわ!私の認識疎外の術は威力こそ弱いけれど、高度な技術なの。神道術の使

い手でも数える程しか使えない術なのに、影響を受けないで私の正体を見抜くなんて神道術の

相当の使い手か皇家の人間しかいないわよ!」                    

「神道術?」                                   

「そうよ! 認識疎外、把握、物質硬化、軽量等、皇家の先祖が考案しその力でもって、二千

年もの間この日本に皇家を君臨させて来た奇跡の秘術よ!」                 

「へえ〜」                                     

有栖川さんは得意満面で、さっきまでの警戒感を完全に忘れて解説モードに入っていた。  

「平安末期以降、強力な術者がいなくなり武士の台頭を許してしまった。何百年振りかで現れ

た強力な術者だった後醍醐皇王様は、力を付けた足利尊氏率いる武士を抑えきれず南朝に逃れ

られた。近年では明治皇王様が本当にお久しぶりに強力な使い手であられました。歴史の裏で

皇家を支え続けて来た力、それが神道術なのです」                  

「いやー、それは初めて聞いたよ。・・その術を使って君は有栖川さんに変装していたんだ

ね?」                                       

「そうよ!なかなか理解が早いわね・・・って違ーう!そうじゃなくて私は有栖川詩織なの!

愛理なんて美人とは全くの別人なのよ!」                     

「・・・今さらな気がするけど、僕は別に君が愛理様だってことを言いふらしたいわけじゃ無

い。ただ確認したいだけなんだ」                           

神道術の事を得意げに解説をしている間に、目の前の椅子に座っていた僕を、彼女は怪しげに

一分間ほど見つめた後、頷いて大きくため息をついた。                 

「良いわ! 確かに悪気は無さそうだし、一週間面倒を見てもらった恩もあるしね!」   

おもむろに立ち上がり右手を腰に当て、左手で眼鏡を外しながら得意げな笑顔を浮かべると、

彼女は宣誓でもするかのように口を開いた。                     

「よく聞きなさい! 私こそ今上皇王陛下の孫娘にして第四皇位継承者、天津ノ宮 愛理(あ

まつのみや あいり)よ!」                             

一瞬、彼女が眩しい光を放ったような錯覚を覚えるほど、彼女の姿は高貴で美しかった。  

僕は呆然として彼女を見つめたまま暫く動けなかった。

「それで、確認してどうしようと言うの?」                      

天津宮 愛理と名乗った美少女は、両手を腰に置き仁王立ちしたまま僕に問いかけて来た。 

「・・・え〜と、その、友達になれないかなと思って、もし有栖川さんが良ければだけど」 

「友達?・・・友達になるだけで良いの?」                      

恐る恐る僕が口にした要望に、彼女はあっけに取られた様子だった。          

「つきあって欲しいとか、一度だけデートしたいとか、そういう事を言われるかと思っていた

のだけど?」                                      

さっきまでの威勢が消えて、困惑気味な彼女に、僕はきっぱりと言い切った。      

「友達になってくれるだけで良い。それ以外は必要無い」                

今度は彼女の方が呆然として僕を見つめていた。                   

「こんな美少女を前にして友達になりたいだけなんて・・一日デートくらいなら良いと思って

いたのだけれど、今まで行った事が無いから練習のつもりで」              

小声でぼそぼそと独り言を呟く彼女に、何か言葉を掛けようとしていたら、急に険悪な視線を

僕に向けて来た。                                  

「まさか立花君、女の子より男の子の方が好きっていう人種なの?」          

「はあ?・・僕はノーマルだよ」                          

「じゃあ何で自称だけど日本一の美少女を前にして、友達になりたいだけなの???」    

自称日本一って何だ?と心で突っ込みながら僕は大きくため息をついた。       

「・・有栖川さん、君、隠そうとしているようだけど、ものすごく気が強いでしょう?」

「・・・・」                                   

「僕は気が強い女性は母親と妹でかなり懲りているから、そういう女性には恋愛感情は持てな

いんだ。・・・僕の願いは、たとえば君が結婚する時、結婚披露宴の広い式場の端の目立たな

い席に友人代表の一人として招待してくれるような関係、そのくらいの友達が良いんだ」  

目を大きく見開いて複雑な表情で僕の話を聞いていた有栖川さんは、困ったように少し考えて

から僕に視線を戻した。                              

「乙女としてちょっと複雑な気分になるけど・・ちょうど調査が思うように進まなくて、肉の

壁・・いえ、助手が欲しいと思っていたのよ!・・だから私の専属の下僕としてなら仲良くし

て上げても良いわ!」                                 

爽やかな笑顔で輝く美少女は、とんでもない言葉を口にした。今確かに肉の壁と聞こえたぞ!

