小さき者たち
とある昼下がり。
都内の某公園で会議が行われていた。
人目につかないように草むらの中でーー
「皆さんお集まり頂き有り難うございます。
それでは早速会議を始めます。今日の議題は人間の横暴について。」
八本足の議長が穏やかに話し出す。
「女郎蜘蛛の議長さん、聞いてくれよ!」
黒く細長い虫が声を上げる。
「はい、百足さんどうぞ」
「俺達が毒を持ってるってだけで人間は仲間を殺すんだ!
俺達だって人間が何もしてこなけりゃ噛みつきやしないのにさ!」
「それは私も同じですよ、百足さん。しかも私の仲間には毒なんて持ってない奴だっているんです。見た目がグロテスクだからって殺された仲間がどれだけいる事か。」
議長がため息をつく。
「あんたたちはまだいいわよ。私たち蟻はねぇ、人間に全く気付かれずに踏み潰されんのよ!」
小さな黒い虫が声を荒げる。
「僕なんて生きてる時は畑の主だの何だの言われて重宝されるのに、ひからんぽつになってたら気持ち悪がられるんだ!」
どこに顔があるか分からない茶色い紐のような虫が熱弁する。
「ミミズさん、そのひからんぽつってのは何の事だい?」
百足が尋ねる。
「ひからんぽつってのは晴れた日に道端で干からびてカラカラになってしまったミミズの事です。」
「なるほど。」
「だからあんた達は贅沢なのよ!私たちなんて死んでても気付かれないんだから!」
「まぁまぁ、蟻さん落ち着いて」
議長がなだめる。
「よぅ、遅れて悪かったな。」
草むらの奥から茶色い虫がカサカサと現れた。
「やぁ、ゴキブリさん遅かったね。」
「ちょっと人間の罠に引っ掛かっちまってよ。あんないい匂いする家があったら思わず入っちまうっての……」
ゴキブリがブツブツ愚痴をこぼす。
「それは大変でしたね。今日は人間の横暴さについて話し合ってるところです。」
「人間の横暴さ?」
ゴキブリが触覚を少し上げる。
「そんなもん今に始まったもんじゃねぇやな。自分達の勝手な都合で生き物を殺しやがって。」
「そういえばあのテレビCM見たかい?」
百足が問いかける。
「あぁ、見たさ。あんな恐ろしい殺虫兵器をおもしろおかしく宣伝しやがって。本当に人間ってのは恐ろしい生き物だよ。」
「しかし私が一番腹立つのはねぇ」
蟻が甲高い声で怒りを露にした。
「犬とか猫とかがあんなに可愛がられてる事だよ!私たちだって同じ生き物なのにちょっと不平等なんじゃない!?」
「何だ、お前ぇも首に鎖つけて人間どもに飼われてぇのか?」
ゴキブリがからかう。
「そんな事言ってないでしょ!私たちの命を軽く扱うんだったら、全部の生き物に同じ様に接しろって事よ!」
蟻が牙をむく。
「しかし、不公平といえば同じ虫の中にもありますよ。人間が勝手に天然記念物とかいうやつに登録した虫は、数が少ないってだけで保護されてますからね。」
ミミズが蟻をなだめながら話す。
「そいつらの数が減っちまったのも元はと言えば人間の仕業なんだけどね。」
「何かやりきれないよなぁ……」
全員がため息をついた。
「やいやいお前ぇら!何を弱気になってやがんだ?今こそ人間どもに復讐する時だろうが!!」
ゴキブリが足を振り回す。
「そんなこと出来やしないよ……」
ミミズは逃げ腰だ。
「そんな事ぁねぇ!俺達虫が全員団結したらどうだ?人間なんて数の上で圧倒出来るぜ?」
「そうよ!このまま黙ってられないわ!人間をこらしめるのよ!」
「そうだそうだ!」
虫達は熱くなり口々に叫びだした。
近付いてくる足音にも気付かない程に。
「今こそ人間に……」
ープチっ
「ママー、虫さん踏んじゃったー」
「まぁ汚いわねぇ。お家に帰ったらお靴あらいましょうね。」
親子は手をつなぎながら仲良く歩いていく。
ふと少女が振り返る。
「どうしたの?」
母親が尋ねる。
「ううん、何でもない」
少女は何か聞こえた気がしたが、すぐに気のせいだと思い立ち去る。
運よく難を逃れたゴキブリがカサカサと草むらに消えていった。




