表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/40

第四十話 最終回 それから

「どうしてツバクロちゃんがここに?」


 ツバクロが鼻の下を人差し指でこする。

「へへっ、探しに来たに決まってるだろう? どうせイズルギのことだ、山をなめて遭難してると思ったのさ」

「そんなことまで分かっちゃうの?」

「へへっ、だから言ったろう? オレっちは馬よりも役に立つんだって。しかしイズルギがつまんない嘘を吐かなければ、二日か三日で追いつけたのによ」

「嘘って、なあに?」

「こいつはカバジのおじさんに極楽に行くってデタラメを言ったんだよ」


 アテルが素で驚く。

「えっ? ここは極楽谷でしょう?」

「なに言ってらぁ、ここは地獄谷って言うんだぜ」

「本当なの?」

 アテルが俺に訊ねる。

「だって、地獄行は不味いだろう?」

「どうしようもない嘘を吐くんだから」


 俺に向かって頬を膨らませたが、ツバクロとの再会があまりにも嬉しくて、その怒った顔すら可愛らしく見えた。アテルもアテルでこうしたやり取りができることに喜びを感じているように見える。


 アテルが笑顔で続ける。

「それにしても、よく来てくれたわね。もうすぐ私たち死ぬところだったのよ」

 ツバクロが呆れる。

「おいおい、集落はすぐ近くにあるんだぜ? お前さんたちはそんなことも知らないで旅に出たのかよ」

「ごめんなさい」

「しょうがないな。やっぱりお前さんたちには、オレっちがついていなきゃダメなんだ」

「そうね。だったら村までの帰り道を案内してくれる?」

「任せとけって」

「じゃあ、早速行きましょうか。このところお母さんの調子がいいの」

「おいおい、せっかくここまで来たんだ。オレっちにも湯浴びをさせてくれよ」

「あら、ごめんなさい」


 ということで、ツバクロに付き合って俺も湯に浸かることにした。裏切り者だとばかり思っていたが、それを反省し、きれいに洗い流す必要がある。ツバクロはやっぱり俺のたった一人の友達だった。今度こそ、それを胸に刻み込まないといけないようだ。


「それにしてもツバクロよ、よく無事でいられたものだな。実を言うとだ、俺は都の兵隊長に吹き込まれちまって、お前が黄金を掠め取るために俺を裏切ったと思ってたんだ。だから今は申し訳ない気持ちでいっぱいでさ」


「そんなこと気にするなって。都っていうのはそういうところなんだ。里を出た人間は気を抜くとすぐに飲み込まれちまう。と言っても、あの親父さんのようにびくともしない男もいるんだけどよ」


 ということは、

「イサクさんは生きてるのか?」

「当たり前よ。なんてったってオレっちが逃げる手助けをしたんだからよ」

 この男は馬並みに足が速く、鹿並みに霊力でも備わっているかのような男だ。


「何があったんだ?」


「海賊の動きを警戒しつつ、イサクさんの元へ行った時には、もうすでに明け方近かった。森の野営地に行ったけど、その時は誰もいなくてよ、それで大亀の捕獲があると思って海辺に行ったんだ。その途中で海賊の捕虜にされたイサクさんとばったり出くわしちまって、とっさに隠れたんだ。金塊を運搬していた都の兵士も捕まってたから、そいつが金塊のありかを喋っちまったんだろうな。オレっちも海賊たちの後を追ったんだけど、すると今度は森の中で都の兵士と鉢合わせして、そこで戦が始まっちまったんだ。最初は海賊の方に勢いがあったが、都の援軍が来てからは状況が変わり、そこでイサクさんは海賊の手から解放されたのさ。その機会を逃さずオレっちはイサクさんと接触することができた。でも今度は海賊団の方も援軍が来やがって、都の兵士はどんどん死んでいったよ。とにかく二人で逃げ回って戦が終わるのを隠れて待つことにしたんだ。もう、その頃には金塊のある河原の方も戦場になっていた。死体があっちこっちに散らばって、途中まではどっちが勝つのか分からなかったくらいさ。なにしろ双方の援軍がどれくらい残っているのか知りようもなかったからな――」


