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閑話 星野結愛の疑問


扉の音で目が覚めた。玄関からの音…?


(…お義兄ちゃんかな?どうしたんだろうこんな時間に)


カーテンを開けて外を見た。見ると丁度、お義兄ちゃんの姿が遠ざかっていくところだった。


(あっちは…、学校じゃないよね?忘れ物を取りに行ったとかじゃないなら…なんだろう?)


……やっぱり、最近のお義兄ちゃんは変だ。記憶喪失になったからといっても、あそこまで習慣が変わるものなのかな?お義兄ちゃんは。早起きをしない筈だし。料理なんてもってのほかで…。


(今こんなこと考えても、仕方ないかな…。……そうだよ、せっかく調べるチャンスなんだから)


身を起こして、部屋の出口へと向かった。



ーーーーー



「……嘘」


お義兄ちゃんの部屋の扉を開けると。私には到底信じられない光景が広がっていた。


(部屋が…片付いてる?)


綺麗に整えられているベッド、真っ直ぐ揃えられている本棚。整理整頓された勉強道具に配布物…


(そんな…、衣類もちゃんと季節別に分けられてる…。えっ、お義兄ちゃんがいつも隠してた成人誌が本棚に!?)


完璧とも言えるほど綺麗な部屋、だからこそ異常だった。私の知っているお義兄ちゃんは、部屋の掃除をあまりしない人。だらしなくて、気分屋で、私無しでは生きていけないような、そんな人だ。


(なんで急にこんなこと……)


もう一度、最近のお義兄ちゃんの行動を思い出そうと試みる。


(今朝…、お義兄ちゃんが料理をした以外に何か変なことはあったっけ?……あれ、そういえば…家を出る前にお義兄ちゃんは何を話してた?)


この日、お義兄ちゃんは"何か"を話していたような気がする。けれど覚えているのは、お義兄ちゃんの真剣な表情と期待だけ。当然大事な話だった筈で、その所為で学校に少し遅れた筈で。


(どうして……どうして何も覚えていないの?)


お義兄ちゃんの言うことを聞き漏らすなんてこの一生で一度もなかった。にもかかわらず、面と向かって話されたことが記憶にない…?


(そんなの…、あり得ないよ)


何かがおかしい、絶対に。少なくともお義兄ちゃんは、ただの記憶喪失じゃない。だけどそれが私にも影響してる?なら、これは偶然に起きた不運じゃなくて、誰かの…。


(……作為的な?…あ、まさか!)


そこまで考えて、脳裏に一人の人物が思い浮かんだ。


(幽さん…、作為的と言ったらあの人だ。今回だってもしかすると…!)


そうと決めつけてみれば話は早い、あの人が関わってしまえば何でもありみたいなものだ。


(…辻褄も合わせられる。あの人なに考えてるのか分かんないし……)


行こう。今すぐに、幽さんの所へ。こんな時間に訪ねるのは迷惑かもしれないけど、お義兄ちゃんの事だもん。


(…なりふり構ってなんていられないよ)


自分の部屋へと立ち返り、急いで着替え始める。


(すぐに出発しなきゃ。出来ればお義兄ちゃんが帰ってくる前に。…お義兄ちゃんに無駄な心配はかけさせない、私が、お義兄ちゃんを守るんだから…!)



ーーーーー



いつも見ている筈の町並みは、すっかり暗くなりその印象を違えている。家から出て数歩、街灯の明かりを頼りに軽く辺りを見渡した。


(幽さんの家は…こっちだ。……あれ?…この方向、まさか)


ふと浮かんだ疑念を心に留めつつ、目的の家へと歩を進めた。


夜の町は、とても落ち着いていた。聞こえる音といったら夜鳥の静かな鳴き声くらいだ。人の気配も、限りなく少ない。私と、前に見える男の人以外は皆寝静まって…。


(…って、あの人お義兄ちゃんだ!)


前に見えた男の人。あの歩き方、あの後ろ姿は間違いない、お義兄ちゃんだ。どうやら、あまりに急いだ所為で追い付いてしまったらしい。


(…声、かけようかな?……ううん、お義兄ちゃんの事だし、心配されちゃうよね。ここは我慢…。……でも、何処に行くんだろう?…やっぱり……)


お義兄ちゃんの姿を気にしつつ、気付かれないように同じ道を進む。薄々分かってはいたけれど、どうやら目的地はお義兄ちゃんも同じらしい。


(……やっぱり、幽さんが絡んでるんだ。…あ、幽さんが出てきた)


「いらっしゃい、星野。まぁ上がると良い」


「…え、「星野」って?」


「んん?…あぁ、呼び方か。ただの区別じゃよ……」


お義兄ちゃんが、幽さんに招かれて入っていった。


(……あれ、幽さん、何かよそよそしくなかった?…いや、それは良いことなんだけど……呼び方も苗字だったし…。でも何か知ってるのは間違いないよね…。……うん、お義兄ちゃんが出てくるまで近くで待ってよう)



・・・・・・・・・・



(…!扉の音だ…)


「…ありがとうな、幽。おかげで気分が晴れたよ」


「ん、それはなによりじゃ。…中藤尊康と仲良くなれたら良いのう?」


「はは…、どうも。…って、どうして知ってるんだ?」


「さぁ、どうしてじゃろうな?」


「……全く。それじゃあまた」


「うむ。…………さて……」


幽さんの言葉を最後に、扉の閉まる音がした。


(…お義兄ちゃんが来た…!一旦隠れて…………)


近くの路地に身を隠す。程なくして、お義兄ちゃんが通りすぎた。心なしか、足取りが軽くなっている様に見える。


(……何か相談をしてたのかな?……もう、悩みがあるなら私に言ってよ…。……うん、お義兄ちゃんが見えなくなった。よし、じゃあ幽さんを問い詰めに……)


「さーて何年に一度の偶然じゃろうな?」


突如、後ろから声が聞こえた。


「うわぁ!?…っ、幽さん!?」


驚いて振り返ると、さっき家の中へ戻った筈の幽さんがどこか嬉しそうに立っていた。


「ま、十中八九必然じゃろうな。何をしに来た?」


「……幽さんならどうせ分かってるんでしょ?嘘は嫌いだよ、幽さん。…知ってること全部……話してもらうね」






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