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美少女になり損ねて現代転生  作者: 待草 雪乃
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序章・その2

「女の子に、なりたい」

「……それ、本気で言ってるのです?」

 何でもいいと言ったのは”神様”なのに、真顔で返された。声も心なしか引き気味(マジトーン)だ。

 けど僕だって、冗談やその場の思い付きで女の子になりたいと言ったわけじゃない。僕には以前から人に言えない願望があった。

「いつからかも、どうしてかも覚えてないけど……生まれ変わるなら、可愛い女の子がいいなって思ってたんだ」

「注文が増えやがったのです。頭は大丈夫なのです?」

 4月にサンタの格好で、自分を”神様”とか名乗ってる奇人に言われたくはなかった。まぁ顔と声だけは可愛いし、生まれ変わった姿としては理想的な方だ。中身を除けば。

 とか考えていると、”神様”は自分の身体を抱くようにしてこちらを睨んできた。

「今、ワタシをいやらしい目で見たのです? やっぱりお前はヘンタイなのです!」

「違っ……もう、いいから早くしてよ! 生まれ変わらせてくれるんでしょ!?」

 こんな年端もいかない少女に秘めたる思いを打ち明けている自分が無性に恥ずかしくなってきて、半ば自棄気味に声を上げると”神様”は観念したように深い溜息を吐いた。不意に幼げのある雰囲気から一変して、腕組みをしながら何か呟く。

「まぁ……丁度いいと言えばいいか」

「えっ、何?」

「なーんでもないのですー」

 すぐにまた幼女モードに切り替えた”神様”は、どこからか手持ちの鐘を取り出すと ゆっくり鳴らし始める。りんごーん、りんごーんという軽い音が響く度に、僕は意識がだんだん薄れていくのを感じた。

「それでは、第二の人生をご堪能ください……なのです♪」

 どこか含みを感じる物言いに言及する間もなく、僕の意識はそのまま周囲の暗闇へと溶けるように沈んでいく。

 全てが黒に染まる直前、誰かが僕に微笑みかけているような、そんな気がした――


◆◆◆


 じりりりりりりりりりり!

 けたたましいベルの音に跳ね起きると、そこは見渡す限りの真っ暗闇ではなくて……四方を壁に囲まれ、一方にはパステルブルーのカーテンに覆われた窓があり、反対側に木製のドアが取り付けられた小さな部屋だった。僕は弾力のあるベッドの上で柔らかい羽毛布団に半身を沈めたまま上体だけを起こしている。

 音の発生源――今時珍しい、アナログタイプの目覚まし時計を手で叩いて止めながら辺りを見渡せば、部屋の中にはクローゼットや本棚、ノートPC、CDプレーヤーetc……どれもパステルカラーの、いかにも女の子っぽいアイテムの数々。誰が見ても女の子の部屋だと分かる。その部屋のベッドで目覚め、僕一人ということは自分の部屋であり、それが意味するものはただ一つ。

「僕、本当に女の子になってる……!?」

 自分のものとは思えないほどに高い声が出て、思わず喉を手で押さえる。細い首に、細い指だ。嬉しさに全身が震えてきた。

「やった……! ついに、ついに夢が叶ったんだ!」

 上弦 睦月として生きた17年間の記憶も、死後の世界での記憶も残っている。自分が一度死んだという事実さえ忘れるほど興奮していた僕は、それとは別に……今の、この自分に関する記憶が一切無いことも、どうでもいいとさえ考えてしまっていた。

 そんな事より鏡はないか、早く生まれ変わった自分の顔を見てみたいと探し回れば、姿見の備え付けられた化粧台を発見。すぐさま確認に取り掛かる。

「おお……」

 鏡に映っていたのは、まさに美少女と言って差し支えのない可憐な少女の姿だった。長い睫毛に垂れ気味の目、ほんのりと丸みを帯びた輪郭を包むような栗色の髪は肩口で切り揃えられている。胸は平坦、でもむしろ小柄な体躯とのバランスが取れているし、僕はどちらかと言えば貧乳派なので何も問題は無い。女の子らしい花柄パジャマの袖口から覗く手首の細いこと、容易く折れてしまいそうな儚さを感じるところも高得点。

「……ど、どれ……中身の方は……?」

 ごくり……という音が聞こえそうなほど息を呑んでパジャマのボタンに手をかける。これは自分の身体なのだから何もやましいことはない、そうこれは当然の権利と誰かに言い訳しながら上着を、次にズボンを脱いでいく。

 程よく暖かそうな春物パジャマの下から現れた薄手のシャツ……きっとキャミソールというやつだろう。絹糸のように頼りない肩紐を見ただけで、心拍数が跳ね上がるのが自分でも分かった。サイズのせいか寝苦しいからか、ブラはしていないようだ。

 続いて下半身に視線を移すと、形の良い腰から伸びる、これまた細い脚。それでいて太腿の辺りはむっちりと柔らかそうだ。そして、ついに禁断のトライアングルへと……目を向けた瞬間、信じられないものが見えた。

「な、なんで……」

 それは、この身体にあってはならないはずのもの。今まで僕がこの身体に感じてきた興奮を、まさしく雄弁に語らんとそそり立つ”男”のシンボル。別れを告げてきたはずのマイサンが、肌触りの良いシルクのショーツから溢れんばかり……いや、溢れまくって色々とアウトな状態である。

「なんで”アレ”が生えてるのぉぉぉぉぉぉ!?」

 清々しい朝の空に、僕の悲痛な叫びが木霊した。



――美少女に”転”身したと思ったらアレが”生”えてました。

このくっだらないギャグのためだけに書きました。

前半と空気が違いすぎるって? タイトルで察してください。

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