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8 解決


時は同じく、場所も同じく校庭。勇気と、小百合と、鶴城の三人が、ステージの裏に向かっている。


「小百合、この学校最大の問題児は鶴城って言ってたろ?彼女達、鶴城より明らかに騒ぎ大きくしてるんだが、あれはなんだ?」


勇気が、ステージの裏に向かい走りながら、小百合に訊ねた。小百合は、首を振りながらそれに応える。


「私だって分かりません…、彼女達…軽音部は今まで…、こんな、目立った活動は…、していなかった…、筈です…。っ、それ以前に…、いつもなら…、こんなことになる前に…、生徒会が、準備段階で阻止している筈…!です…!」


そう、息を切らしながら言う小百合を見て、鶴城が声をかける。


「ちょっとちょっと、小百合センパーイ?いきなりそんなに息切らして大丈夫ー?」


小百合は、問題ない、といった仕草をして、鶴城の言葉に応える。


「…っ、大丈夫だよ…!鶴城ちゃん…!…っ、久し振りに走ってるから…、ちょっと疲れただけ…!」


「大丈夫には見えないけどな。小百合、限界が来たら休めな」


「っ、ありがとうございます…!勇気先輩…!」


そうしている内に、ステージの裏に到着する。が、その瞬間、赤色の小さな弾丸が、先頭を走っていた勇気の顔面に直撃した。


「のわっぶ!?」


その弾丸は、勇気の顔面に触れると同時に破裂し、勇気の顔を赤色の液体で染めた。


「っ…!?勇気先輩…!!」


小百合が、目を押さえ踞っている勇気に駆け寄る。小百合は、何度か勇気に呼び掛けたが、勇気から返事はない。現在、勇気の感覚は、痛覚のみに支配されている。


(っ、眼が、痛…いや、熱っ…!?)


「よし、っと。これで勇気くんは脱落ね」


前方から、満足げに微笑む声が聞こえた。小百合がその姿を確認すると同時に、驚きの声を上げる。


「っ、勇気先輩になにするの…!…って、茜先輩…!?」


「やっほー、小百合ちゃん。今気付いたとか、お姉さんショックだなー」


そこに立っていたのはゴーグルをかけ、大きな遊戯銃を持っている女子生徒。彼女の名は「宮田茜みやたあかね」身長は165~170cmで、クラスは3-D。軽音部の部長を勤めている。緑がかった髪に、橙色の目、前髪は上げているようだ。


「まぁいっか、二人共、いや三人かな。悪いけどライブが終わるまで動かないでね。動いたら、そこの勇気くんと同じ目に遭っちゃうぞー?」


茜が、手にした遊戯銃を挑発するように回しながら、そう勝ち誇って見せた。


「そんな…、どうしてですか、茜先輩…!」


小百合が、茜に向かって問い詰めた。茜は、小百合に柔らかく笑いかけ、それに応える。


「可愛い可愛い、私の後輩の為だよ。私自身は生徒会に逆らうつもりはなかったし、生徒会に恨みもないわ。でもね、このライブは、軽音部の皆が「やりたい」って言った事。私は、それに全力で協力するだけ。軽音部部長としてね。小百合ちゃん達も、邪魔をせず、彼女達の歌を楽しんでいって欲しいな」


「いいや、それは出来ないな」


不意に、小百合の足元から声が聞こえた。星野勇気だ。勇気は、顔をしかめながら首をもたげ、茜を見据えた。茜は、それを見て目を丸くする。


「あれ、勇気くん、もう復帰?…おかしいな、これを浴びたら数分は立てない筈なんだけど。勇気くん、目、瞑ってた?」


「いや、しっかり開けていた、まだ視界は開けていないが…。こんなものでいつまでも膝をついているようでは、生徒会副会長は務まらないさ」


「…それ、生徒会副会長云々関係あるの?」


「勇気先輩…!流石です…!」


勇気の言葉に首をかしげた茜とは裏腹に、小百合は、勇気に尊敬の眼差しを向けた。


「小百合センパイ…本気?」


鶴城が、小百合に向かい訝しげな視線を投げた。勇気は、咳払いを一つしてから、言葉を続ける。


「…とにかく、俺達は、彼女等のライブを止めなければならない。"学校内への火器等の危険物の持ち込み"は禁止。それが、野外ステージの舞台装置であってもな。ステージで上がってる火柱、あれ本物だよな?」


茜は、それを聞いて、不適に笑い、手に持つ遊戯銃を構える。


「その通り。でも、ライブにも多少のスリルは必要よ。あれは、あの子達なりの表現なの。熱い心を、持てるもの全てをもってして表現する。あの子達は、私でも躊躇するようなことでも「やる」と言ったわ。これは、あの子達の夢でもある。中止なんて、絶対にさせない」


勇気は、呆れた様に二、三歩後ずさる。


(…ハァ、その志の高さは評価できるところだが、もう少し周りの事も考えて欲しいものだな。多分、本来静かな図書室にも響いてるぞ、この演奏。しかし、どうしたものか…。演奏を止めると言っても、視界はぼやけているし、身体も思うように動かない…。これじゃ八方塞がりだな)


