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真夏の光

作者: 葛城響子

 正面から真夏の光が鋭い針となって降り注いでくる。

 今、それを遮るものはこの空には一切無い、太陽の天下だ。

 あまりにも理不尽な眩しさに思わず、目を閉じて日差しをシャットダウンしようとしたが、真夏の太陽は強い。薄いまぶたなど軽く突き通して、真っ白な世界が広がる。

 ちゃぷちゃぷとした水音が耳元で響き、遠くの方で波が引いていく音が聞こえた。

 波に揺られ、漂い、私の身体は一体どこへ行くのか。

 とりあえず、岸からは徐々に遠ざかっているようだ。もしかしたら、このまま沖の方へ出てしまい、戻れなくなってしまうかもしれない。そう思うと少しゾクゾクした。

 何とも面白い話ではないか。と殆ど他人事のように感じながら、太陽によってほとんど乾いてしまった腕を波の中に入れた。

 日差しは痛いほど熱く、海水の冷たさはそれを冷ますのにちょうど良い。

 ふと、日焼け止めを塗るのを忘れたことを思い出した。このままでは黒々と肌が焼けてしまう。しみ、ソバカスが出てくるのは怖くない。だが、日に焼けた後で皮膚がヒリヒリと痛むことを考えると少し気が引ける。

 去年の夏も日焼け止めを塗り忘れて、そのまま太陽に背中を向けて砂遊びをしたら、見事に日焼けして、着替えやシャワーを浴びる時、痛くてかなわなかった。特にひどかったのが寝る時だ。うつぶせて寝るのに慣れていないため、あお向けで寝たのだが、あまりの痛さのためになかなか寝付くことできず、その日は寝不足だった。

 今から岸に戻って塗ろうかなと思ったが、やっぱり面倒なので止めた。後で日焼け跡にローションを塗っておけば何とかなるだろう。

 同じところばかり日差しに当てていると肌が熱いので、浮き輪から降りて海の中に身体を沈めた。冷たくて心地よい感触が一瞬にして広がる。

 足が底につかないため、行き場を失ったように水中をかく。浮き輪に全体重を任せて思いっきりしがみついた。浮き輪がなくても泳げるのだが、あった方が安心できる。プールと違って波があるし、足が底に届かないため、その場に止まるだけでも結構体力がいる。

泳ぐのだって同じだ。海で100メートルを泳ぐより、プールで100メートル泳いだ方がずっと楽なのだ。

 岸のほうをみるとカラフルなパラソルで彩られた白い浜辺が遠くの方にあった。水を掛け合う親子やカップルの姿が小さく見える。その中に友人達も混ざっていた。

此処からは、たった数十メートルの距離しか離れていない。泳いで行こうと思えば、すぐにたどり着くだろう。しかし、あそこと此処では全然違う世界のような気がした。

此処は人が誰もいなくて、とても静かだ。波の音しか聞こえない。

 でも、あそこはきっと沢山の人がいて、にぎやかな笑い声が絶えないだろう。

 潮に流されながら、波に揉まれながら。私は一体何処へ行くのだろうか。

 浮き輪に小さな穴が開いていて、其処から空気が漏れているのに気がついた。一気に空気が抜けるわけでもないので焦ることはない。

 はたして私は岸の方へ戻るのだろうか、それとも、更に沖のほうへと向かうのだろうか。

 浮き輪に頭をうつぶせながら、そんなことをぼんやりと思った。


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― 新着の感想 ―
[一言] 季節はずれですが題名に惹かれて作品を読まさせて頂きました。 リアルな描写なのに感覚的な表現が豊かで、とても読みやすかったです。 内容については隔絶した世界の居心地のよさや不安なんかと、日常的…
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