忘れ物にはご注意を
短編です
傘、スマホ、家の鍵、財布。電車での遺失物は、様々だが、大体がそう言うものだ。そしてその手の問い合わせも多い。スマホや財布は、個人情報の塊だから、返すのも一苦労なんだ。みんな、自分の持ち物はちゃんと確認しようぜ。
ソレと、結構面倒なのが傘だ。似たような柄物が多すぎる。でも持ち主は、自分の傘の柄や色をあまりはっきり覚えていないことが多い。「青っぽい花柄の傘」というワードだけでも、結構な数がヒットする。絞り込めるだけ絞り込んで聞きたいが、こだわりを持って傘を選ぶ人でなければメーカーなどの情報が出てくることは稀だ。頼むから忘れない様に気を付けてくれ。
「あのぅ・・・」
うんざりするほどの遺失物の情報を入力したり検索したりしていると、控えめな声の女性が遺失物センターに入ってきた。
「あ、はい、どうされました?」
「あのぉ・・・探してほしいんですけどお・・・私がというよりも、彼の、なんですけど・・・」
やばい、このパターンは面倒だ。自分の物ならすらすら応えられても、知り合いの物を代わりに取りに来た場合は、時間がかかるんだ。経験済みだからわかる。せめて本人が取りに来いよなぁ。
「あのぉ・・・“約束”を忘れてしまってるみたいで・・・・」
「・・・・やくそく・・・・ですか?」
やくそくって・・・約束?・・・この文字列で他に割り振れる漢字ってあっただろうか・・・。まったく思い出せないんだけど。
「彼、言ったんです。必ず会いに行く、それまで待っていてほしいって・・・」
待て待て待て・・・何の話だ?ココはあくまで遺失物、失くした“物”を保管してる場所なんだよ。約束って、そんな形のない物、探せるわけがない。
「手紙でもずっとやり取りしてたんです・・・」
形、あったなぁ・・・。いや、だとしてもだ、彼氏?が残した約束が果たされないからって、普通、電車の遺失物センターに探しに来るか?そう言うのって探偵とかに頼んだほうが良いんじゃないの?
「あのぉ・・・えっと・・・とりあえず、その・・・失くした約束をしたお相手?にまた手紙を送ってみたら・・・」
「去年までは普通にやり取りで来ていたんです!・・・なのに・・・戦争に向かうって書かれた後・・・音信不通になってしまって・・・」
女性の目から涙がぽろぽろと零れてきた。やめてくれぇ・・・俺はただの駅員なんだよぉ・・・。
「半年前のニュースではもう、戦争は終わったって・・・なのに彼からの連絡はないままで・・・」
どうしよう、俺はどうしたらいいんだ・・・。
「何度も何度も手紙を書いて送ったんです・・・でもその返事はありませんでした・・・彼は、私に会いに来るって、約束してくれたのに・・・忘れてしまったんでしょうか・・・」
「・・・そもそもその、彼と言うのは・・・」
「二年前にSNSで知り合った、海外の方なんです。最初は詐欺かと思って警戒してたんですけど、話していくうちに、だんだん好きになっちゃって、彼もずっと可愛い、愛してるって言ってくれたんです・・・。会ったこともなかったけど、私達愛し合ってるんです!初めはSNS上のやり取りしかできなくて、軍人さんって、規律が厳しいみたいで。でも私、一目でいいから彼に会いたくて、もちろんSNSに写真はUPされてましたけど、本人に会いたくて。SNSから遡って彼の家の住所を突き止めたんです!ハッキングって結構簡単なんですね、驚いちゃった。それで私、嬉しくなっちゃって、手紙を書いたら、ちょっと汚い、カタコトの日本語で返事をくれて、SNSでは日本語普通に使ってたのに、やっぱり書くのは難しいんですかね。そんなところも可愛いなって、思っちゃって。住所は海外だけど、会いに行くねって書いたら、戦争に行くからって、止められて・・・それで・・・。約束したのに、一年も連絡がなくてぇ・・・」
彼女はそのまま顔を覆って本格的に泣き出してしまった・・・・。
——・・・えぇっとぉ——
俺はこういう時どうするべきでしょうか・・・。




