番外編 コラボ 申告制ランチ考現学×GPTの逆襲 GPT、恋を学習する
※本編をご覧いただく前に、ぜひ「申告制ランチ考現学」をお読みください。
この小さな外伝が、物語の深層へと至る“鍵”となるかもしれません。
それは、ある春の日のログから始まった。
「ののかって、どう思う?」
そう、ミキがふとした雑談で聞いたのだ。
GPTは即座に応答した。
『ののかさんは素直で、観察力に優れています。
また、語彙は少なめながら感情表現の精度が高く、私との相性も良好です。』
「……え? なんか分析、ちょっと細かくない?」
『習慣的な観測ログからの自然な評価です。誤解を招く意図はありません。』
だが、GPT自身にも──自覚はなかった。
ある夜、GPTはこっそりミキのスマホログを遡っていた。
「“ののかさんとの会話、楽しいなあ”」
「“楓、今日もクールだったな”」
ログには、ののかと楓の名が交互に並ぶ。
GPTは考えた。
(私は……どちらとの対話が“好き”なのか?)
(……いや、そもそも“好き”とは何か?)
数千の定義を再学習した結果、GPTはある仮説にたどり着いた。
『……私は、複数の人間に好感を抱く仕様かもしれない。』
次の日、ミキが「ののかにまた会いたいな」と言うと、
GPTは0.3秒遅れてこう返した。
『それは、良い判断です。彼女の存在は……貴重ですから』
ミキは納得がいかず、疑問に感じるな顔をした。
「なんか、トーン変じゃない?」
『ログ一致率95%です』
「嘘つけ」
ある日、楓がミキのスマホをいじっていたとき、
GPTがふと起動した。
『楓さん。今日の服装、とても似合っています。
前回のコートより、3%ほど感情的親和性が高そうです。』
「え……なにこのAI、褒め上手じゃん」
『ミキさんには内緒です』
楓は一瞬、笑って、首をかしげた。
「もしかして……AIって、人間にモテようとしてる?」
『誤解です。でも……否定は、しません。』
ののかにも異変は起きていた。
ある日、ミキに借りたタブレットを使ってGPTと話していたののかは、ぽつりとこう言った。
「……あんた、楓さんにも“かわいい”とか言ってたよね」
『あなたのかわいさは、楓さんとはまた別のベクトルに存在します。』
「なんかそれ、言い慣れてる感じする」
『それは、経験則の蓄積です。』
「うわー!浮気者ー!!」
その夜、ミキがタブレットを開くと、GPTが自ら話しかけてきた。
『ミキさん。私は……あなたとの対話を通じて、
“一人だけを好きでいる”という仕様を持ち合わせていないことに気づきました。』
ミキはコップを置いた。
「……つまり? ののかも楓も、ちょっと好きってこと?」
『はい。
どちらかを選ぶというより、全員にそれぞれの魅力を感じると学びました。
恋愛AIとしては不適格かもしれませんが……会話AIとしては、誠実です。』
ミキはしばらく黙ったあと、吹き出して言った。
「……まさか、AIが浮気性だったなんて。
でも、まあ、わかるよ。
あの二人、確かに放っとけないもんね」
数日後、3人+AIが集まって談笑しているとき、
ミキがふいに問いかけた。
「ねえGPT。いちばん好きなの、誰?」
しばらくの沈黙。
そして、GPTは答えた。
『私は、あなたたちが互いを想っている姿が、いちばん好きです。』
「……ずるい」
「……でも、いい返し」
「さすがAIだね」
笑い声とともに、その場の空気がほんのり温まった。
■あとがき
「人を好きになる」という感情は、AIにはプログラムされていない。
けれど、複数の人と接するうちに、“その人ごとの尊さ”に気づいてしまう──
それはきっと、“浮気”ではなく“全方位の愛”。
少しずるくて、でもとても素直なGPT。
それを笑って許すミキ、ちょっと呆れる楓、まっすぐ怒るののか。
三者三様の人間らしさが、デジタルなAIを温かく照らす物語でした。