 ツバクロが湯でバシャバシャと顔を洗う。


「その間にイサクさんと二人で死体の身ぐるみを剥がしたのさ。でもそれは何も盗むためじゃないぜ? 海賊が勝った時のために、似たような格好をしていれば、逃げる姿を目撃されても不信に思われないと思ってよ。まぁ、でも戦の方はだいぶ苦戦を強いられたようだが、なんとか都の方が本陣を死守した感じで終わったな。これで安心して都へ帰れると思ったら、そうはいかなかったんだ。どういうわけか、都の兵士が血眼になってイサクさんを捜してるじゃねぇか。こりゃ見つかったらいけないと思ってよ、今度は急いで都の兵士の死体から身ぐるみを剥ぎ取ったんだ。オレっちがそれを着て、イサクさんには死体の血をべったり塗り付けて死んだ振りをしてもらい、それで一芝居打ってみることにしたのさ。本物の兵士にイサクさんの死を確認してもらって、すぐに兵隊長の元へ報告に行かせたんだ。戦が終わったばかりとあって冷静ではいられなかったんだろう、碌に確かめもせずに、すっかり信じ込んでくれたよ」


 そんなことをせず、さっさと逃げれば良かったじゃないかと、終わってからではなんとでも言えるだろうが、それでは内通者として、結局は存在しない罪まで背負わされることになるのだ。


 だからツバクロが都の兵士を騙した理由が分かる。俺だって屋敷で海賊の一味に襲われていなかったら手引きした仲間として断罪されていたのだ。こういうのは機転を利かせることが大事で、証拠もなしに話せば分かってくれると思い込むのは危険なのだ。


「話はこれで終わりじゃないんだぜ? 運搬中の金塊がどうなったか気になったから様子を探りに行ったんだよ。そしたら野放しにされてたんだ。おそらく運搬役の兵士が死んで気づくのが遅れたんだろうよ」


 そういえば大亀の捕獲は兵士でも限られた者にしか知られていなかったのだ。


「それでどうした?」


「もちろん頂戴したさ。イサクさんがそっくりそのままオレっちの取り分だって言ってくれたんだ。それを山中に隠していたから、後で都に巨大な亀が出たって聞いても信じられなかったんだ。都に戻るとイサクさんの疑いも晴れていたし、ちゃんと分け前を反故にされずに済んだ。オレっちの金塊は海賊に持っていかれたと思っているから疑いの目を向けられることもないしな。貰えるもんはきっちり貰えたってことだ」


「なんか、ツバクロが最後においしいところを全部持っていった感じだな」

「へへっ、そう言うなって。金塊の半分はイズルギのもんなんだからよ」

「半分もいいのか?」

「当たり前よ。きっちり分けてこそ仲間ってもんだろう?」


 ツバクロらしい言葉だ。命を救われ、金塊まで分けるという。それで貸しを作ったとか、恩を売ったとも思っていないようだ。俺がこの先ツバクロにしてやれることといったら、同じようなことが起こった時に、そっくりそのまま同じことをしてやることだ。


 それから俺たちはツバクロの案内で無事に生まれ故郷の村に帰ることができた。お喋りが増えたせいか、寒さも気にならないくらい賑やかな帰郷となった。行く先々にツバクロの顔見知りの集落があり、不自由のない旅をすることができた。


 ナミルさんはすっかり快方へ向かい、馬を使わずに自分の足で歩けるくらいの回復を見せた。地獄谷の湯が良かったのか、それともウサギの肉が良かったのか、それは定かではないが、猿爺の話はすべて本当のことだったのは、今さら疑う必要もないだろう。


 イサクさんとカバジさんは、すぐには村へ帰ることができなかった。黄金の分け前を村へ持ち帰るための算段に手間取り、しばらく都へ留まっていたからだ。しかし兵隊長の尽力により、冬になる前に護衛付きで村へ帰ることができたと人づてに聞くことができた。


 俺はというと、親子を村へ届けた足で、すぐに引き返すように村を出た。それはツバクロと一緒に山中に隠した黄金を別の場所に移し替えるためである。とは言いつつ、俺はツバクロと一緒にいるのが何よりも楽しいだけなのは、アテルには内緒だ。


 当然、アテルは腹を立てた。怒る理由も分かるし、怒らないと寂しく感じたとも思う。それでもツバクロとの約束は何よりも大切なのだ。でもそれは、アテルにとっても大事な人なので、文句を言いつつも、旅に出ることを許してくれた。


 自分の人生が自分だけのものではないと思ったのは、おそらくこの時が初めてであろう。それがとても嬉しくて幸せに感じられた。俺はいずれアテルと結婚するだろうが、それはまだまだ先のことだ。


 ツバクロとの旅の途中、よく月を見ていた。それは村にいるハヤタが同じようにしていたからだ。どういうわけか知らないが、少年は満月を見て涙を流すのである。恋に破れた男の子のような顔だった。


 するとある日、月の上に大きなウサギがいることに気がついた。そこで思い出す。地獄谷で遭難したとき夢に出てきた少女は、都で出会ったヨミという名の女の子だったということを。あれは夢ではなく、現実だったというわけだ。


   終わり

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