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美少女になり損ねて現代転生  作者: 待草 雪乃
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第一章・その3

下書き中のプレビューと実際のレイアウトが違うので文字数が合わせづらい……

 それからも簡単な確認と書類に記入をして、始業式が終わる頃合を見計らって不知夜先生と共に二年C組の教室へ向かう。間違えて一年C組へ向かいそうになり、そっちには誰もいないわよと笑われた。

 教室前の廊下に立つと、扉越しに聞き慣れた話し声が聞こえてくる。どうやら朔也が転校生について触れ回っていたらしく、期待されている感が凄い。

「それじゃ、私が呼んだら入ってきてね」

 そう言って先生が一足先に教室へ入っていく。扉を開ける先生の表情に一瞬だけ影が差したのを、僕は見逃さなかった。そして、その理由は教室で先生が発した第一声。

「……最初に、皆に悲しいお知らせがあります」

 教室内が一瞬にして静まり返る。今からの話が何か察したからだ。

 僕は思わず扉から飛び退いた。廊下の壁に背を預けると、さっきまでの期待と不安が入り混じった高揚感とは違う、嫌な緊張感が込み上げて吐き気がする。

「知っている人も多いと思うけど、昨日……上弦くんが交通事故で亡くなったわ」

 それは睦月ぼくの話。僕がこの場にいるきっかけとなった出来事だ。たとえ転生しても、その事実が消えてなくなるわけじゃない。そんなの分かっていたはずなのに。

「クラスの仲間を失ってしまったこと、先生も非常に悔しく思っているわ。上弦くんのことを決して忘れずに、彼の分も立派に生きるように」

「…………」

 扉越しでも分かる、教室内の沈痛な空気。やめてと叫びたかった。僕はここにいる、だから悲しまないでと声を上げて訴えたかった。だけど、この場にいるのはぼくであって睦月ぼくじゃない。転生して戻ってきたなんて話を誰が信じてくれるというのか。

「はいはい、湿っぽい話はここまで! 次は良い知らせ、転校生よ。入ってきて!」

 空気に耐えかねた先生が手を叩いて話題を変えると同時に、ざわめきが戻ってくる。まだ荒い呼吸を整えて、教室の扉を開いた。

 見知った顔が一斉にこちらを見る。自他共に認める美少女転校生にまず男子が沸き、女子からも黄色い歓声が上がった。先生が教壇で手招きしている。

 僕は教壇に上がるとチョークを取り、黒板に自分の名前を書いて振り向いた。

「如月 満。よろしく」

 さっきまでのこともあって、短くそう発言するのがやっとだった。朔也を始めとする何人かがよろしくと返事をしてくれる。

「ありがとう。貴女の席はあそこよ」

 そう言って指し示されたのは、窓際の一番後ろ――睦月ぼくの席だった。



 何とも言えない気持ちで指定された席に着いて先生の話を聞いていると、隣から声をかけられた。制服をきっちりと着た、いかにも優等生チックな黒髪ロングの女子生徒。

「初めまして如月さん。私は望月 弥生(もちづき やよい)、よろしくね」

 彼女のことはよく知っている。なにせ睦月ぼくの幼馴染だ。家が隣同士なので親ぐるみで付き合いがあり、幼稚園から今まで誰よりも一緒にいた自信がある。

 弥生も、まさか目の前の転校生が死んだはずの上弦 睦月だとは思うまい。この感覚に未だ慣れない僕は曖昧な笑みを返すことしかできなかった。

「分からない事があったら遠慮せず、クラス委員長の私に訊いてね」

「う、うん。ありがとう」

 弥生は真面目な性格でリーダーシップもあるので、去年クラス委員長に抜擢された。クラス内の役職は基本的に三年間ずっと固定になる。

 弥生は睦月ぼくの死についてどう思っているのだろうか。さっきは廊下にいたから様子が分からなかったし、今は平然としているようにも見える。

「ねぇ、弥生……ちゃん。さっき先生が話してた事なんだけど……」

 恐る恐るそう切り出すと、弥生の表情が一瞬だけ強張る。すぐに笑顔に戻ったけど、視線は明らかに僕ではなく机を見ていた。

「……何?」

「このクラスの人が事故で亡くなったって」

「…………」

 今度こそ笑顔は消えて、落ち込んでいるのが見て取れた。弥生にとっても家族同然に育ってきた僕がいなくなったのは相当ショックだっただろう。それだけ思われていると分かって安心した僕は、弥生を元気付けようとして……

「そ、そんなに落ち込むほどじゃない(・・・・・・・・・・)って!」

 つい、そんなことを口走ってしまった。

「なん……ですって?」

「あっ、いや、今のは……」

 完全に睦月ぼくの目線での発言だ。怪しまれてしまうだろうか。弥生は怪訝そうな目……ではなく、今にも泣きそうな顔で僕を睨んでくる。その表情を見て、僕は自分がなんと無神経な発言をしてしまったのかを思い知った。

 謝ろうとした時、図ったようにチャイムが鳴って先生がHRの終わりを告げた。それを皮切りにクラスメイト達が僕の席に押し寄せてきて、転校生への質問攻めが始まる。

 どこから来たの? 兄弟いる? とお決まりの質問を投げかけてくる彼らに圧倒されて弥生に声をかけられず、涙目のまま教室を出ていくのを見送ることしかできなかった。

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