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元来、工作員という生き物は勘が鋭い。見聞きした情報から何かを気取ると、そこから派生して何かしら別の情報を頭の奥底から引っ張り出してくる。そして、2つ乃至は3つ、あるいはそれ以上を合体させて新たな情報を推理する。

時にはただの憶測で。時には核心に迫るような推定で。

では勘が鈍ければどうなるのか?

答えは至って簡単で、どこかで野垂れ死んで身元不明遺体となっているか、死ぬより凄惨な目に遭っているかのどちらかで、要は工作員稼業を続けられるような状態ではなくなっている、というのがその答えだ。

だが、時にこの勘は奇妙な事実を、それこそ都合の悪い現実を引き当てたりする。それが誰にとって都合が悪いのかはさておきとして。


スクリーンに映し出された、ある男の写真と名前、肩書きから小村はふと妙な引っかかりを覚えた。

「O&Wの監査部が情報の出所を掴んだ。

どうやら、ある重役の男が例の経理マンを唆したらしい」おそらく経理マンの過去を知った上で利用したんだろう、と続けながら端末を操作し、舘山がスクリーンに「重役の男」の履歴書を追加して写す。

「経緯は複雑だが、それとなくデータの存在をほのめかし、そのデータを見つけさせてからは質問に来るように差し向けたってところだろうな」

その時にシリア宛の取引が存在していないことを伝えたのだろうと舘山は続ける。

「そして、彼は一人で結論に到達させられた」

鷹取の言葉に「ああ、そうだ」と舘山は答える。


「今必要なのは、この男が本当に関与したかどうかだ」

この2人の接点と、「仲が良くなった経緯」も探らねばならない。

小村と鷹取は黙って話を聞いている。

「九分九厘犯人で間違いないが、裏付けを取れないことには監査部も動けん」

「随分とまあ、真っ当な・・・・・・正攻法で攻めますね」

今度ばかりは首謀者だからなと舘山。

「実はネタはある」

スクリーンが切り替わり、いつぞやの経理マンと件の重役が喫茶店で会話をしている様子が映し出される。

「おそらくこのとき、経理くんの疑惑を確信に変えたんだろう」

そしてその後の動静は皆も知っての通りだなと舘山が聞く。答えを期待する類の質問ではなく、当の舘山も最早2人を見ずに端末の操作を続けている。

「経理くんは片がついたが、この重役殿の出方がまだ分かっていない」

「動いてないんですか?」

「実は全くと言っていいほど彼は動いていない」

だから時間が掛かったんですね、と鷹取が呟くように話す。


「この男の部署、そして家へ潜入し、証拠あるいは痕跡の確保が今度の任務だ」

会社の所属と家の住所、その他必要な情報が映し出される。

鷹取と小村がさっと2、3度ばかり情報を目で流した。メモを取らないのは職業病のようなものだ。

「この男には高校生になる娘がいる。つまり小村、お前なら最悪同級生なりなんなりを装えるな。お前は家に、鷹取は会社に当たってくれ」

もう覚えただろう、存分にかかってくれと舘山は指示を出す。

「では本社に一丁当たってみます」

早くもサラリーマン風のビジネスバックを肩に担いで鷹取が出て行く。

「・・・・・・じゃあ、私は家に」

それだけ答えると小村は空になったリンゴジュースの紙パックをやや乱雑にくずかごに投げ入れた。


小村の脳裏にふと、とある夜の記憶が蘇る。映し出された自宅の住所は、西川紗紀の家のそれとまったく同一だった。

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