と内心で突っ込みながら僕は首を左右に振った。                   

「いや、下僕は遠慮しとく、友達でお願いします」                  

「ええ?私の専属の下僕と言うだけで、喜ぶ男たちが何千人といるはずよ!立花君、下僕と言

っても悪いようにはしないわ!」                           

僕は大きく一つため息をつくと、ぐったりとしながら口を開いた。           

「僕が悪かった。今の話は全部忘れて! 今後はただのクラスメートとしてなるべく話しかけ

ないようにするから。・・もちろん君の正体は誰にも言わない」             

僕は足早に立ち去るべく立ち上がり、百八十度方向転換すると迷わず一歩を踏み出した。 

「ちょっと待ちなさい!」                               

後ろから肩をしっかりと掴まれると同時に強い口調で引き留められた。          

顔だけ振り返ると、片手でこめかみ辺りを押さえている有栖川さんがすぐ側にいた。    

彼女との間には長い机があったのだが、いつの間にこんな近くにきたのだろう?      

不思議に思いながら体ごと彼女の方に向き直った。                   

「折角良い肉の壁・・助手が手に入りそうなのに逃すわけには行かないわ・・・それに友達な

ら友情という無料奉仕も期待出来そうだからね」                    

物騒な事を早口で話してから彼女は右手を差し出した。                 

「いいわ! あなたをこの私、天津宮愛理の最初の友達にしてあげる!」         

左手を腰に当てて、得意げに微笑む美少女の姿は実に絵になっていた。         

「ああ・・よろしく」                                

少しうろたえながら僕は右手で彼女の手を握り返した。                 

この日僕は、高貴なお嬢様の奴隷?・・いや友達になったのだった。

第二章  五七桐紋                                 

彼女と友達になる約束を交わした後、「詳しい事はまた明日ね!」と言ってすぐに帰路に着い

たのだが、「二人だけの時は愛理と呼んでいいわ。でも学校では有栖川さんでお願いね」「じ

ゃあ僕の方は健太で良いよ」とよび方だけは決まった。                 

次の日の朝、いつも通り黒い眼鏡に前髪を垂らして地味に登校して来た彼女は「立花君、おは

よう」と普通に声を掛けて来た。                          

「有栖川さん、おはよう」と僕も何事も無かったかのように応じた。           

そして放課後                                   

「立花、部活に行こう!」教室の一番前の席の山本が鞄を探しながら声を掛けてきた。                                             

「わかっている山本!」同じく鞄の中に教科書を片付けながら僕も応じる。                                                  

おもむろに隣の席から腕が伸びて来て、有栖川さんが僕の右手を掴んだ。                   

キンという音がしたと思ったら体が軽くなったような気がした。            

「じゃあ行くわよ健太!」                             

「え!ちょっと待て!今から将棋部のミーテイングがあるんだ!」            

軽々と僕の手を引っ張って教室の外に連れ出した彼女に、何とか抵抗しようと叫び声を上げる

が、すごい力で引っ張られ歩みを遅らせることも出来なかった。             

「ちょっとあなたたち?どこへ行くつもりなの?」                   

一見、仲良く手を繋いでいるように見える僕達に、目を瞠った倉田薫子が大声で叫んだ。 

「おい立花?部活どうするんだ?」                         

「部長によろしく言っておいてくれーーーー」                     

慌てて廊下まで追ってきた山本に、僕は何の説明も出来ないまま視界から消え去った。    

引っ張られるまま校舎を出ると、校門を出て少し先の通りに停まっていた黒い国産の高級車の

後部扉を開け、投げるように僕を押し込むと、自分もそのまま後部座席に乗り込んで来た。

「田中さん、家に向かって下さい。それとごめんなさい。車を少しへこませてしまいました。

後で直しておいていただけますか?」                         

さっきまでの傍若無人な姿とはうって変った超お嬢様モードで運転席に座る初老の男性に愛理

が声を掛ける。                                  

「わかりましたお嬢様。お任せください」                       

静かに車が動き出したことを確認して僕は口を開いた。                

「ちょっといきなり過ぎるだろう?あちこちぶつかったぞ!」             

「あら?でも痛くなかったでしょう?」                        

余裕の笑みを浮かべる彼女を前に、僕は不思議に思って自分の体を調べた。        

確かに車に押し込まれるまで、何度も壁や手すり、靴箱にドアと腕や足や時には体ごとぶつか

ったが、全く痛みは無かった。逆に壁や靴箱の方がへこんだりひびがはいったりしていた。 

最後に車に乗り込む時に、後部扉の横にぶつかり少しへこませてしまった。       

「今のは神道術の物質硬化を使ったのよ。軽量の術も一緒に掛けたから持ち運びも楽だったわ」 

「・・僕は荷物か?」                                

得意げに術の説明をする愛理の笑顔に、諦めのため息をついてから僕は話題を変えた。  

「さっき家に行くって言っていたけど?」                      

「そうよ!今後の予定について打ち合わせと説明をしておこうと思って」        

「そういう事は前もって知らせておいてくれよ!驚くだろう?」             

