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10 判明


(…俺は…なんてことをしたんだろう…)


外を月明かりが照らす時間。勇気は、ベッドの上で一人頭を抱えていた。のしかかる罪の意識と、後悔の念。避けなければならなかった道を"ついうっかり"で通ってしまった愚かさ。そんな、幸福とは程遠い感情が、勇気の思考を支配していた。


(自覚が足りなかった…俺はこの世界の生徒会副会長ではないのに徒に提案なんてものをして、…結果的にこの世界に大きく干渉してしまった…。絶対にしてはいけないことだった筈なのに…俺は…)


勇気の提案により、結果的に学校の敷地内に劇場が造られることになった。間接的とはいえ、勇気の言葉がこの世界に影響を与えてしまったのだ。


(…"俺"は"星野勇気"じゃない。意識はしていたはずなんだが…、いざ登校すると"いつものように"振る舞ってしまう。こんなことになるなら、生徒会副会長の代理をしてやろうなんて考えるべきじゃなかった…)


《~♪》


と、軽快な着信音がまるで勇気の思考を引き剥がすかのように暗い部屋の中に響いた。勇気は驚き、疑問に思いつつも携帯電話へと手を伸ばし、それを耳にあてる。


「…もしもし?」


《幽じゃ、すまんな夜遅くに》


「幽…?…どうしたんだ?」


《話したいことがあるんじゃ、ちょっと家まで来てくれんか?》


「…今からか?」


《ああ、そうじゃ。…流石に迷惑だったかのう?》


「……いや、助かるよ、今ちょっと寝付けなくてな…、すぐに行く」


ーーーーー


「いらっしゃい、星野。まぁ上がると良い」


幽は、暖かい笑顔で勇気を招き入れた。が、勇気はその言葉に少々の違和感を覚え、すぐに質問する。


「…え、「星野」って?」


「んん?…あぁ、呼び方か。ただの区別じゃよ、"星野勇気"の事は「勇気」で、"ヌシ"の事は「星野」と呼ぶことにしたんじゃ。多少は分かりやすいじゃろう?」


「…あぁなるほど、そういう…」


すると、勇気の様子を変に思ったのか、幽が眉をひそめる。


「…? どうした星野、元気がないみたいじゃが……全く、ヌシが上の空では話も聞かせられんではないか。また無意味な罪悪感が原因か?」


「…っ、無意味って…!」


「あぁすまんのう、いささか早計じゃったか。まぁ、取り敢えず話してみい」


・・・・・


「…くくく…っ!…くははははっ!」


勇気が、自分の感情を打ち明けてから数秒の沈黙の後。幽の堪えきれなかった笑い声が響いた。


「なっ…幽!俺は本気で…!」


「…くくっ…!っ、ああ、そうじゃな…!すまんすまん…!くははっ!」


幽はいまだ堪えきれない笑いで肩を震わせている。勇気は頭を抱え、恥じらいを色濃く表す。


「…あー…話さなきゃ良かった…!」


「すまんて…!でも本当に無意味な罪悪感だったんだもん…くくくっ…!いいか星野、私は最初に言ったじゃろう?「性格も瓜二つ」って。きっと、"勇気"もヌシと同じことを言ったじゃろう。たとえヌシのやったことがこの世界に影響を与えたとしても、それはきっと、この世界の辿るべき運命と同じ道のはずじゃ。だから、いつも通りに振る舞っても問題はないじゃろう」


「……本当か?」


勇気は訊ねた。


「本当じゃ」


幽が頷いた。


「……そうか…」


「ほれ、気分は晴れたか?」


幽が、勇気の顔を覗き込む。自分を心配してくれているということが、勇気にも伝わった。


「…ああ、大分な。ありがとうな」


勇気は、顔を上げ頷いた。幽は満足そうに微笑む。


「ならばもっと気分を晴らしてやろう、朗報じゃ。"ヌシが何故この世界に来てしまったのかが分かったぞ"」


「なっ、本当か!?」


勇気は、思わず身をぐいと乗り出した。その表情は、嬉しさと期待で満ち溢れていた。


「ぅおぉっ?がっつきすぎじゃ、嬉しいんじゃろうが少し落ち着かんか。今から話すのでな」


幽は、勇気を座らせると、咳払いをひとつして、ゆっくりと喋り始める。


「…ヌシと勇気はな、"この世界"と"そちらの世界"を繋ぐ扉の"鍵"だったんじゃ」


「…鍵?」


「ああ、世界には、他の世界と姿形の全く同じものが二組だけある、それが"鍵"と"扉"じゃ。鍵が"生き物"で扉が"場所"じゃな。基本的には、鍵が扉に接触しなければ世界が混ざるなどありえないのじゃが…ごく稀に、"鍵同士が同じ場所で全く同じ行動をしたとき"鍵が入れ替わってしまう事があるらしい。例えるなら、『全く同じ見た目のペンを同時に落とした』といった現象と同じじゃな」


「…じゃあ俺達は"取り違えられた"のか?」


「そういうことになるな。じゃから、もとの世界に戻る方法は二つ。"あちらの世界の勇気ともう一度全く同じ行動をとる"か"この世界の扉へ行き、自力で戻る"かじゃ。どちらも難易度が高いが…、希望があるのは後者じゃろうな」


それを聞いて、勇気は腕を組み深く考え始める。


「…扉…元の世界と、全く同じ場所か…。手がかりも何も無いんだよな?」


「当たり前じゃ。そんな場所、ヌシにしか分からんのじゃから」


「そうだろうな……ハァ、試練と呼ぶには厳しすぎるな…」


と、幽が励ますようにその手を勇気の肩に乗せた。


「案ずるでない、私も全力で手助けするでのう」


「…感謝するよ、幽。俺も早く、この世界の生徒達に"星野勇気"を会わせてやりたいからな」


「ははっ、優しいのう?見ず知らずの別世界の人間にそんなことを思えるとは」


聞いて、勇気もつられて笑う。


「校則違反者には、あまり優しくしないけどな?」


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