「石頭、ちょっと耳貸して」


と、鶴城が、考えあぐねていた勇気に向かい、軽く手招きをした。


「鶴城、何か策があるのか?」


「まぁね。石頭、ちょっとかがんで。…まだ高いなぁ、もうちょっと低く、…そうそう」


鶴城が、勇気に二、三歩近付き、囁く。


「…石頭、もう一度あの液体を浴びる覚悟は出来る?」


「…俺に、盾になれと?」


「察しが良いね。…さっき、石頭の顔面にアレを完璧に命中させた所を見ると…、…茜センパイ、相当良い腕してるよ。…多分、突っ込んでいっても避けられないと思う。…多少身体が動かなくとも、盾くらいにはなれるでしょ。…だから、ね?」


「"ね?"って…。…ハァ、分かったよ。小百合にやらせるわけにもいかないしな」


「よく言った。流石は優しい優しい生徒会副会長サマだね。…チャンスは一度きり、これを失敗すれば…生徒会の負け。…そうなったら、この演奏が終わるまで地面に這いつくばってなきゃならない。…正直、私はそれでも良いんだけどさ」


「それは困る。彼女等は、この学校の秩序をー」


「あー、はいはい。それは分かったから。速さは石頭が追い付けるようにする。ささっと終わらせるよ!」


勇気と鶴城の作戦会議は終わり、揃って茜の前に並び立つ。


「勇気くん、鶴城ちゃん。もう作戦は決まった?それじゃあ遠慮なく!」


「っ、石頭!伏せて!」


次の瞬間、茜の手にした遊戯銃から、赤色の弾丸が数発発射された。勇気と鶴城の顔面を狙った、正確な射撃だ。二人は、反射神経に身を任せ、これをなんとか回避する。


「ちょ、っ、茜センパイ、私達まだ動いてないでしょ。いきなり発砲とかある?」


「ふふっ、動き始めるまで待つ理由がないじゃない」


文句を呟いた鶴城を、茜が冷ややかに笑った。


「デスヨネ。あぁもう、石頭!行くよ!」


「了解した!」


鶴城の言葉を合図に、勇気と鶴城が一斉に走り出す。


(音響装置、及び舞台装置の電源。鶴城がそこに到達すれば俺達の勝利か…っ!?)


勇気の目に、微かだが、右前方に赤い弾丸が飛んでいるのが見えた。勇気達が止まっていれば、まず命中しない軌道だが、走っているのなら話は別だ。それに加えその弾丸は、勇気ではなく、鶴城の方に確実に命中するであろう軌道を描いていた。


(しまった、偏差射撃か!畜生!これじゃ…!)


すると、鶴城が、突如勇気の胸ぐらを掴み、弾丸の軌道に思いきり引き寄せた。


「ぉわっ!?」


結果、弾丸は再び勇気の顔面を赤く染めた。目は咄嗟に閉じていたようだが、その代わりに、液体を思いきり口に含んでしまった。


(…っ!?なんだこれ、辛っ!?)


勇気は、堪らず膝をついた。鶴城は、そんな勇気を満足げに一瞥した後、視線を戻し、音響装置の電源へと向かい走り出した。


「勇気くんを盾に…か、でも、ちょっと遠かったね、鶴城ちゃん」


茜が、そう呟きながら引き金を引いた。刹那、鶴城は、目に突き刺さるような痛みと辛さに膝をつく。数秒の沈黙の後。


「こっちは一応銃なのよ?人間一人盾にしたくらいで凌げると思った?」


と、茜が勝ち誇った。鶴城が、無気力に声をあげる。


「…確かに、私じゃ届かなかったね…、さて、どうしようか、"小百合センパイ"」


直後、先程まで鳴っていた爆音が、プツリと消えた。


「私達の…!勝ちです…!茜先輩…!」


茜が、声のした方へ振り向く。そこには、音響装置の電源を手に持った新藤小百合が、息を切らしながら立っていた。


「小百合ちゃん…!?…ふふ、私としたことが、もう一人を見落としてたなんてね。…ごめんね。皆の夢、守れなかったよ…」


ーーーーー


時は少し過ぎ、場所は保健室。勇気と鶴城は、教員からしばらく安静にするように言い渡され、備え付けのベッドに横たわっている。


「…石頭、お疲れ様」


鶴城が、勇気に気だるげに話しかけた。


「…ああ、お疲れ様。鶴城がそんなことを言ってくれるとはな」


「私も、あの弾丸食らったからね。想定内とはいえ、あそこまで痛いとは思わなかったよ」


「そうか、確かにあれは痛かった」


数秒の沈黙。


「そういえば鶴城。さっき屋上で、"上手く使ったものだね"とか言ってたよな。あれ、どういう意味だ」


「…覚えてたんだ、流石は石頭。それなんだけどさ、忘れてくれない?あれ、口滑らせちゃったんだよね」


「却下。何故あんなことが起きたのか知ってるなら、話してもらうぞ」


「あぁ、そう。面倒臭いな…」


鶴城が、大きな溜め息を一つしてから、語り始める。


「私さ、生徒会に入る前に、ちょっと仕込んだ事があってね。それが、"生徒会の目に触れずにあんなことやこんなことをする方法"っていうの?それを、生徒会に敵対してる人達にばらまいたんだ」


勇気は、鶴城の言葉を理解するのに数秒を費やし、呆れたようにぼやく。


「…輝といい、貴女達姉妹は、とんでもないことをしてくれるな。もう憤る気も起きないよ」


「それはありがたいね、ここで説教されるなんて絶対嫌だったし」


「そうか、…ハァ、忙しくなりそうだな」


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