「あら?あなたは私の友達でしょう?友達ならそれくらい察しなさいよ!」          

「ええ〜?」                                     

呆れて物が言えない状態の僕の様子を気にも留めず、彼女は一冊のノートを取り出した。  

「私はね、これを調べるために転校してきたのよ」                    

ノートの最初のページいっぱいに描かれていたのは一つの家紋だった。         

「これって確か豊臣秀吉の家紋だよな?」                       

「桐紋、正確には五七桐紋、当時の皇王、後陽成皇王様から下賜されたものよ」     

「皇家の紋章っていうと菊のマークだと思ってたけど?」                

彼女の話によると、この五七桐紋は元々皇家の紋章で、簡単に下賜できるようなものではなか

ったらしい、たとえ天下人であっても成り上がりの田舎者に与えられるものでは無いらしい。

「例えば阪新タイガースのエンブレムはTとHだけど愛称で虎のマークを使っているでしょ

う?桐紋を下賜するというのは、THをやめて虎のマークを帽子につけるみたいなものなのよ」              

「愛理?阪新ファンなのか?・・東京なのに?」                           

「ち、違うわ!ちょっとお世話になっている人がファンだから知っているだけよ」     

「まあそれわ良いとして、何で菊の紋になったんだ?」                

「・・菊は神道術と相性が良いのよ、菊を媒介にした術もたくさんあるし、だから菊を身につ

ける術者が多かったの」                               

車は一号線に出て北に曲がり、京都の中心部に向かって軽快に進んでいた。       

「後陽成皇王の前の正親町おおぎまち皇王様が、周囲が猛反対する中、皇位を孫に譲るこ

とを条件に秀吉に桐紋を下賜させたらしいの・・何故そこまでして桐紋を与えたかったのか?

それを調べているところなの」                            

「ふ〜ん・・それを調べるのに転校までする必要があったのか?」             

愛理は僕の言葉に、にやりと口角を上げると鞄から一冊の本を取り出した。        

分厚く年季の入った本で、表紙には「皇王記  第七巻 寺田一清著」と書かれていた。  

「これは明治の初期に編纂された本で、平安の昔から近代までの皇家の歴史を綴ったものなの」

全十二巻からなる「皇王記」は皇家の歴史を詳細に記録するあまり、歴史のタブーとされる皇

家の秘密まで記されていたため、十部ほど印刷されただけで発刊中止となり、表にでる事はな

かった。しかし、宮内庁など公には目に触れにくい場所何か所かには保管され、皇家の人間と

一部の許可された人々にのみ閲覧が許されているとの事だった。            

「秀吉の頃の話はこの本の八巻に記されているはずなの。あちこち捜したのだけれど関東では

見つけられなかったの」                               

残念そうに愛理はため息をついた。                          

「でもこの青陵高校は、明治の昔に寺田一清がこの本を執筆した場所らしく、現存する図書館

に原本が収められているという話だったの」                     

「へえー・・それなら普通に閲覧しに来るだけで良いんじゃないの?」          

またもや愛理は残念そうに首を左右に振った。                     

「この図書館は青陵高校の生徒以外では、宮内庁が許可した人しか閲覧出来ないの・・もちろ

ん私も申請したわ。・・皇家の一員である私が断られるはずは無いと思っていたわ」   

「でも実際は許可されなかったってことだな?」                    

愛理は力無く頷いた。                                

「それで最後に残された方法が、青陵高校の生徒になるっていうことなのよ」       

両親に転校を認めさせるのに苦労したことや、学習院高校と青陵高校が姉妹校で学習カリキュ

ラムが同じため、こっちで単位をとれば向こうでも取れたものと見做してくれる事になった事、

イベントがあれば必ず参加する事で向こうの高校に許可をもらった事などを話しているうちに、

二条城近くの奥まった場所にある、大きな門構えの家の前に停車した。         

「さあ行きましょう。田中さん、ありがとう」                     

運転席に明るく声を掛けドアを開けた愛理の後を、僕は慌てて追いかけた。        

二人して、二枚扉の大きな腕木門の横にある通用口に向かって歩き出した時、乗って来た車の

すぐ後ろにアルファベット三文字の黒塗りの外国産高級車が停車した。          

「これはこれは愛理様、今日も変わらずお美しいですね」                

「ありがとうございます石田先生、ご無沙汰しております」               

眼鏡をかけた初老の紳士が高級車の後部座席から降り立つのを見た途端、愛理は素早く眼鏡を

外し前髪をヘアピンで整えると、極上のお嬢様スマイルを浮かべた。            

「何やら調べごとをしていると聞いておりましたが、調子の方はいかがですかな?」    

石田先生と呼ばれた紳士は、優しい笑みを浮かべて親しげに愛理に近づいて来た。     

何故だか僕には愛理が緊張していて、紳士の笑顔に白々しさを感じているように思えた。 

「いえいえ、私は母の母校に通ってみたいと思っただけで、特別なことはしておりませんわ」

一瞬、愛理を見つめる紳士の目が鋭く光ったように感じたが、すぐに元に戻り、今度は僕の方

に視線を移した。                                  

「おや?そちらは愛理様のボーイフレンドですか?」                  

「いえ、この者は明智が私に付けてくれた護衛です」                   

「そうですか。・・しかし今まで見かけた事が無いように思いますが?」      

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